第96話 リュージ編96
ニーニャさんから激しい怒りを感じる。
本当に優しい人だ……愛輝とはあまり話したことも無いのに、こんなに悲しんでくれている……まさか、一目惚れしていたというわけじゃありませんよね?
ニーニャさんが鞭を力強く握りしめている。
よほど、ディーテにこの怒りをぶつけたいんだろう。
だが、神族に手を出せないという人族の制約のために我慢しているってとこか。
違う大陸に住んでいるだけで神族も同じ世界の民なのに、どうしてそんなことになっているんだ?
その制約外にいるのが半神である俺とユーナっていうのもいまいち腑に落ちない。
神の血が流れていれば、この世界の制約から外されるってところなんだろうけど。
「うう……ん」
「ダーリン!」
ダリアが目覚めたようだ。
ユーナがダリアのベッドに近付き声をかける。
「う、ううん……あれ……ユーナ? ここは……なっ……何よ、この惨状……ちょっと……えっ……本物じゃないよね?」
「ダーリン、ダーリン! ふぇぇん、良かったよぉ!」
ダリアに熱い抱擁をし、大粒の涙を流すユーナ。
ダリアが目覚めたなら、ここから逃げることも可能か。
だが、愛輝を殺されて欽治やナデシコたちを置いていくことはできないし。
……そういえば、ディーテはどうやってここに来た?
ホークを取り返しに来たのは、ディーテのすぐ横でふわふわと浮いているホークを見ればわかる。
ディーテが姿を現したときに同時に現れたんだよな。
消えたのはディーテの仕業だったらしい。
だが、そのディーテはホークがこのホスピリパの総合病院に居ることなんて知る由もないはずだ。
こんなに早く見つけ出し、ここに来れるだけの術を奴は持っているってことか。
ダリアのような能力か魔法のテレポートかを確認しないと逃げても、すぐに追ってこられてしまう。
「ディーテ!」
「……おい、小僧……妾の名を気安く呼ぶでないわっ!」
バチッ
「グランドウォール!」
くっ、話をすることもできないのか?
とっさにユーナが魔法で防いでくれなければ、俺は今ごろ感電し黒焦げになっていたかも知れない。
「リュージ、何してるのよ! 相手は女神様なのよ、呼び捨てなんて寛容な私じゃなければ許されないわよ!」
そういうものなのか……なんて、今はどうでもいい。
土の壁に身を隠すながらディーテに問いかける。
「ホークを取り戻したなら、さっさと消えろ! 日が昇り始めてるぞ……勇者たちと一緒に魔界へ進出するんだろ!?」
「あっははは! 誤解しておるようじゃの……妾は勇者に協力してやっているのではないぞ。退屈じゃから、たまたま勇者のそばにいるだけじゃ……それにしても……くはは……仲間の男を殺されて、その相手に去れと言うとは何とも情けないのぅ!」
「そうよ、リュージ! 見損なったわ!」
「リュージさん、酷いです……」
「え……え……男ってそこで倒れている私の歩くATMが!?」
あれれ……この会話は何かマズかったか?
ニーニャさんの好感度が激下がりじゃないか!?
運営さん、ごめんなさい!
やり直しをさせていただきませんか?
「さて……退屈しのぎに……まずは気に入らぬ弱小従者、お前からじゃ」
「くっ!」
ニーニャさんが構えを取る。
ディーテが片手を天に掲げ、魔力を込めはじまる。
「瀕死になっても安心するがよい。そのときは汝を肉体から剥がし眷属にしてやるぞ……プラズマブレイク」
バチッ!
激しい閃光とともに電撃が流れる音がする。
ものすごい光で何も見えない。
目くらましと攻撃の両方を兼ねた魔法って感じか……視界がゆっくりと戻ってきた。
すぐにニーニャさんのほうを確認すると大盾がニーニャさんを守っている。
「ほう……弱小従者……さっきからいろんなものを取り出すが……汝はウェポンマスターであったか?」
「……それが何か?」
「土属性の盾など珍しいものを持っているのは武器使いくらいじゃからのう……しかし……あっははは、こいつは愉快じゃ! たまには暇つぶしにおもちゃと戯れるのも良いものじゃのう」
ディーテのあの余裕にあふれた自信。
神だからってだけではないような気がする。
それにニーニャさんは制約とかいうもののせいで絶対に攻撃しないだろうし、このままじゃ、俺の嫁(予定)が危険だ!
