第99話 リュージ編99
廊下も辺りの病室も血の海だ。
魂魄剥がしとかいう技の叫びのせいでどれだけの被害が出たんだ?
欽治とナデシコは無事だったが、果たして雪は無事だろうか?
雪の病室に入る。
「くか――……スピ――……むにゃむにゃ……り……」
「り?」
また、変な寝言だろ。
今はそんなのに突っ込んでいる場合じゃない。
急いで1階へ向かわないと。
相変わらず、凄い量の涎を出して眠っている。
ごくごくごくごくご……
もう、変態も引っ込んでいてくれ!
お前らはドラゴンブレスで消滅していいからな!
しかし、雪の顔色を見ると毒はすっかり抜けたようだ。
そうじゃなきゃ、ナデシコが俺たちの救援に来ないか。
とにかく、急いで1階のルーシィさんのいる病室へ行かないと。
窓から外を見るとディーテはまだ力を貯めているようだ。
ドラゴンブレスって時間かかるのか?
まぁ、時間があるに越したことは無いがな。
「ごく、ごくごく……」
まだ、ごくごく民がいるのか?
それにしては、はっきりと聞こえたな。
まさか、魂魄剥がしで被害に遭わなかった生き残りがいるのか?
助けてやりたいがパッと見たところ、爆発した肉片や血の海で人の形を保っているものは見当たらない。
このグロさには正直、目を閉じていたいのだが。
「ごくごく、うぅ――」
変なうめき声は聞こえるのに辺りには誰もいない。
すまないが……見捨てさせてもらう。
探している時間は無いんだ。
雪をベッドから抱え上げようとしたが、なぜかベッドから離れない。
何か、つっかえているのか?
雪を無理矢理抱え上げようとすると手が出てきた。
「うわっ!」
驚いて声を上げてしまった。
雪のベッドに誰かいるのか?
「ごくごく……ううん……雪ちゃんの匂いと涎……最高にゃ……」
……えーと、リアル変態がここにもいたわ。
杏樹……生きていたのかよ。
いや、生命力の塊のようなこいつがあんな攻撃で死ぬわけがないか。
しかし、何で雪のベッドなんかに?
ナデシコが一緒に寝てても、こいつなら強引にベッドに入り込んでくるだろうし、変態の考ることは理解しなくていいか。
とにかく、こいつは放っておいても大丈夫だろう。
雪を掴む杏樹の手を振りほどき、おんぶして廊下に出る。
ズガァァァン!
ドゴォォォン!
轟音が辺り一面に響き渡る。
走りながらだが、廊下の窓から外を見るとディーテが再び煙に包まれて見えない。
まさか、ナデシコが何かやったのか?
「グルルル! ……おとなしくしておくのじゃ……もうすぐ貯まるぞ……くひひ」
だが、大してダメージは与えられていないようだ。
相変わらずディーテの喉元が光り輝いてエネルギーを貯めこんでいるようだ。
喉元の色からすると巨大な雷撃でも放つのだろうが、町から離れればなんてことはない。
ナデシコが屋上から再び、ディーテに向かって高く飛び上がる。
小太刀を両手に持って、今までに見たことのない構えだ。
こ……これはまさか見たこともない型か?
「剥戒慟の型……」
北海道だってぇ!?
地方区分では北海道だけど、都道府県名でも1つしか無いし……。
それにあの構えは剣道で胴を狙う瞬間に似ているな。
明らかに今から胴を狙いますって言っているようなものだぞ。
「剥戒胴……覇孤堕帝」
函館だとぉぅ!?
明らかにディーテの巨大な胴体を狙って急接近するナデシコ。
「無駄じゃ……神龍の鱗はどんな刃も通さぬ」
ガキィィィン!
ディーテの胴を狙ったようだが、硬い鱗に弾かれる。
やはり、まったく効いていない。
こいつはそこら辺のモンスターのドラゴン種と同じとは考えないほうが良さそうだ。
しかも、あれだけの高度。
ナデシコも攻撃を頻繁に出し続けるのも難しいだろうし。
何とかディーテに掴みかかれたら良いんだろうが、奴の身体に高電流が常に流れているのは見ればわかる。
「剥戒胴……刹穗路……」
連撃で……札幌だとっ!?
