第95話 リュージ編95

 愛輝の身体から無理矢理、引き剥がされた霊体だって?

 ……愛輝の格好だからか、怖くも何ともないな。

 よく見ると、やっぱり幽霊って足は無いんだ。


「女神殿、吾輩は何をすれば良いのでござるか?」


 え……喋れるの!?

 

「愛輝……大丈夫か!?」

「……」

「おいっ! 愛輝、俺だ! 無視をするな!」 

 

 愛輝が俺の呼びかけに応じない。

 どういうことだ?


「小僧、何も知らんようじゃのう? この霊体はすでに妾の眷属じゃ。妾以外の言葉は届くわけ無かろうて……」


 愛輝が眷属だって!?

 そういえば、さっきの女性の幽霊を倒したときもニーニャさんが眷属とかなんとかって言ってたな。


「女神殿、吾輩は……何をすればいいでござるか?」

「そうじゃのう……まずは手始めにあそこの弱小従者でも軽く捻ってやってもらおうかの?」

「了解したでござる!」


 霊体の愛輝がニーニャさんのほうを向く。

 さっきの女性の幽霊みたいに浄化させることは、ニーニャさんにとっては簡単なんだろうけど、それはつまり愛輝の完全な死を意味する。

 あの霊体を元の身体に戻すことがもしできるのなら何とかしてやりたい。

 

「ニーニャさん、愛輝を……」

「ええ……やれるかどうかわかりませんが……何とか試してみます!」


 さすが、ニーニャさん。

 わざわざ全部言わなくてもわかってくれるなんて、これはもう愛の力ですね!

 いつ、結婚しようか……ディーテが邪魔だし、その後にでもどうっすか?

 愛輝の幽霊が走る構えを取る。

 霊体なのに、タックルでもするつもりか


「行くでござるよ! スーパー……ゴースト……カミカゼ……」


 いや……それはアカン!

 何なのっ……自爆するの!

 そんなのしたら助けるもんも助けられなくなるだろ!


 ジャキ!


 ニーニャさんが光り輝く鞭を召喚した。

 えっ……それで愛輝をシバきまくるおつもりですか!?

 何て羨ま……ゲフッゲフッ!


「愛輝さん! 正気に戻ってください……ホーリーウィップ!」


 ニーニャさんが突撃してくる愛輝に向かって鞭を振り下ろす。

 あれも光属性の攻撃武器か……魔法で攻撃という概念が存在しない光属性も武器に付与すれば光属性攻撃になるのか。

 これは勉強になるな……あとは付与する方法さえ勉強すれば俺でも何とかできそうだ。


 バシッ!

 

「へぶし!」


 光属性攻撃は幽霊に対して当たるのはどの世界でも共通なのか。

 肉体があるときの愛輝に比べて動きもそれほど早くないし、鞭で叩かれ続ければ愛輝も正気を取り戻すかもしれない。

 けど……そのときに霊体が戻るべき肉体があのままではいずれ腐敗が始まってしまう。


「ユーナ、魔法で愛輝の肉体をアンデッド化しないように保存できるか?」

「ふふん、それくらいのことはお茶の子さいさいよ。リュージ、誰に向かって偉そうに口を聞いているの……本物の女神の私に不可能なことあるわけ無いじゃない!」

「それじゃ、さっさとしてくれ!」

「そうね……何がいいかしら?」


 バチッ


「きゃっ!」


 稲妻がユーナの足元に落ちる。


「何をしようとしているか存ぜぬが下手な手出しはさせぬぞ。あの弱小従者が冥界に落ちるところを大人しく見ているがよい……」


 くそったれ、ディーテの奴は完全に遊んでやがる。

 愛輝の肉体にも何もさせてくれないのかよ。

 

「ダーリンは無事よね……あの悲鳴で何事も起きないのが幸いだわ」


 確かに……あの悲鳴でダリアは爆発してないな。

 欽治やナデシコも無事だと確信したいが、雪はどうだろう?

 みんな、あの悲鳴で何事も起こっていないと良いんだが……と言うより、ナデシコはこの異常に気付いて駆けつけてこいよ。

 重症の欽治やルーシィさんはいいとして、ナデシコはこの騒ぎで駆けつけて欲しいものなんだが……まさか、雪の病室で一緒に寝てるのか?

 呼びに行ってみるか、あいつがいれば戦局も一気に変えられるかも……足を少し動かしてみる。


 バチッ!

