第48話 リュージ編48
ノルン山に飛竜を捕まえに行く件は、ダリアの力を持って意外と早く片付いた。
ただ、本人は能力の意味をあまり理解していないみたいだが。
とにかく、これであのならず者の大群が今どのあたりか、どこから攻めて来るかは把握できる。
欽治が雪と一緒に飛竜に乗り、町の周囲を広範囲にわたって索敵をしてくれたが何も見当たらなかったようだ。
俺?
飛竜が乗せてくれないんだよ。
本来なら俺が見たほうがいいと思うのだが、この際仕方がない。
以前の時間軸通りに進んでいるなら2週間弱ほどあるし、かなり遠方の村でも襲っているころなのだろうか?
よくよく考えるとダリアの力を持ってしたら、こっちから仕かけることも可能なわけなんだよな。
ドリアドの町を守りながら、ならず者共を撃退するより攻めに集中できるわけだし、別の町も結果として救うことができるし。
「なあ、ユーナ。こっちから攻めて行くほうが良いかと思うんだがどうだ?」
「別にいいけど、あいつらの場所はどうやって探すのよ?」
「ダリアさんなら探せると俺は思うのだが?」
「面倒だけど無理じゃないわね。私も少し考えていたしやってあげるわ。ただ、一人じゃ鉢合わせしたときに困るのよね」
「それじゃ、欽治。一緒に行ってやってくれるか?」
「いいですよ」
「鉢合わせしてしまったら、暴れてもいいからな」
「そんな……まるで僕が狂戦士みたいなこと言わないでくださいよ。あはは」
いや、自覚は無いだろうが十分バーサクしているぞ。
どちらかというと鉢合わせしてしまって欲しいくらいだ。
「んじゃ、今日はこれくらいにしましょ」
「そうだな、雪ちゃんは疲れて寝てしまっているし。ニーニャさん、町までお送りしますよ」
「ありがとうございます。でも、夜も遅いし一人で大丈夫です」
断られた!?
ま……まだこれからだ。
絶対にチャンスは来るはずだ。
「危険だ、やはり私が送って行こう。そして、ついでに泊めてもらったりして……はわわわ、興奮してきたぞ!」
「い、いえ……本当に私は一人で大丈夫ですので。それでは、おやすみなさい」
「はい、また明日」
この日はこれで解散し、各々自由な時間を過ごすのだった。
俺は昼に時間ができたとき眠ってしまったため、まったく眠くない。
庭に出て星空でも眺めていようかな。
う――ん、このスローライフ感が24時間365日来てくれればなぁ。
「あっ、リュージさん」
「欽治か、こんな夜に外で何をしてたんだ?」
「ちょっと、剣を振りたくなってしまって」
「そうか、お前の力だけが頼りだからな。改めて頼むぞ」
「あまり強くない人間相手に剣は振りたく無いのですが、話の通じない悪人なら仕方ありませんね」
「話の通じないどころじゃないぞ。聞く耳さえ持ってないからな」
「そんなにですか?」
「あれを人間と思って躊躇してしまうと不意を食らうことになるかもしれんぞ」
「わかりました、できる限りのことはしてみますよ」
うむ、頼もしい。
欽治はそのまま湖畔に向かって歩いて行った。
俺は少し星空を見ていたが夜風が冷たくなってきたから部屋に戻って、適当に時間を潰したのだった。
そして、翌朝……。
「みんな、起きて! 町が」
ユーナが大きい声を出してなにか言っている。
町がどうかしたのか?
「リュージ、何をゆっくり寝てるの! ほら、起きて!」
「なんだよ、何かあったのか?」
「町の方から煙が上がっているのよ! あれは何かあったに違いないわ!」
煙ごときでそんな驚くことも無いだろ?
庭に出て町の方角を見てみる。
……本当だ!
普通の煙では無い黒々とした黒煙が大量に町の方角から出ている。
「ダリアさん、町が見える所まで……」
「さっき、見て来たわよ。これは貴方の言っていた時間軸とまったく異なるようね。参ったわ……最悪よ」
「どういうことです?」
「欽治くん! 昨日、上空から見たときは広範囲に誰もいなかったのよね?」
「雪と一緒に見たときはいつもと変わりはありませんでしたよ」
「奴らだとしたらどこから湧いて出たって言うんだよ? 欽治はいつもと変わり無いって言ってるし」
「本当にいつも通りでしたよ。街道も商人や旅人で賑わって平和そのものでした」
ふぁっ!?