だが、さっきより少し上に当てている。
さっきのやや右上か……何か意味でもあるのだろうか?
「無駄じゃと言っておろう」
ガキィィィン!
無理だ、まったく刃を通さない。
「剥戒胴……悪絶留……」
三連撃!?
しかも、小樽だって!?
だが、当てている部分は二連撃目の左……はっ!
北海道の地図に書いてある通りに当てているのか?
まさか、三連撃以上ある技か?
ガキィィィン!
「愚かな……もういい、好きなだけ当てるがよい。まったく効かぬがな」
「ん……わかってる……剥戒胴……濃墓裏蔑」
四連撃目……次は登別か。
三連撃目のやや右下……はやり、その地名の場所通りに当てている。
北海道は広いからな……技もさらに細かく分けられているのか?
全部、当てた後はどうなる?
これって、まさか秘孔とかそういう類じゃないよな?
バチバチバチッ!
くそっ、ディーテのブレスがさっきより激しく光り始めた。
間に合え!
この病院も迷路みたいで、ルーシィさんの病室までよけいな回り道をさせられてしまうんだよな。
「り……りんご豆腐……」
さっきの寝言の続きね!?
うん、りんご豆腐かぁ……あったら美味しそうだよね!?
って、バカ――!
雪を助けて間に合わなかったなんて洒落になんないぞ!
「剥戒胴……不羅乃」
ガキィィィン!
五連撃目は富良野か……北海道の地名と相手の胴体を重ねているのか。
次はディーテのみぞおち辺りを狙って当てたな。
確かに富良野って北海道のほぼ真ん中に近いが……。
「小娘……何度やっても無駄じゃと言っておろうが……さすがに妾も腹が立ってきたぞ」
そりゃ、ダメージを受けなくても一方的に当てられたらなぁ。
だが、神ってもっと寛容でもいいんじゃないですか!?
ディーテは短気なんだろうか?
「やっぱり……面倒くさいな……この技……剥戒胴……王美碑露」
ガキィィィン!
六連撃目は帯広……俺もそろそろ飽きてきたぞ。
ナデシコは屋上に降りては、ダリアの能力でディーテの懐に飛び込み技を当て続けている。
一度、相手の懐に潜れればその後は能力で一気に飛び込めるのか。
やはり、ナデシコは頼もしい味方だな。
ここで失わせるわけにはいかない。
うまく、ブレス発射と同時に逃げてくれると思うが……。
ヒュン
「これで……ラスト……剥戒胴……躯死炉……」
何度当てたか途中から数えるのをやめたが、最後が釧路か。
構えがさっきと違って……まさか、突き!?
ガキィィン……ビシッ……ビシビシッ……
ドスッ!
「うぎゃぁぁぁぁ!」
当てる場所がまるで違うのにディーテの鱗を貫通して、右胸に小太刀二本が突き刺さる。
「はい……えっと……オマエハ……モウ……シンデイル? ……だったけ?」
やっぱり、秘孔だったのね!?
まさか、ディーテが爆発するのか?
ザマァ見ろだ、お前がおもちゃみたいに扱って爆死させた被害者と同じ目に遭うがいいさ。
………………ん?
「小賢しい小娘が! じゃが……それもこれで終わりじゃ!」
ディーテの喉元の激しい光りが口腔内へゆっくりと移動していく。
まさか、エネルギーが貯まったのか?
ヤバい……1階の病室まで、とても間に合わないぞ!
ディーテが首を大きく振り、口を開けた瞬間。
「雷龍のぉぉぉ……ブレス!」
ドッ!
ゴォォォォォォォォゥン!
そこからは、一瞬だった。
激しい閃光と共に周りのものすべてが無に帰る。
俺自身も身体の痛みを感じる暇も無かった。
………………。
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