第51話 リュージ編51

「いい加減に同じ魔法を使うのやめなさいよ!」

「おやおや、魔法特化型の第3形態は魔法が売りなのですよ。貴女も魔法特化のようですね。ここは少し魔法勝負といたしましょうか?」

「いいわ、話に乗ってあげる。女神の私を甘く見ないことね!」


 確かに第2形態は近接特化だったよな。

 落ち着いてスリードにアナライズをかけてみる。

 筋力327、知力392632、精神力237451……。

 ふぁっ!?

 なんだよ、これ!

 完全な魔力特化型だ。

 ユーナの知力は986。

 勝負にならないだろ!?

 

「けけけ、まずは手始めに……」


 スリードが右人差し指を前にした瞬間、火の玉がユーナに飛んでいく。


「無詠唱魔法!?」

「ユーナ、避けて!」

「きゃっ!」


 ドゴォン!

 ボォォォォ


 火の玉が当たった建物が大きく燃え広がっていく。

 

「けけけ、うまく避けましたね。ちなみに今のはファイアです」

「嘘よ、ファイアって炎系最弱魔法じゃない! 今のがファイアのはず無いわ!」

「それでは、お次は……」


 またもスリードがユーナに右人差し指を向ける。

 その瞬間、氷の塊がユーナに向かっていく。


「やっぱり無詠唱だ」

「ユーナ!」

「何なのよ、もう!」


 ガァン!

 ペキペキペキ


 また、うまく避けたものだな。

 ユーナって意外と動体視力が良いのかな?

 さっきまで凄い勢いで燃えていた建物が一瞬で凍り付いている。


「今のって、まさかアイス?」

「けけけ、そうですよ」

「またまたぁ、噓つきは泥棒の始まりよ!」


 いや、本当のことだろう。

 愛輝のエアーも扇風機じゃなく、竜巻だったし。

 ユーナ、いい加減認めてやれ。

 格上の相手だよ。


「さてさて、お次は何が飛んで来るでしょうねぇ」

「ふふん、甘いわね! フラワーフレイム!」

「なっ!」


 スリードの周辺に火の花びらが舞い散る。


「さすが、ユーナ。やるじゃない!」

「まぁね、避けながら詠唱していたのよ」


 メラメラメラ


 スリードが逃げる隙も無く広範囲が燃え上がる。

 これで逝ってくれ。


「えっ!?」


 パァン!


 スリードの周辺から一瞬にして火が消し飛ぶ。

 奴の身体はまったく燃えていない。

 スリードの周りにうっすら壁みたいなものが見える。

 防御魔法か?


「けけけ、貴女も無詠唱ができるとは……これは楽しめそうですね」

「えっ!? ……そ、そうよ。女神の私にかかればどんな魔法もお茶の子さいさいよ!」


 いやいや、さっき少しずつ詠唱してたってダリアに言っていただろ。

 スリードには聞こえていなかったのか?


「では、もう少し威力を上げるとしましょう」


 またユーナに向けて人差し指を向ける。

 

 ドォン!


「きゃぁぁぁ!」


 え?

 何を出した?

 見えない魔法?


「痛っ!」

「ダーリン! 大丈夫!」


 ダリアの右膝から血が滲み出ている。

 

「ええ……大丈夫よ」

「けけけ、さすがに見えませんでしたか」

「今のはエアーアイアンね? 圧縮した空気の塊を相手に当てる攻撃魔法」

「おやおや、魔法特化だけあってお詳しいようですね」

「当たり前よ、私だって使えるんだから!」

「ほう、では早打ち勝負と行きま……しょぶぁぁぁ!」


 ヒュゥゥゥ

 ドゴーン!


 スリードが凄い勢いで吹き飛ばされる。

 欽治か?


「よくも、ダリア嬢を! 至高のアイドルに傷を付けるなど!」


 愛輝がキレている?

 パラライズで痺れていたはずじゃ?


「吾輩は本気で怒ったでござるよ! お主はダリア嬢のことしか考えられないようにするでござる!」


 ガコッ、ゴトゴト

 

「ふぅ、今から楽しい遊びを始めるところだったんですけどね。先にゴミを片付けるとしましょうか……インストールヘル!」


 スリードは何事もなかったように立ち上がり、愛輝に向けて人差し指を向ける。

 愛輝の頭上に死神が現れ、大きく鎌を振り上げる。

 これは即死魔法か!?

 愛輝……鎌を避けろ!