賑わっていた?
街道に多くの人?
「欽治、一つ確かめさせてくれ。街道にどれくらいの人が歩いていたんだ?」
「ざっと3000人くらいでしょうか。どこかでお祭りであるのかお殿様みたいな人を中心に大名行列もできて賑わっていましたよ」
それのどこがいつも通りだぁぁぁ!
お前の脳内がお祭り状態だよ!
「まだ何とかなるかもしれない! ダリアさん、俺たちを近くに飛ばしてください!」
「言われなくてもやってあげるわよ! ああ、もう!」
「リュージ、私、少し怖くなってきちゃったんですけど……」
「お前は魔法で援護だ! 欽治はとにかく敵の数を減らしてくれ! 杏樹はどこだ?」
「ニーニャんを助けるとか言って、先に凄い早さで町のほうへ行ったわよ」
くそっ!
あいつはいつも身勝手な行動をしやがる。
あいつがヘイトを集め壁になってもらっているうちに住人の救出を俺のステルスとダリアのトラベラーで行うつもりだったんだが。
「とにかく、住人の救援に行くぞ!」
「雪はどうするの? あの子の能力も役立つと思うけど」
「雪を危険な目に遭わせられません。女神様、僕ががんばりますから」
「そう? 思いっきり暴れて良いわよ、欽治!」
「手を繋いで! 跳ぶわよ!」
ヒュン
「ヒャッハ――!」
「きゃぁぁぁ!」
「逝くのだじょ――ん!」
「ぐわぁぁ!」
なんて数だ、以前より多い気がする。
これも時間軸が違うせいなのか?
「おい、あそこにも美女が三人いるじょ!」
ひぇっ!
いきなり見つかった!?
「奏で謳う氷の精よ、我が空中に集いて、素早く氷槍を振り落とせ! ブリザード……ランサー!」
「「どわぁぁ!」」
ユーナがとっさに攻撃魔法を放つ。
襲いかかってきたならず者は上空から降り落ちてくる氷の槍に貫かれていく。
この魔法も血生臭い技だな。
こんなのプリーステスが使っていいのか?
癒しの真逆っていうか、どっちかというと虐殺だよな。
しかし、ユーナの魔法も以前と比べるとかなり強くなったな。
俺にとっては数時間だったが、こいつにとっては約1年だもんな。
「リュージ、前より多い気がするんだけど!?」
「これも時間軸が違うせいなのか?」
「私の能力が未熟なせいでこんな目に……ごめん」
「ダーリンが誤る必要は無いのよ。悪いのはリュージなんだから!」
俺のせいなのか?
どうみても欽治のせいだと思うが。
いや、飛竜が俺を背中に乗せてくれないから欽治が代わりに偵察をしたわけで、これは飛竜のせいだ。
うん、そういうことにしよう。
「これはこれは……なかなか、腕の立つ人がいるようですね」
「きたぜぇぇぇ! スリード様だ!」
「ヒャッハ――! あの美少女はどうしやすか!」
誰だ?
周りのモブとまったく違う雰囲気を持っている奴だ。
全体的に屈強な見た目の多いならず者共だが、こいつは誰よりも背が低く痩せていて、とても強そうに見えない。
でも、周りの奴らがなぁ……慕っている感じからして、きっと勇者のお抱えなんだろう。
「スリード様はな、八人の使徒の一人なんだぜ! 痛い目を見る前に降伏したほうが良いぜぇ、お嬢ちゃんたち!」
「おっと、そこの生意気そうな男は問答無用で処刑だがな! ぎゃははは!」
情報ありがとうございます。
なんでこう、悪役のモブって情報提供を聞いてもいないのにしてくれるかなぁ。
おっと、こっちもお約束しないとな……。
使徒の一人だってぇ!?
強敵やないかっ!
こりゃ、アカン!
見られてるからステルスをかけても意味無いし、最大のピンチやん!
ふぅ、主人公は役目が多くて疲れるぜ?
え、もうすぐ入れ替わる?
……俺、クビですかっ!?
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