第98話 リュージ編98

「おのれ……おのれ、おのれ、おのれぇぇぇ! 許さぬぞ、人間共ぉぉぉ!」


 ディーテは完全に逆上している。

 まさに怒髪冠を衝くって感じだ。

 しかし、予想外のことが起きた。

 あとはナデシコが何とかしてくれると思っていたのだが……。


「あたしは……攻撃できないから……リュージかユーナ姉……あとはお願い」


 どうやら、ホークから刷り込まれた情報のせいで攻撃できないらしい。

 というか、この世界の人族は神族に暴力を振るというのはご法度みたいだ。

 常識すぎてホークもホムンクルスを作る際に当たり前のこととして刷り込んだのだろうけど……これじゃ、よけいな足枷でしかない。

 いや、そもそも本当に人族が神族に危害を加えると神罰が下るのか?

 誰か確かめた人はいるんだろうか?

 ナデシコ……大丈夫だ。

 お前はホムンクルスでキメラなんだから人族でも無いぞ。

 だから安心して攻撃しろ。

 ……なんて言うと周りから凄い批判受けそうだし。

 ニーニャさんの好感度を下げるわけにはいかない、これは俺が作った自分ルールに反するからだ。

 でも、ホムンクルスって人造とも言うから人族なのか?

 よくわからんな。


「ええい……ここまで妾の怒りを買った人族は初めてぞ? 良いじゃろう……そこまで妾の怒りを素直に受けぬならば、醜くて嫌じゃが……妾が普通の神と同じと思ったことを後悔させてやろうぞ! 真の神罰を刻みつけて二度と逆らえぬようにしてやるわ!」


 神罰だって?

 ディーテが力を込み始めると、身体が光り始める。

 ……それより今までの攻撃は神罰では無かったのか。

 

「あれはまさか!? いけないっ! ユーナさん、テレポートでここから避難できますか!?」

「ふぇ……なんでよ?」

「神罰が下ります! 最悪、この町の住人すべてを巻き込み消滅してしまいますよ!」


 これから神罰とやらが来るのか。

 だが、ニーニャさんのこの慌てよう……逃げるが勝ちだがホスピリパの住人はどうなる?


「ニーニャさん、それじゃホスピリパに住んでいる人たちはどうするんですか!?」

「……諦めるしかありません。あまりにも時間が無さすぎます」

「ルーシィさんや雪ちゃんだっているんですよ!」

「今からここに連れてくるにも時間が足りませんよ。本当なら私だって……私だって……ううっ!」


 ニーニャさんも本当は諦めたくないようだ。

 母親を置いてまで逃げなければならないほどヤバい状況だって言うのか。

 俺もこの町には、それなりに思い出もあるんだよな。

 パリピな医者もファーストフード店の店員さんもダリアの熱狂的なファンの人たちだって多い。

 ん……ダリア?

 そうだ、ダリアの能力ならなんとかなるんじゃないのか?


「ダリア、お前の力ならみんなを救うことができるんじゃないのか!」

「うん……何がよ? あと、お前呼ばわりされるの嫌なんだけど?」

「す……すまん。ダリアの能力で過去に戻って住人を先に避難させることはできないか?」

「ん――、前も言ったけどさ……移動してもこの時間軸じゃ助からないわよ」


 そうだった……俺も窮地で混乱しているのか?

 今、この時点でこの時間軸はこうなるって決まってしまったんだった。

 それじゃ、他には何かあるか?

 誰だって万能じゃない……こうなった以上はホスピリパの人たちを置いて逃げるしか道は無いのか……諦めることも必要なのか……。

 

「ユーナさん、早く!」


 ドゴォォォン!


 爆発音……上空からだ。

 ディーテのいた場所が煙で何も見えない。


「なんだ?」

「爆発音?」

「こんな夜中になんだよ……」


 窓から見える範囲だが、いろいろな建物が明かりをつけだした。

 この爆音だ……目が覚めても当然か。

 マズいな……上空にいる神族を見て、住人たちがパニックにならなければいいんだが……。

 一人でも多くていいから、今のうちにできるだけ町から離れて欲しいが……。

 スピーカーでも住人全員に知らせられるわけが無いし……いや……危険を知らせることくらいならできるか?


