第50話 リュージ編50

「くくく、さっきの上玉はつい力が入ってぼろ雑巾にしてしまったからな。お前は勇者殿に献上する前に味見をさせていただくとしよう」


 ダリアはスリードに軽々と片手で頭部を掴まれ持ち上げられたままだ。

 

「い、痛い! 痛いって、さっさと放せっての!」

「おっと、どうもこの身体では力の加減が難しいようでな」


 どうする?

 助けないといけないのはわかるが、男の俺は容赦なく痛めつけられて惨めに殺されるのがオチだ。

 欽治は気絶をしたままか?

 今なら欽治のところまでは行けそうだ。

 ポーションには余裕があるし、今が使いどきだろう。


「では、その服を切り裂いて生まれたままの姿を拝んでやるとしよう」

「い、いやぁぁぁ!」


 ヒュン


 ダリアの姿が消えた。

 トラベラーの能力で逃げたのか?

 だが、掴んでいるスリードも一緒に跳んでしまうのでは?


「ふぅ、間一髪でござる……」

「あ、あんた……」

「ダリア嬢、大丈夫でござるか? 吾輩がバイトに行ってる間に何があったでござる?」


 愛輝か!?

 そういえば、ここ数日間、家にいなかったよな?

 しっかりと脳内から消去してしまっていたが。

 でも、お前が来てもなぁ……杏樹はどうしたんだ?


「助かったわ、愛輝。さすが、私の眷属ね!」

「あんた、私を助けたから5万ゼニカね」

「了解でござる!」


 しっかりと金を渡してんじゃねぇ!

 ダリアもどんな理由で金取ってんだよ!


「なんだ、貴様は?」

「それはこっちのセリフでござるよ。国民的アイドルに何をしようとしていたでござるか?」

「男に用はない……消えろ」


 ゴゥン!


 また、高速移動しやがった。

 一瞬で愛輝のところまで間合いを詰め、いたぶるつもりか?


 ヒュン!


「何!?」


 愛輝がダリアとともに消える。

 

「ユーナ殿、ダリア嬢を連れてもっと離れておくでござる」

「貴方はどうするのよ?」

「吾輩はダリア嬢を酷い目に合わせた奴に布教するでござるよ」


 こんなときまで布教とかやめてくれ。

 

「くくく、逃げ足だけは速いようだな?」

「お主が遅すぎるだけに思うでござるが?」

「何だと? くっくっく……癇に障る野郎だ!」


 ゴゥン!


 愛輝、そこから離れろ!

 って、ポケットに両手を入れて何を突っ立って……ハッ!

 

「MUSIC……START!」


 どこからともなくダリアの曲が流れてくる。

 

「ぶぼへ!」


 ヒュゥゥゥ


 スリードが上空に吹き飛ばされる。

 愛輝はどこだ?

 辺りを見渡すと両手にペンライトを持って神速ヲタ芸をしている。

 早すぎて見えねぇ!


「あれはヲタ芸の基本技、OADからニーハイオーハイとソイヤを途中で挟む一連の動きじゃ。あの動きまで神速で……あやつ、やはり出来るな!」


 また、どこからか説明おじいさんキタ――!


「ブボボボボ!」

 

 上空に打ちあがったスリードは地に着くことなく、愛輝のヲタ芸により連撃を与えられている。

 ダリアの曲が流れ終わる約4分半、スリードが地に落とされることは無かった。

 俺は様子をうかがいながら欽治のそばに行き、ポーションで回復をさせた。


「リュージさん、助かりました」


 良かった、思ったより軽症で済んでいる。


「大丈夫か、欽治。お前が一方的にやられるなんて初めて見たぞ」

「僕はもともとそんなに体力が無いし、今まで一撃目で片が付く戦いばかりだったので……」


 ま、言われてみればそうか。

 ステータスは相変わらず筋力極振りのせいで体力は1だし。

 打たれると弱いんだよな、攻撃特化って。


「今は愛輝さんが戦っているんですね……あれ、戦っているんですか?」


 お前の言いたいことはわかる。

 たぶん、愛輝にとっては必死に布教、もといヲタ芸をしているだけなのだろう。

 不用意に近付いたスリードは巻き込まれただけのように見えるしな。

 おっと、ダリアの曲が終わるようだ。


 ドォン


「がっ……はっ……」

「ふぅ、ダリア嬢の素晴らしさが理解できたでござるか? ……って、何を寝ているでござるか!」


 スリードがゆっくりと立ち上がり、こう言い放つ。


「ふ、ふざけやがって! 俺が一方的に……許さん! 許さんぞ!」


 うわぁ、もう完全に頭にきちゃってるじゃないか。


「許さんのは吾輩のほうでござる! ダリア嬢の神曲をかけてあげたのに、見ずに寝ているなど!」


 いや、お前のヲタ芸に蹂躙されていたんだけどね。

 

「光栄に思うがいい! 2度目の変身まで見せるのは貴様が初めてだ!」

 

 2度目……また変身をするのか?

 さっきの変身で左肩の傷も回復していたし、また変身されたら厄介だぞ。


「変身? 何を言っているでござるか?」


 愛輝は知らないのか。

 あいつの変身中の大きな隙がチャンスなんだ。

 何とか説明してやらないと。

 でも、今、近付くのは危険だな。


「欽治、今がチャンスだ。愛輝と共にあいつを……ふぁっ!?」

「2度目の変身、凄い! 2度目の変身、凄い! はわわわ!」


 俺もはわわわ!

 また、バーサーカーモード発動しちゃってるじゃないですか!?

 こうなると変身が終わるまで動かないんだよなぁ。


「ハァァァ!!!」


 スリードが力を込めている。

 今がチャンスなんだよ!

 愛輝、相手を見ていないでさっさと攻撃しろ!


「何をしているでござるか? 吾輩の説法を聞く気になったでござるか? 良いことでござる。まずはさっきの神曲、アイラブアトミックバズーカでござるが……」


 バカ――!

 何を力を込めている奴、相手に布教活動してやがるんだ!


 ゴゥ!


 また、スリードの身体が凄まじい光を放つ。

 これが2度目の変身か。

 その姿は最初の姿に近く背は低くなっており、細マッチョな感じになっている。


「はぁぁぁ……お待たせしましたね。さて、2回戦と行きましょうか?」

「まだでござるよ。次はダリア嬢の……」


 いや、相手の姿を見て驚けよ!

 変身してるんだぞ!

 

「けけけ、本当に愉快な人ですね」


 ゴゥ!


 スリードが愛輝に殴り掛かる。

 

 ヒュン!


「何をするでござるか! ダリア嬢の素晴らしさを説法してあげているところでござるよ!」

「けけけ、相変わらず素早いですね。では、これならどうでしょう?」


 スリードが両手を前に出し、何やら呟いている。

 これは魔法か!?


「パラライズ!」


 デバフ攻撃!?

 

「あべべべべ!」


 愛輝は痺れてビクンビクンしている。

 いや、ちょっと動きをとめる痺れ技にしては強すぎませんか!?

 

「さて、これでもう鬼ごっこは出来ませんよ」

「ヒール!」


 ナイスだ、ユーナが愛輝に状態異常回復魔法をかける。


「愛輝、回復なら任せなさい!」

「何をするでござるか! ダリア嬢の素晴らしさを……」

「パラライズ!」

「あべべべべ!」

「ヒール!」

「次はダリア嬢の生まれの……」

「パラライズ!」

「あべべべべ!」

「ヒール!」

「コロニーは最も地球から遠……」

「パラライズ!」

「あべべべべ!」


 ……やめんかぁぁぁ!

 


 

 


 



 


 


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る