第47話 リュージ編47

 教会に向かい通信魔法で町の住人に3週間後、野党の襲撃があることを知らせることができた。

 予想外だったのは、住人の理解が思っていたより良かったことだ。

 

「ドリアドの住人たちよ! 女神のお告げです。黙って聞きなさい。3週間後にこの町に大軍を率いた野党が押し寄せて来るの。この野盗には私の防御壁が効かないみたいなの。だから、それまでにすぐに避難できる準備をし、戦える者は町の防衛に当たりなさい!」


 相変わらず上から目線での発言だったのに、思いの外指示に従ってくれている。


「ユーナちゃんの予知夢か? ありゃ、当たるからな」

「防御壁が破られるってマジか!? 俺は逃げるぞ!」

「何を言ってやがる! 俺たちはこの町を防衛するぞ!」

「俺もだ!」

「何かわかんないけど、あたしも――!」

「こ、こら! 雪!」


 どうやら今までもユーナの予知夢とやらが的中したのが住人には有名なようですぐに理解を示してくれたようだ。

 通信魔法を見ていない人たちには口伝てに知れ渡っていくのが目に見えてわかる。

 ユーナのことをよく知っている住人だからこそなんだろうな。

 他の町ではこうはいかないだろう。


「思ったより早く片付いたわね。これも私のおかげね! さぁ、私を褒めなさい」

「はいはい、よくできました」

「そ、そう……普通に褒めてくれるなんて……照れるわね」


 顔を赤くしてやがる。

 この町の住人とそれなりにまともなコミュニケーションを取っていたことに対して褒めただけだ。

 さっきの偉そうな説明に対しては後で指導だ。

 次にやることは協力してくれる住人たちと町の防衛に関していろいろとしないといけないな。

 時間は3週間しかないし、首都みたいに町の周りに巨大な壁を建造するには時間が足りない。

 しかし、柵ぐらいは設置しておくべきか?

 この町はユーナが魔力の防御壁を立てているようだが、あの悪党共にはそれが効かないみたいだしな。

 後は戦えない人たちのための隠れ場所なども必要だよな。

 

「今晩は初めての作戦会議ね。夕飯の後、ニーニャんも呼んで対策を考えるわよ」

「町の防衛のほうはある程度は考えているぞ」

「あら、さすがね! そうでないと私の第一眷属を名乗るの許されないわ」


 誰が好き好んでそんなもん名乗るか。

 お前が一方的に言ってるだけだろうが。


「ダーリンに勇者のことを詳しく聞いておくと良いわよ」

「そういえば、会いに行って酷い目に遭ったんだったな」


 俺も姿や声は知っているとはいえ、どれくらいの強さなのかはわからないんだよな。

 この町を襲われたときにアナライズで覗き見てやろうと思ったが効かなかったし。

 これもおじさんが言っていたあらゆる攻撃や魔法を無効化する能力のためなんだとしたら、欽治と杏樹くらいにしか対応できないかもしれない。

 チートの欽治や杏樹が勝てなかったら……うん、お手上げだな。

 俺には他に頼りになる人物が思い当たらない。

 ニーニャさんが強いってユーナは言うが、以前はあのならず者共にあっさり捕まったんだよな。

 力を無駄に振るうのが嫌いとかそういう枷を自分でかけているのかな?

 でも、あの強襲は力を使うべきところだろ。

 被害者が出るほどだったんだし。

 ……ニーニャさんに関して知っていることってものすごく少ないな。

 仲良くなるためにも聞いておくのもいいかもな。


「それじゃ、いったん家に帰りましょ」

「夕方に町の広場で待ち合わせじゃないのかよ? 欽治たちはどうするんだ?」

「ダーリンが連れてきてくれるわよ」


 ま、他に町ですることもないし先に帰っても問題ないか。

 後でいろいろと言われるのはユーナなんだし。

 俺はユーナと一緒に歩いて帰路についた。


「おや、今日は早いね。リュージくんもお仕事お疲れ様」

「おじさん、ただいま」

「……ユーナ、ちょっとこっちに来なさい」

「お説教なら24時間受け付けないわよ?」


 それって、お説教完全お断りしますって言ってるのと同等だぞ。

 ま、たまには思い切りしぼられるといい。

 俺は少し休むとしよう。

 ………………。


「ージ、リュージ! 起きなさい、ご飯よ」


 う……。

 辺りが暗くなっている。

 結構、寝てしまったようだ。

 

「女神様、リュージさん、御飯ですよ」

「ありがとう、欽治。私も寝坊助さんを呼びに行ってたの」

「ありがとうな、欽治」

「いえいえ、どういたしまして」

「リュージ、私も褒めなさい!」

「はいはい、ありがとな」


 また、顔を赤くしていやがる。

 欽治の世界で何かあったのか?