「ユーナ、ホスピリパの住人みんなに危険だと知らせたいんだが……以前、使ったブレインピクチャーとやらで伝えられないか?」

「目を閉じている人には伝わるけど……混乱しないかしら? 何も知らずに死んだほうがマシかも知れないわよ?」

「死ぬこと前提で決めるな! こういうのは最後まで足掻くんだ……それが人ってもんだろ! 諦める奴は勝手にさせればいいさ……頼む!」

「ユーナ、やってあげなさい。私も何も知らずに死ぬよりかは住人たちが最後まで足掻くのを応援するわ。全員は無理でも一人でも多く助かるなら、助けてあげましょうよ」


 ダリアも俺と同じ思考の持ち主なのかもな。

 意外と優しい奴だったんだな。

 守銭奴だが……。


「ダーリンが言うなら……待ってね」


 ユーナが詠唱を始める。

 さっきの爆発音で上がった煙はまだディーテを覆って見えない。

 ナデシコが起こした竜巻もとっくに消えてしまっているし、無風みたいだな。

 

「ホスピリパにいる住人たちよ……大切なお話があります……」


 ユーナじゃなくて、ダリアが代わりに話しているのか。

 そのほうが良いかもな。

 ユーナだったら、よけいなトラブルが起きそうだし。

 ダリアはこの町の住人のほとんどが知っているからな。

 俺は窓から上空をずっと見ている。

 少しずつ煙が晴れてディーテの姿が……。


「何だよ……あれ……」

「あれは……神罰じゃない!?」


 え……違うの?

 ニーニャさんも知らないことが起きたのか?


「グガァァァ!」


 ドラゴン?

 ディーテはどこに行った?

 ディーテがドラゴンになったのか?

 

「あれは神龍しんりゅう!? 人神がどうして!?」

「な……なんだ、あれは!?」

「みんな、いいから逃げろ!」


 町の人々は逃げることを優先しているようだ。

 若干、パニックに陥ってはいるが……ドラゴンの姿だから逃げるのを優先してくれたのかもな。

 どちらにしてもユーナとダリアのおかげだ。

 だけど……神族って龍が本当の姿なのか?

 相手がドラゴンなら欽治もやる気になって、いろいろと好都合なんだよな。

 窓から欽治が倒れている1階を見てみる。


「はわわわ! ドラゴンだ、ドラゴンだ! 身体、動いてよぉぉぉ!」


 予想通り……。

 酷い傷で立てないようだが、仰向けになったまま上空を見て興奮している。

 しかし、立てないんじゃな……。


「はわわわ……ドラゴン……ドラゴン!」


 ふぁっ!?

 ナデシコも!?

 いや、こいつの半分は欽治なんだよな。

 だが、ナデシコならイケるか。

 神罰なんて気にするな、やってしまっていいぞ!


「ドラゴン……でも、神様……ドラゴン……でも、神様! はわわわ、リュージ! どうしたら……いいの!?」


 混乱しているのか。

 確かに相手は神だ。

 龍化した神なんて想像つかないもんな。

 だが、あえて言おう。


「大丈夫だ! あいつは今は神じゃない! ドラゴンだ、コテンパンにしてやれ!」

「う…・・うん! 行って……くる!」


 くくく、チョロいな。

 騙しているようで罪悪感は少しあるけど、この町を守るためだ。


「グルルル……神罰の時間じゃ! 雷龍のブレスで……町ごと、消え去るがいい!」


 ドラゴンブレスだって!?

 ディーテの首が大きく反り返り、首元が光り輝いている。

 

「ナデシコ、先にブレスを何とかしてくれ!」

「高度が高すぎて……届かない……どうしよう」


 なんやてぇ!

 さっきはディーテより高く跳んだだろうが!

 って、欽治の協力があったからか。


「欽治、何とかナデシコを跳ばせないか!」

「くっ! な……何とかやってみます」


 太刀を杖の代わりにし、何とか立ち上がろうとしているがかなり厳しそうだ。


「ナデシコ、屋上へ!」

「うん……わかった」


 間に合うか?

 いや、間に合ってくれないとダメだ。

 俺は今、できることを最大限にするしかない。

 ルーシィさんと雪を回収しに行かないと。

 二手に分かれるか?


「ユーナ、ニーニャさん、それとダリアも! みんなでルーシィさんの病室へ行け! 俺は雪ちゃんを連れてくる! ブレスが放たれた瞬間に跳ぶようにしておいてくれよ!」

「そんな……それじゃ、ナデシコはどうなるの!?」

「ユーナ、あいつはダリアの能力も持ってるだろ。ヤバくなったら確実に跳ぶさ!」

「え……あの子、私に何となく似ていると思ったけど……何かあるの!?」

「ダーリン、後で教えてあげるわ」

「ほら、早く行け!」


 三人が病室から出てルーシィさんのいる1階へ階段を下りていく。

 俺は雪のいる病室へ走り出した。

 頼むから間に合ってくれ!






 


 

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