第97話 リュージ編97

 ニーニャさんはディーテの雷魔法を防ぐのに精一杯だ。

 空間に突然、電気の玉が発現しニーニャさんの周囲、さまざまな方向から彼女を目がけて稲妻が襲っていく。

 そのすべてを重そうな盾で防ぐなんてさすがだ。

 

「リュージ、何をビビってるの! 早くやっちゃいなさい!」

「ユーナの言う通りよ。早く、お兄さんとして威厳を見せなさい」


 二人、そろってうるさい奴らだ。

 ダリアには真実を伝えてやるか? 

 愛輝のおかげでお前は目を覚ますことができたんだぞ。

 ちょっとは愛輝の仇を討って……とか言えないのかよ?


 バチッ!


「あうっ!」

「あと何発で盾の耐久値がなくなるかのぅ……耐久値が少なくなると妾の電流も少しながら流れてきておるようじゃの? いろんなところが焦げておるぞ……んん?」


 ヤバい……俺のニーニャさんが危ない。

 もう四の五の考えていてもどうしようもない……やってやる!

 ……でも、怖いから背後から斬りつけよう。

 少しずつ、ディーテの背後に回る。

 ニーニャさんをいたぶるのを楽しんでいるようで、俺にはまったく気が付いていないようだ。


「ほれほれ! 直撃すると真っ黒こげじゃぞ。あっははは、楽しいのぉう!」

「くっ!」


 よし背後に回った。

 ここからなら……。


「いっけぇぇぇ……リュージ!」

「むっ……なんじゃ?」


 ユーナのアホ――!

 気付かれたじゃねぇか!

 このまま行くしかねぇ!


「うぉぉぉ!」

「ほう、珍しい剣じゃ。魔法剣の一種かの?」

「これは……神殺しのゴッドスレイヤーソードだ!」

「何じゃと……まさか、伝説の!?」


 格好良い名前をつけてイキってみた……やべぇ、恥ずかしぃ。

 だが、武器の名前に臆したのか手が止まったぞ……こいつはチャンスだ。

 ディーテに当たりさえすれば、こいつのヤバさを味わうことになるんだからな!


「うぉぉぉ!」


 ヒョイ


「わざわざ食らうわけなかろう。弱小従者と戯れ中じゃったが、小僧そんなに妾に滅してほしいのか? 仕方あるまい……順番を変えて汝から先にやってやろうかの?」


 軽々と避けられちった……逆にヘイトを取ってしまうとか我ながら情けないぞ。

 やっぱり……無傷の相手に飛び込むのは迂闊だったか。


「小僧……汝には罪人の子として最大限に苦しんでもらうぞ……おおっと、安心すると良い、死ぬときは汝の妹も同時に黄泉に送ってやるぞ。ヘルヘイムの王に手土産を持たせてな……あっははは!」


 バチッ! 

 バチバチバチ


 ディーテが両手を掲げると空中に大きな光の玉が現れ始める。

 ニーニャさんに使っていた魔法の威力どころじゃないのは見ればわかる。

 あんなの黒焦げどころじゃないだろ!?

 直撃なんてしたら黒焦げどころか跡形も無く消え去ってしまう。

 最大限に苦しめるんじゃないのかよ……こんなの即死しちゃうよ!?


「ユーナ……あの歌でバフをかけてあげましょ」

「えっ……あっ! さっすが、ダーリン! 情けないリュージも頑張ってるし、たまにはエールを送ってあげないとね」


 ダリア、何を言っている?

 二人が突然、歌い始める。

 これはドリアドの教会で歌った曲か?

 そういえば、この曲を聞いたアルス大陸の人たちのステータスが爆上がりしたんだっけ……まさか、それを狙ってる?

 すまん……俺には、なぜか効果が無かったんだが。


「この曲は? す……凄い。力が湧き上がって……HPも回復していく」


 まぁ、ニーニャさんには効果があるだろうな。

 でも、傷が癒えてよかった。

 ボロボロのニーニャさんは見るのも辛かったからな……それより、俺どうすればいいんだ?

 

「なんじゃ……また急に歌い出しおって、小僧に送る鎮魂歌か? 実にくだらんの」


 本当に鎮魂歌になってしまいそうですけどね。

 くそぅ……ここまでか?

 

「ほぉれ、妹の歌でも聞いて消え去るがいい! ライトニングブラスター!」


 バチィ!

 

 雷撃が俺に向かって襲いかかってくる。


「リュージさん……避けて!」

「あっははは、無駄じゃ! これは簡単には避けられんぞ……もう遅いわ!」


 くっ……。


「ちっっくしょぉぉぉ!」


 神殺しの剣を無我夢中で振り回す。

 当たりさえすれば……こんな奴でも!

 

 バシュゥゥゥ


 ……なんだ、ディーテの雷撃が消えた?

 

「ぐ……がが……こ、小僧……きさまぁ!」


 ディーテの胸を俺の神殺しの剣が突き刺している。

 いや、実際にはビームの出力部分が伸びて長槍のようになっている。

 これって、まさかビームの出力部分は形状が変わるのか?

