俺、神様になります

第49話 リュージ編４９

「へっへっへっ！」

「さて、どのように料理しましょうかね？」

　ヤバい！

　この調子じゃ、俺は確実に殺される。

　欽治、早く攻撃をしかけてくれ！

「ヒャッハ――！　スリード様、俺に殺らせてくだせぇ！」

「貴方が？　いいでしょう。殺すのは、あそこの頼りなさそうな男だけですよ」

　ぎゃぁぁぁ！

　俺を確実にロックオンしていますがな！

「行くぜぇ！」

　くそっ！

　なんか、今すぐ使えそうな魔法をステ振りで習得するか？

　名前からしてこれなんか使えそうだ。

　どんな効果があるかはわからないが、とにかく習得。

　もう、やけっぱちだ！

「ダークネススモーク！」

　名前の通り闇属性の煙幕のようなものが自分を中心に広がっていく。

「煙幕なんか使ってんじゃねぇど、この雑魚が！」

　勝手に叫んでろ！

　今のうちにステルスをかけて、俺は逃げる！

　欽治がいれば、ユーナとダリアは大丈夫だろうし。

「む……どこに行きやがった？　まさか、逃げたのか！？」

「追うんですよ、お馬鹿さん！　捕まえて八つ裂きにしなさい、逃がした場合は私があなたを殺しますからね」

「ちっくしょ――！　どこ行きやがった！」

　ダッ！

　俺を狙った巨漢のならず者は俺を探しに走り去る。

　いや、俺はまだステルスをかけただけで逃げていないんだが。

　というか、どこかで聞いたようなセリフだったな？

　ま、こいつらが馬鹿で助かった。

「なんてことよ！　リュージ、覚えてなさいよ！　また、私を見捨てるなんて！」

「リュージさん……酷いです」

「え？　リュージくんなら、そこに……」

　だぁっ！

　こいつらも馬鹿か！？

「ちょっと、リュージくん。どういうことよ？」

　ん？

　ダリアには俺が見えているようだ。

　小声で俺に話しかけてくる。

「なんで、私たちにもステルスをかけてくれなかったのよ？」

「すまん、煙幕のせいで周りが見えず指定できなかった」

「……頼りないわね」

　うるせぇぇぇ！

　俺は死にかけたんだぞ、自分の命を重視するのは当然だろうが！

「スリード様、あいつだけに任せて大丈夫でしょうか？」

「もういいです。あんな雑魚を捕まえられないお馬鹿は私が粛清します。それよりもここにいる娘さんたちに殺られた部下の分を楽しませてもらいましょう」

　目の前にいるのに俺は視界から外れているようだ。

　さすが、自信過剰のならず者共だな。

「では、まずは亀甲縛りを部下たちにさせます」

　なん……だと！？

　見てみたいような、見たくないような。

「女神様は後ろに下がってください、僕が戦います！」

「さすが、欽治ね。リュージより数万倍、役に立つわ！」

「欽治くん、相手は使徒よ。頑張って！」

　ダリアは使徒のことも知っているのか？

　そうなら、聞かせてほしかったのだが。

　けど、欽治が前に出てくれるなら勝ったも同然だ。

　俺は解説役に回るとしよう。

　これでクビは無しですよね？

「ヒャッハ――！　お嬢ちゃんが俺たちの相手をしてく……べぶし！」　

　不用意に近付くからだ。

　見事にならず者の一人が吹っ飛ばされる。

「ほう……あの娘、なにか武術を学んでいるようですね。皆さん、一斉にかかりなさい！」

「「このアマぁぁぁ！」」

　数十人ほどが一斉に、欽治へ襲いかかる。

　しかし、欽治はその場から動かず、ゆっくりと刀に手を向ける。

　鞘から刀を出さないということは居合系の技か？

「誅武の型……」

　中部か。

　それなら愛知県か？

「賤侵剣！」

「「がっ……はっ！」」

　静岡だった――！

　構えから予想はできたが見事な居合一閃だ。

　襲ってかかってきた、ならず者共は真っ二つに……。

　なってない？

　だが、気絶しているのか倒れたまま動かない。

「こんな悪人、殺っちゃっていいのに……何してるのよ」

「さすがに人殺しはできませんよ」

「欽治くん、何をしたの？」

　俺も知りたい。

　居合のように刀を鞘から素早く放ったところまでは動きからわかるが、なんで真っ二つになっていないんだ？

「刀を抜いた後、咄嗟に刃を逆側にして峰打ちをしました」

　すげぇぇぇ。

　あの一瞬で刀を持ち替えることなんてできるものなのか。

「モンスター相手なら真っ二つですけどね、えへっ！」

　きゃわいい！

　いや、笑ってる場合じゃないぞ。

「ほう、なかなかやりますね」

「欽治、使徒だろうが嫉妬だろうが、あいつもやっちゃいなさい！」

「私の部下たちでは貴女相手には少々重荷だったようですね。よろしい、私がお相手してあげましょう」

「欽治くん、使徒は勇者と同じ能力持ちだって話よ。どんな能力かわからないけど気を付けて」

「ふふふ、御安心なさい。私の能力は変身です……。ですが、貴女にフルパワーで戦うつもりはありませんのでご心配なく」

　やっぱり、あいつのセリフどこかで聞いたことがあるんだよな。