 

 稲妻が足元に落ちる。

 

「どこへも逃さぬぞ? そこで大人しく見ておくのじゃ……次は汝ら大罪人の子らの番なのじゃからな?」


 くそっ……部屋から出ることも許してくれないようだ。

 ナデシコが気付いてくれるまで待つしかないのか。


「女神殿のために……吾輩、頑張るでござる!」

「愛輝さん! 身体に早く戻ってください! 本当に死にますよ!」


 愛輝のスーパーゴーストなんちゃらを躱し、鞭で叩き続けるニーニャさん。

 くそぅ、羨ましすぎるぞ……愛輝!

 それにニーニャさんの呼びかけにも応じないとは許せん!


「あっははは! これは本当に愉快じゃ……実に、実に愉快じゃのう! 弱小従者よ、その眷属はもう身体には戻れはせぬわ。楽に浄化してやるほうが良いと思うぞ? あっははは!」


 ディーテは完全に楽しんでやがる。

 神族ってみんな、あんなに悪趣味なのか……愛輝を操って同士討ちをさせて……本当に人間をおもちゃとしか見ていないように思えてくる。

 

「貴方の――ハートに――コロニーを――」


 ダリアのスマホから着信音が室内に流れる。

 これってダリアの有名な曲だよな?

 

「むむっ……これは……どこかで……聞いたような……気がするでござる」


 愛輝の動きがピタリと止まる。

 

「なんじゃ……誰かレクイエムでも歌い出したか? じゃが、無駄じゃ」

「そうか……鎮魂歌なら……」

「「落として――私だけを――」」


 何かに気付いたようにダリアの着信音に沿ってユーナも一緒に歌い始める。

 ユーナには考えがあるんだろう。

 そうじゃなきゃ、いきなり歌い始めるなんてことはしないはずだし。


「おぉぉぉ……そこで寝ているのはダリア嬢ではござらぬか」


 ダリアのベッドに向かい始める愛輝。

 あれ……これってヤバくね?


「そうでござったぁぁぁ! 吾輩はなんと愚かなことを!」


 愛輝が頭を抱え、困惑してるように見える。

 ダリアの歌で自我を取り戻しつつあるのか?

 

「ええい! 我が眷属よ、何をしておるのじゃ! さっさと弱小従者を殺すのじゃ! 言うことを聞くのじゃ!」

「やかましいでござるよ、このクソババア!」

「なっ……クソ……バ!?」


 ディーテの命令に反した!?

 まさか、眷属状態が解けたのか?

 それなら、早く自分の身体に戻れ。


「ダリア嬢……今こそ目覚めて……吾輩たちファンにエールを与えてやってはくださらぬか」


 だから、ダリアは呪術で眠ってるんだって!

 それに幽霊がダリアの枕元に立つな。

 怖い夢でも見たらどうするんだ。

 

「我が眷属よ……なぜ言う事を聞かないのじゃ!」


 ディーテの声など無視をして、愛輝が俺のほうを向く。


「リュージ殿……ダリア嬢の熱狂的ファンとして……布教活動を頼むでござる」


 いや、別に俺はダリアのファンじゃ無いんだが……。

 って、急に何を言い始める?


「愛輝さん……貴方……もしかして……」

「ニーニャ殿、先程は済まなかったでござる……この詫びは今ここでダリア嬢の復活で返させてもらうで……ござる」


 枕元に立った愛輝がダリアから何やら黒い霧のようなものを取り出していく。

 愛輝はそれを口に入れ食べていく。

 何を食べているんだ……呪いか?


「愛輝さん……ダメです!」

「「貴方の――ハートに――コロニー……」」


 すべて食べ終わった後、愛輝が黒く染まっていく。


「リュージ殿……布教活動は毎日100人が……ノルマでござるよっ!」


 バシュ


 そして、愛輝が霧散して消え去ってしまった。

 ……おいおい……冗談だよな?


「愛輝さん、貴方って人は……」


 愛輝と接点が少なかったニーニャさんが悲しんでいる。

 俺はニーニャさんのそばに寄り声をかける。


「えっと、愛輝は……」

「呪術と共に消えました。成仏でも無く……消失です……もう輪廻転生さえ……」


 消失って、さっきの霊体の霧散か?

 それってつまり……愛輝は……。


「愛輝さんの魂魄を身体に戻すことができれば何とかできると思っていたのですが、その魂魄が消失した以上は……もう」


 死んだ……あの、愛輝が?

 そこにある愛輝の身体はもう亡骸ってことか?

 ふざけるな、何をやってやがるんだ!

 ホークに移してダリアを解呪するんじゃ無かったのかよ?


「なんじゃ……つまらん。興覚めじゃの……弱小従者よ、喜べ! 直接、妾の手で神罰を下してやろう」

「貴女って人は! それが神のすることですか!」


 ニーニャさんが激昂している。

 俺もブチ切れ寸前だったが、ニーニャさんの激しい剣幕を見て我を取り戻した。



 


 



 

 


 


 

 

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