 俺への当たりが前と違うし。

 なんだ、俺がいない間に俺の素晴らしさに目覚め惚れたか?

 だが、断る!

 俺はニーニャさん一筋なんだ!


「おや、起きたかい。なにやらお疲れだったようだね、リュージくん」

「おじさん、すみません。手伝いもせずに寝入ってしまって」

「いやいや、気にしなくていいよ。代わりに杏樹さんが手伝ってくれたからね」


 な……んだ……と!?

 美少女のお小水スープとか、美少女のう○こ丼とかじゃないだろうな?

 んなもん、食えるか!

 いや、男を虫以下に見ているド変態がおじさんと一緒に料理を作っている所など想像できないぞ!


「あら、嫌ですわ! お義父様! 私は盛り付けをしたくらいです、おほほほ」


 ……何か違――う!

 食事はいつものおじさんの料理だった。

 本当に皿に盛り付けをしただけみたいだな。

 

「ふぁふぇ、ふぃんな! ふぁふぇたら、ふひはふぁせよ」

「ユーナ、食べながら喋りません!」

「ニーニャは私が連れて来るわね」


 ユニットを組んでるだけあって、お互いのことをよく理解できているんだなぁ。

 あと少ししたらニーニャさんが来るのか。

 これは良い夜になりそうだ。

 食後、少し休憩をしてからダリアがニーニャさんを連れて来た。


「皆さん、こんばんは。ニーニャ・ルグレイドと申します。よろしくお願いしますね」

「は、はわわわ! 猫耳美女だと! ユーナ、この人は私へのお土産か! 遠慮なくいただきます! ぎゃふ!」


 質問しときながら、いきなり襲い掛かるな!

 杏樹の飛びつきをサラリと避けるニーニャさん。

 欽治でさえ、捕まってしまった杏樹の飛びつきを難無く避けるとは。

 確かに腕は凄いのかも。

 ダリアが勇者について話し始める。


「相手は何を血迷ったか悪党共を引き連れている三代目勇者……能力はクラッシュね」

「クラッシュって何だ?」

「僕も知りません」

「私も知らないわ」

「雪ちゃんが私の膝の上で……はわわわ!」

「えと、クラッシュと言うのはですね……」


 ニーニャさんが丁寧に説明をしてくれた。

 おじさんから以前、聞いた通りあらゆる効果が無効化できる能力らしい。

 勇者の血筋特有の能力で魔王に負けた時点で失い、数年後に勇者の家系とまったく関係の無い人族から発言するのだという。

 つまり、ニーニャさんが昔、共に戦った勇者の家系と現勇者歴の家系は血の繋がりも何も無いということだ。


「勇者の能力がわかった時点で先に進めるわよ」

「防衛のほうは杏樹が中心となるのがいいと思うぞ。以前と同じであれば、西側の街道から奴らは来るはずだ」

「ちょっと待ちなさい。以前と同じとは限らないわよ」

「どういうことなんです、ダリアさん?」

「今の時間軸は以前とは違うということよ。過去とはいっても、無数にあるパラレルワールドの一つに来たに過ぎないわ。貴方の経験した通りに物事が進むかもしれないし、まったく違うことだって起こり得るわよ」


 マジか……それってほとんど別世界じゃねぇか。

 西側から襲って来ることを前提として考えた作戦がおじゃんになってしまった。

 全員を別々の地点に配置するのは戦力低下を引き起こすが、柔軟に対応できるともいい取れるか?

 歌の力でバフを与えられた住人でも対応は十分だと思えるが万が一、戦線が崩壊するとそこから一気にならず者が町中に流れ込んでくるだろう。

 

「ちょっと、考えさせてくれ」

「「……急に頼りなくなったわね」」


 二人揃って言われるとムカつくな。

 何度も言うがお前らも作戦を考えろよ。

 なんか、いつも俺を当てにしてないか?

 俺よりお前らのほうが数億倍も強いんだしさ、俺なんて一般人よ?

 

「仕方ないだろ、時間移動なんてしたことないんだから」

「リュージさん、雪と一緒に飛竜で偵察とかどうですか?」

「飛竜はせつちゃんじゃないと、呼べないんじゃないのか?」

「明日、ノルン山に登りゆきに飛竜を捕まえさせますよ」

「わぁい、お姉ちゃんとピクニックだ――!」

「雪ちゃん、大丈夫か?」

「何が――?」

 

 アカン!

 本人、何をするかわかってないやん!


 

 

 

 

 





 

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