　作者さん、あなたぁ……パクってませんよね？

　今すぐクビだ……すみません、余計なことを言いました。

　そんなことより、スリードの能力は変身？

　変身するごとにパワーが上がるとかいうやつか？

　教えてくれるのは自分に自信があるからだろうけど、欽治相手じゃ最終形態でもワンパンだろう。

　そんなことよりもスリードは両手を後ろに組んだまま棒立ちをしている。

　せいぜい、余裕ぶってろ。

「僕は人殺しをしたくなんてありません。ここは引いてくれませんか？」

「おっほっほ、大丈夫ですよ。負けるのは貴女ですから」

「欽治、気にすることはないわよ！　ぎゃふんと言う間も無くぶった切ってやりなさい！」

　ユーナ、あまり相手を煽るな。

　相手は勇者のお抱えだぞ。

「お坊さんは強いのですね？」

　お坊さんというのはスリードのことだろう。

　丸坊主だし、色白だし。

　俺もそんな相手に慈悲を与えてやる必要は無いと思うぞ。

「ええ、私が本気を出せば貴女は一瞬で粉々です」

「格上なんですね……それなら僕も全力で……やっちゃおうかな？」

　ひぇぇぇ、目が本気モードに変わってる。

　殺気が恐ろしいほど伝わってくる。

　スリード、死んだな。

「格上の人間が相手なんて初めてなんです！　全力で戦っていいなんて！　もう、もう！　殺っちゃって良いですよね！」

　アカン！

　スリードさんのほうが欽治を煽って本気にさせちゃったよ！

「どうぞ、ぞうぞ。先制は貴女で……ぶぼっ！」

　ズバァァァン！

　ほら、言わんこっちゃない。

　欽治が何をしたのか見えなかったが、スリードは後ろの建物の壁をぶち破り、吹っ飛んだ。

　人を疑うということを知らない欽治を煽るからだ。

　自業自得だな。

「す……すごい！」

　えっ、欽治が驚いている？

　いや、凄いのはお前だろ？

「僕の力を込めた一撃で生きてる人がいるなんて凄いです！　はわわわ！」

「ふふふ、私も初めてですよ。ここまで私をコケにしたお馬鹿さんは」

　スリードは何事もなかったように起き上がった。

　確かに欽治の一撃目で逝かなかったどころか無傷なのは凄いな。

「次はもう少し強く……うふ、うふふふ」

「来なさい」

「急襲の型！」

　出た、九州の型！

　以前、見たのは大分県だが、次は何県だ？

　構えは腰を深く落とし刀は右手のみで持ち、刀身の先端をスリードに向けている。

「苦魔喪斗剣！」

　ギュン！

　ドシュッ！

「ぐっ！　このっ！」

　熊本か、一気に間合いを詰めて、スリードの心臓目掛けての一点突き。

　咄嗟にうまく避けたのだろうが、スリードの左肩に刺さる。

　反撃に右手で殴り掛かるが、欽治は後方に下がることで避けることができた。

　これでスリードは左腕を使えない、これは相手にとって大きな痛手だ。

「凄いです！　心臓を狙ったのに避けられるなんて、雪くらいです！」

　おい、雪ちゃん相手に何してんだよ！

　お前の妹だろうが！

「当たり前でしょう。たった１匹のミジンコが大型モンスターに勝てるはずないでしょう？」

　偉そうなこと言ってますけど貴方、一方的にやられてますよ？

　あ、ミジンコが自分のことなのかな？　

「ふむ、思ったよりやるようなので私も少々本気を出すとしましょう」

「まだ、本気じゃなかったんですか！　す、凄いです！　ぜひ、ぜひ！」

「ふふ、変身をご希望とは光栄ですね。では、１度目の変身をお見せしましょう」

　スリードは力を込め始めた。

「欽治！　相手は隙だらけよ！　早くやっちゃいなさい！」

「変身、凄い！　変身、凄い！　ウフ、ウフフフ」

　ユーナが呼びかけるも欽治の耳には届いていないようだ。

　まあ、あの状態じゃなぁ。

「ハァァァ！」

　ドゥン！

　スリードの身体が凄まじい光を放つ。

　次の瞬間、スリードの姿は大きくなり筋肉質になっている。

「……行くぞ」

　ゴゥン

「うわっ！」

　ドォォォン！

　なんだ？

　いきなり、欽治が吹き飛ばされた。

「まだまだ、行くぞ」

　ドゥン、ドゥン、ドゥン

　早すぎて見えない。

　体の大きさに反するような素早い動きで、欽治が一方的にやられている。

　ズガァァァン！

「か……は……！」

「欽治！」

「欽治くん……きゃっ！」

　欽治が壁をいくつもぶち破り、遠くへ吹き飛ばされる。

　一瞬の間にスリードがダリアの頭を右手で掴み上げた。

「こらっ！　ダーリンを放しなさいよ！」

「くくく、力があり余ってるんだ。もう少し、こいつで遊ばせてもらおう」

　ヤバい、欽治がまさかやられてしまうとは強すぎる！

　あとは……向こうの一方的になってしまう？

　どうする、考えろ！

　まだ、俺の位置はあいつにはバレていないようだし。

　だが、ダリアがあのままじゃやられてしまう。

　そうだ、杏樹！

　こんなときはお前の嗅覚で助けに来れるだろ！

　さっさと来いよ！