 

 ブワッ!

 

 死神が鎌を振り下ろしたがそこに愛輝の姿は無かった。

 

「ブハッ!」


 スリードのほうを見ると愛輝がスリードの腹に膝蹴りを加えている。

 よくもまぁ……あの一瞬であそこまで移動できるもんだな。


「ぐがが……が……が」


 スリードは腹を抑えて苦しんでいる。

 あのスピードからの膝蹴りだ。

 いくら愛輝の攻撃力が弱くても衝撃力は相当だろう。

 だが、今がチャンスだ。

 愛輝、やってしまえ!


 グゥゥゥ


「小腹が空いてきたでござるぅ」


 んもう……肝心なときにこれだよ!


「ごほっごほっ! おのれ、ゴキブリみたいにチョロチョロと!」


 スリードが両手を愛輝に向ける。

 

「これなら避けれまい!」

「愛輝、横に逸れなさい! ブリザードアロー!」


 ユーナの手元から巨大な氷の矢が一直線に放たれる。

 愛輝が相手をしている間に詠唱をしていたのか、さすがだ。


 バリバリバリ

 

 氷の矢は辺りを軌道上を凍らしながらスリードに向かって飛んでいく。

 

 ヒュン


 愛輝はダリアのもとへ移動したようだ。

 

「甘いわ、こんなもの!」


 スリードが防御魔法を張る。


 バリバリバリバリ!


「受け止めたわね、それっ! もう一発、アイスアロー!」


 小型の氷の矢が数本、ユーナから放たれアイスアローがブリザードアローに当たる。


 ピキピキピキッ


 ブリザードアローの勢いが増し、スリードのバリアにヒビが入る。

 同じ氷属性を加えることでブリザードアローの威力を上げたのか。

 そんな使いかたもあるんだな。


「おのれ、どいつもこいつも!」


 スリードは必死にバリアの修復を試みているようだ。

 ヒビが直っていくが、ブリザードアローの威力が強いのかすぐにヒビが入る。

 

「まだまだぁ、アイスアロー連射よ!」


 何本ものアイスアローがブリザードアローに吸収されていき、勢いがさらに増す。

 

 パリィン

 バリバリバリバリバリ!


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 スリードの腹にブリザードアローが刺さり貫通する。

 刺さった部分から氷が侵食し始め、スリードの身体全体を徐々に凍らせていく。


「凄いです! 女神様、次は僕と相手を……」

「ユーナ、やったわね!」

「まあね、あんなの雑魚よ! 雑魚!」

「吾輩は小腹が空いて、もう限界でござるよ」

「さぁ、まだまだならず者は残ってるわ! この調子で一気に片付けるわよ!


 よし、今のうちにあいつらにステルスをかけて住民の救助に向かうとするか。

 

 バリィン!


 凍ったスリードがゆっくりだが動き始める。


 バリバリバリバリバリ


 関節部分の氷が大きな音を立てる。

 

「もう許さんぞ……貴様ら」


 ぎゃぁぁぁ!

 凍った状態で動かれると気味が悪すぎる。

 

「あらあらぁ、まだ生きているの? でも、そんな状態じゃ何もできないでしょ!」

「へへん、ダリア嬢をケガさせた報いでござる! ば――か、ば――か!」


 おまえら、キレている奴を煽るなっ!

 何をしだすか、わかったもんじゃないぞ!


「初めてですよ。ここまでコケにされたのは」

「やぁい! お尻ペンペンでござるぅ!」

「ちょっと、あんた! 汚い尻見せたから30万ゼニカね」

「承知したでござる」

「きゃはは、ウケる――!」


 余計に煽ってんじゃねぇぇぇ!


「けけけ、人をイライラさせるのがお上手ですねぇ……」


 ジョワ!


 一瞬でスリードの氷が蒸発し、白い煙がスリードを覆る。


「大サービスですよ……お馬鹿さんたちに真の恐怖を与えてあげましょう! 私の真の姿をご覧なさい! ハァァァァ!」


 煙のせいでスリードの姿は見えないが、最後の変身?

 

「させないわっ! 欽治、やっちゃいなさい!」

「最後の変身……真の姿! はわわわ!」


 アカン!

 まるで聞いちゃいねぇ!

 愛輝はどうだ!?


「お、おなかがもう限界でござるぅ」


 ほとんど、ミイラになってりゅぅぅぅ!

 





 

 

 

 

 


 

 

 

 

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