第2章 少女と神
第100話 ダリア編1
ブレス発動から1分ほど前……。
「リュージはまだなの!?」
「ユーナ、落ち着いて。彼なら大丈夫よ、貴女のお兄さんでしょ」
「いつブレスを出してもおかしくないくらいの凄いエネルギーですね」
確かに、ルーシィの病室から見えるドラゴンの首が凄い光を放っている。
あれってドラゴン自身はなんともないのかしら?
火を吹く怪獣とかも口の中どうなってるのって思ってしまう私には理解し難い光景だ。
それにしても、ユーナったら本当にリュージのこと好きなのね。
自分の命も脅かされているときに、進んで雪のところに向かったのはちょっと格好良かったかも。
それともただのロリコンなのかしら?
ビリビリビリ
小刻みな地震が起きる。
やめてよね、こんなときに。
「いけない、ユーナさん! 今すぐ跳んで!」
「だって……リュージや雪が!」
ドラゴンの首にあった光が口のほうへ移動していく。
どうやら、ドラゴンブレスとやらを吐く瞬間のようだ。
でも、ユーナはやっぱり動けなかったか。
仕方がないわね……リュージ、次に会えたら謝るから!
「私が跳ぶわ、とりあえずユーナの家に!」
私の能力はトラベラーっていうの。
場所だけでなく時間の移動も可能なレベル7の能力だ。
それでも欠点があって未来には数秒後くらいしか行けないし、見たことのない場所に行くことも無理。
写真とその場所の地図さえあれば行けるのが、この世界のテレポートっていう魔法より優れているところかな。
ヒュン
ユーナの家の前に戻ってきた。
数秒も経たないうちに……。
ドゴォォォン
遥か彼方の夜闇が明るくなる。
私の世界でもいろんな兵器見たことがあるけど、それらに匹敵するくらいの威力のようだ。
さしずめ、ドラゴンっていうのは生きる核兵器ってところかしら?
……ある意味、私の世界よりおっかないわね。
「うわぁぁぁん! リュージぃぃぃ! 欽治ぃぃぃ! 雪ぃぃぃ! ナデシコぉぉぉ!」
「うっううぅ……リュージさん、ごめんなさい……」
ユーナのあんなに取り乱したところ初めて見たわ。
そうよね……大事な仲間……もとい眷属だもんね。
ツ――
あれ……私も涙?
そうか……欽治も雪も死んじゃったんだ。
雪は赤ん坊の頃から能力研究所で一緒だったし、雪を迎えに来る欽治とも仲が良くなったのよね。
大事な友だちを失っちゃった……誰かのために泣くことって、こんなに胸が痛いものなのね……。
「うわぁぁぁん! 欽治ぃぃぃ、雪ぃぃぃ!」
「ダーリン……ダーリン! うわぁぁぁぁぁん!」
ユーナと身体を抱き寄せあって、日が昇るまで泣き続けた。
ただ、ひたすらに涙が枯れるくらい泣き続けた。
落ち着いてユーナの家に入ったあと鏡を見ると……。
あはは、酷い顔。
両目も真っ赤になっちゃって。
「ほら、ユーナさん……しっかりして」
「………………」
ユーナは放心状態だ。
こんな表情の子を何度か見たことがあったな。
私の世界では戦争が絶えない。
小さい頃からなんとなく、ニュースや特番で不幸な目に遭った人たちは嫌というほど見てきたけど、どれも身近に無い別の世界のことだと思っていた。
でも、それは自分が幼かっただけ。
能力が開花されていくと、自分の目で見ることが容易にできた。
最初はただの好奇心だった。
ただ、ニュースで見た戦争が起きている場所に行ってみたいと思っただけだった。
身の危険なんて、この能力ならすぐに逃げれるし、ただ映画の世界と現実の世界が幼い頃には同じにしか思えなかったのだ。
だが、それは私の考えがいかに幼稚だったのか思い知らされた。
危険な目に遭った……それだけじゃない。
戦場では皆が皆、悲しみや怒りといった負の感情に溢れていた。
私になにかできることは無いかと、考えるようになったのもその後すぐのことだった。
私の得意分野は音楽だったし、難民キャンプで慈善活動を始めたときに、歌や演奏で元気になってもらえればと思い慈善活動の空き時間に歌い始めたのがすべてのはじまりだった。
戦場の歌姫なんて言われニュースやネットで取り上げられ始めたのは私が14歳になったころだ。
そこから、スポンサーが付いたりなんか勝手に道ができちゃってアイドル活動を始めることとなった。
お金のため?
うん、私の歌やライブのほとんどは戦争や病で苦しんでいる人たちのところへ行っているわ。
なんか、歯痒くてあまり大きな声で言ってはいないんだけど。
ユーナが私の世界に来たときには、すごく感動してくれたっけ。
女神として当然のことよって言ってたな。
それでユーナも協力してくれて……一緒に歌を歌うことになった。
今では一番の友だちであり仕事仲間であり、私の大切な伴侶だ。
きゃっ……言っちゃった!
とにかく、今のユーナは悲しみに包まれているの!
私の大事な人がこんな状態なのを黙って見ていられない。
一度、ホスピリパに戻って様子を見て来よう。
もしかしたら……もしかするかもしれないし。
「ダリアさん……」
ルーシィを部屋に連れて行ったはずのニーニャに声をかけられた。
「何か用?」
「ホスピリパに……行ってはいけません」
この人はいつも鋭い。
これも猫特有の感なのかしら?
「貴女は母親が助かったから良いかも知れないけどユーナは……ユーナのお兄さんは……」
「もう少し待ってください。お母さんが目を覚ませばきっと……」
何かを含ませているような言いかただ。
そういえば、ルーシィだっけ?
凄く長生きしている人なのよね?
見た感じじゃ、私と同じくらいの年にしか見えないのに……。
「何かあるの?」
「今は確実とは言えませんが……それに……」
曖昧な答えかただ。
もしも生きていたら、もしも瀕死の重傷だったら……ここで大人しく待っているほうが後悔することになる。
「はっきり言えないなら行くわ。生きていたら助けてあげなくちゃ」
「ブレス直後の現場は高濃度の魔素で汚染されています! 近付くだけで死に至るかと……」
「えっ? 汚染って……」
汚染……どの世界でもそうだ。
強力すぎる武器を使うと必ず地球に傷痕を残す。
数年どころじゃない、何千年、何万年も……。
私はその状況をよく知っているため、大人しくニーニャの警告を聞くことにした。
「ルーシィは、いつ目を覚ますの?」
「麻酔で眠っているだけですから。長くても半日でしょうね」
「そう、それなら待っててあげる。……ユーナには言わないほうが良いよね?」
「……そうですね。お母さんからお話を聞いてからでもいいかと……」
「起きたら教えて。ユーナの所へ行ってくるわ」
「ええ」
ユーナの部屋はとても可愛らしい。
年相応と言えば聞こえは良いが、中にはとても難しい本が置いてあったりする。
本人は自慢げに話すんだけど。
コンコン
「ユーナ、入るわよ」
「………………」
返事が無い……当然か。
ガチャ
部屋を見渡すとユーナがベッドの上で両膝に顔をうずめ塞ぎ込んでいる。
私はそっとユーナの隣に座り肩を寄せる。
今は何を言っても無駄だ……言葉はいらない。
一緒にいてあげることが大切なんだ。
静寂が部屋に響き渡る。
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