 持ち手は相変わらず筒の部分のみだが……。


「やった!」

「ユーナ、最後まで歌うのよ! 貴女もプロでしょ!?」

「う……うんっ!」


 まさか、武器にもバフが効いているのか?

 ダリアはそれを知っていて、歌い出した?

 だが……これなら!


「うぉぉぉ!」


 ザシュ!

 バチッバチバチバチ


「ぎゃぁぁぁ!」


 神殺しの剣を横に振り、ディーテに刺さった胸部から左腕までを切り裂く。

 威力はやはり申し分無いな。

 軽いから俺が少し力を入れただけで身体を裂いてしまうとは……近未来兵器、恐るべし。

 このままやっちまうか……愛輝の仇だし、こいつは完全に人類の敵だ。


「トドメだ!」

「ふ……ふざけるで無いわぁぁぁ!」


 ブワッ!


 ディーテが雷光に包まれる。

 バリアみたいな感じなのか、ビーム部分が屈折してディーテの身体に当たらない。

 あと少しっていうところで……なんとしても当てないと!


「妾が……神の中でも最高位の妾が半神なんぞに……許せぬ! 許せぬぞぉぉぉ!」


 くっ……逆上した奴が何をするかわかったもんじゃないのは救恤の使徒戦で痛いほど思い知った。

 トドメを刺せるなら今すぐにでもやってしまいたいのだが、バリアのせいでビーム部分がまったく当たらない。

 

「遊戯も終幕じゃ……この町ごと汝らを消し炭にしてくれるわ!」


 フワッ


 ディーテが窓から外に出て、上空に昇っていく。

 あれじゃ届かないぞ。

 

「くそっ! あと少しなのに!」

「リュージさん……落ち着いてください。焦ってはダメです」


 ヴ……ヴヴヴ


 筒から出ているビームが弱まってきている。

 まさか、電池切れか?

 早すぎだろ……いや、この出力だ。

 消耗が早くて当然か。

 でも、よく単3電池でこんな出力が出せるよな。

 構造がまったくわからんぞ。

 

「この町もろとも消え去るがいい! ライトニング……ドライヴァァァ!」


 町を覆うほどの光の塊がディーテよりも上空に顕現する。

 あんなものを放つつもりか?

 あんなもの落ちたら……確かに町ごと消し炭になってしまうぞ。

 どうやって防げば良いんだよ!?


「……任せて」

「行きます!」


 えっ……窓から颯爽と飛び出す二人の影。

 

「神倒の型……荊鬼剣!」

「ん……ありがと」


 ナデシコと欽治やないですか!?

 欽治が太刀を投げ、ナデシコがうまく欽治の投げた太刀を足場にさらに高く上空に飛ぶ。


 ドンッ

 ブシュッ!

 

「あうっ!」

 

 欽治はまだ無理だったか……そりゃ、そうだ。

 内臓が破裂していたんだぞ。

 起き上がるだけでも辛かったろうに。

 欽治はすぐに窓下の庭に倒れこみ、芝生の上でナデシコを見ている。

 3階から飛び降りても、その程度なのはさすがだよな。


「急襲の型で……いいかな?」

「誰じゃ! 邪魔するでないわ! たかが人族ではこのディーテは止められぬことを思い知るが良いわ!」

「ん……知ってる……だから……あれを壊す」


 ドンッ


「き……貴様! 妾を蹴りおったなぁぁぁ!」


 ディーテを足場にし、さらに上空に飛び上がるナデシコ。

 まさか、あのデカい雷球を壊すつもりか?

 小太刀を二本取り出し、十字型に交差させている。

 

「魅殺沙鬼剣」


 ヒュッ


 宮崎県だとっ!?

 雷球の近くで二本の小太刀と共にナデシコが横に何度も回転をする。

 しばらくすると大きな竜巻が発生する。

 エエエ……んな、アホな……今度は風属性の技だが……かなり無理があるよな。


「あはっ……凄いや……僕でもまだ小さな竜巻を出すので精一杯なのに……」


 いや、欽治……小太刀を両手に持って、くるくる回るだけで普通は竜巻なんて出ないからな。

 雷球に竜巻が当たると、みるみるうちに雷球が小さくなっていくように見える。


「まさか、風属性じゃと!?」

「さすがですね……風で属性反応を起こすなんて」


 属性反応か……ホークから聞いたときは魔法の深淵とか言ってたが、要するに別属性を重ね合わせると反応が起きるってことか。

 確かに無意識でやっている人は多いかもしれないが、理解すると魔法の使い方も増えてくるのかもしれないな。


「ニーニャさん、あれって……?」

「あの雷の塊が風によって拡散して小さくなっているのですよ」

 

 なるほど、拡散か。 

 ディーテの切り札も無くなったわけだし、あとはナデシコに任せるとしよう。

 

 


 

 


 


 

 

 

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