真正面から戦うなんて、俺には無理だが……俺も何かできることは無いか?
ポケットにあるのは回復薬とこのわけのわからないニーニャさんから借りた円柱状の筒のみ。
そういえば、単3電池を入れることができるんだよな。
近くに愛輝のウェストポーチが落ちている。
どうやって外れたのか知らないが、勇者の城にいたときに愛輝から聞いた。
あのウェストポーチに電池が入っている可能性は高い。
次にディーテが動いたときがチャンスだな。
「その盾の耐久値がいつまでもつか楽しみじゃ……ほれ、プラズマブレイク!」
バチィ!
ドゴーン!
「くぅぅぅ!」
今度はニーニャさんの頭上から稲妻が落ちる。
高位の雷属性攻撃魔法だけあって、どの空間からでも雷撃を出せるのか?
ニーニャさんが大盾を掲げ電撃を防ぐ。
あの大盾を片手で軽々と……ニーニャさんってかなり力持ちだったんだな。
「それそれそれ――……次はどこから来るかのぉ! 一度でも当たればおしまいじゃぞ……あっははは!」
ニーニャさんは防御に徹するしか無い……どこでも発現する魔法はかなり厄介だ。
だが、いずれはニーニャさんも疲れて反応速度も落ちてしまう。
急がないと……今なら……ニーニャさんを注視している今ならチャンスだ。
そっと動き、ウェストポーチを手に取り中身を見てみる。
小型ドローンに盗聴器、監視カメラ、いろんなガジェットが入っている。
……どれもストーカーが持っていそうなものばかりだな。
愛輝……やはりお前は……最後は格好良かったぞ。
それより電池だ。
単3電池は7本入っている。
今は1本ありゃ十分だ。
筒に入れて蓋を閉じる。
あれ……何も起きないぞ。
電池の極は合っているし、スイッチみたいなものはどこにも見当たらない。
「あれ……リュージ……貴方、なんでそれを持ってるの?」
ダリアが俺の持っている筒を見て聞いてくる。
「ダリア……これが何か知っているのか?」
「知ってるも何も、それって軍人なら誰もが持っているものよ」
「あ……思い出した。私もダーリンの世界で見たことがあるわ」
ダリアの世界って俺の時代より何千年も未来の世界だよな?
ダリアの世界の軍人なら誰もが持っているもの?
軍人だから、やっぱり武器であることは違いないんだろう。
それをなんでニーニャさんの旧友が……今度聞けばいいか。
「使いかたってわかるか?」
「振ればいいのよ。振ると出てくるはずよ」
振ると出てくる?
何が……それは聞かなくてもなんとなくわかる。
この筒がダリアの時代のものからして何となく予想は付いた。
言われた通りに思い切り振ってみる。
ブゥン
き……キタ――!
ビーム〇ーベルじゃないか!
すっげぇぇぇ!
いや、このサイズならビーム〇ーベルというかライト〇イバーか。
実体の無い剣だからか、凄く軽いし。
でも、なんでニーニャさんの友人がこれを?
同じ従者に異世界未来人でもいたってところか。
「凄いわ……リュージ。それであの高飛車な女神をやっちゃいなさい!」
「エネルギー残量に気を付けてね。あんたの妹のためにも頑張んなさいよ」
ええ――、やっぱ俺がやるっきゃ無いのか?
雪が救恤の使徒と戦ったときも近未来兵器で勝てたし、このライト○イバーならいけると信じるしか無いか。
「あっははは! そろそろ、その盾も耐久値が無くなるようじゃぞ!」
「くぅぅぅ……このままでは……」
ニーニャさんがそろそろ限界か?
覚悟を決めてやるっきゃねぇ!
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