第45話 リュージ編45

「それじゃ、みんな手をつなぎ合って!」

「皆さん、お元気で。過去のドリアドの住民たちをよろしくお願いしますね」

「ほら、リュージ! 何をしているのよ、行くわよ」


 いや、俺は行かないぞ。

 そもそも、みんな揃って過去に戻る必要もないだろうし。


「お姉ちゃん、どこ行くの――?」

「着いてからのお楽しみだよ」


 過去とか説明してもこの子の頭じゃわかるまい。

 失敗しちゃった――どこにも行けなかったぁって着いてから言えば良いもんな。


「ほら、リュージ!」


 ギュッ!


 ユーナが俺の腕を掴む。


 ヒュン


 え?


「着いたわ」

「ほぅ、これは……普通でござったな」

「めんどくさいから、ちょうど90日前に設定したわ。みんな、もう手を離していいわよ」

「え? ちょっ……」

「何、ボケっとしているの? リュージ、ぴったり90日前なら特に不自由もないでしょ? お父さんに泊めてもらった後なんだから」


 ちょっと、待てぇぇぇぇい!

 ここはすでに過去なのか?

 だとしたら、頑張ってあげたニーニャさんの好感度(自称)がリセットされ……うぉぉぉぉい!

 ユーナぁぁぁ、絶対に許さんぞぉぉぉ!

 くっころ……ゲフン!

 

「ど、どうしたんだい? 急に現れてびっくりしたよ。それにこの大人数……」

「お父さん、リュージ以外のこの眷属たちも今日から泊めるからね」

「急にまた……はぁ、わかったよ。みんな、ユーナをお願いするね」


 おじさんは相変わらず優しいなぁ。

 誰かさんにはもっと厳しくしてくださいよ。


「お、お義父様! 私のユーナはキッチリ面倒を見させていただきます! 何なら、ユーナのアソコも見させて……あふん」

「わぁぁ、杏樹さん!」

「デカメロンちゃん、頭から血が噴水みたいに出てる――」


 雪よ、普通の人は血が出てる人を見たら喜びませんよ。

 それより、一人で勝手に興奮して頭の傷口開いてやがるこのド変態は、他の奴らに任せよう。

 しかし、ユーナのお父さんには他の男に対するような態度じゃなかったな。

 ま、顔面パンチをいきなりしないだけマシか。


「今日から約3週間後に奴らがこの町に来るわ。さっそく、町に行って呼びかけましょう!」


 カレンダーを見てみると確かに過去のようだ。

 確かこの日は……ユーナと一緒に八百屋でのバイトがあった日だ。

 異世界生活で初めてやった仕事だからよく覚えている。


「ユーナ、あと1時間ほどで八百屋の仕事があるぞ」

「何を言ってるの、そんなのしている暇なんて無いわよ。ドタキャンよ」


 こいつ、仕事を何だと思っているんだ。

 ま、俺はまだ八百屋さんと顔合わせする以前のことだから特に問題は無いが。

 事前に連絡していたわけじゃないから俺のことは知らないままだ。


「もういい? 町へ跳ぶわよ?」

「ダーリン、やっちゃってちょうだい」


 ヒュン


「町だ――! お姉ちゃんとお買い物してくる――」

「ちょ、ちょっと! 雪!」

「夕方になったら、ここで集合ね」

 

 いや、何をするのか教えてくれ。

 数日後に野党が襲って来るとか言って信じてくれる人なんて、そう多くはないと思うぞ。

 

「ユーナ、何をすればいいのか詳しく聞かせろ」

「え――、リュージ。そんなこともわからないの?」

「今、住人にならず者が襲って来るとか言って信じてくれるものなのか?」

「何言ってるの。女神様からのお告げって言えばいいのよ。それでも信じない人は逝っちゃっていいわ」


 駄目だろ。

 自称でも女神を名乗っているなら分け隔て無くすべての人を救済しろよ。

 

「それなら、お前が通信魔法とやらで言えば良いだろ?」

「その手があったわね? さすが、私の第一眷属!」


 うわぁ、また自分の魔法を忘れていたのか?

 そんなに忘れるなら習得した魔法をメモに控えときなさい。

 

「私は少し稼ぎたくなってきたから、ちょっとライブしてくるわね」


 なんだ……その感覚!?

 少し歌いたくなったとかなら許すけど。

 

「なら、私が付いて行こう!」


 おわっ!

 いつの間に復活してやがるんだ。

 もっと、三途の川を彷徨っていろよ。


「吾輩もダリア嬢のためにバイトをして来るでござる」


 みんな自由過ぎて纏まらねぇ!


「なぁ、ユーナ。良いのか? みんな行ってしまったぞ」

「大丈夫よ。私は今からブレインピクチャーでみんなに伝えるわね」


 目を閉じてる者限定でしか伝わらないんだろ?

 こんな忙しい朝に目を閉じている人なんて少ないと思うが……。

 まぁ、こいつのことは放っておいて、俺も自由行動させてもらおう。

 そうだな、ギルドに行ってニーニャさんに自己紹介でもするか。

 ……やっぱり、いきなりは変な感じだな。

 ユーナに付いて行って貰った方が良いのか?

 以前はユーナにほぼ無理やりギルドに連れて来られたし。

 以前と同じように振舞った方が良いのか?

 やり直しなら、もっと格好良い登場の仕方をするべきか?

 いや、相手はニーニャさんだ。

 あの人は俺と同じ普通を好むし、普通に行くか。


「リュージ、リュージ!」

「何だよ? 俺も自由行動をさせてもらいたいんだが?」

「駄目よ! 貴方は私の大切な眷属なんだから、常にそばにいなさい」


 なんじゃ、そりゃ?

 何の得があってお前のそばに、いつも居ないといけないんだ。

 俺はニーニャさんに会いに行くんだ!

 お前のせいでやりたくないやり直しをするんだからな!

 せっかくだから、ニーニャさんへの第一印象は最高になるように努力しよう。

 ……と言っても何も思いつかないんだが。

 現実は辛いよ。


「俺はギルドに行きたいんだが」

「そういえば、そうね。ニーニャんに言わないといけないし」


 結局、こいつと一緒に行くことになってしまった。

 コンティニューで同じ行動か。

 ま、死ぬわけでは無いし別にいいか。

 以前と同じようにしていればニーニャさんに嫌われることは無いというのはわかっているし、少しは安心できる。

 ……ならず者が襲ってくるのが前提になる考えだよな、これ。


「それより、まだ通信魔法使わないのか?」

「なんて伝えたらいいか考え中なのよ」


 お、意外に慎重だな。

 下手なこと言うと駄目だってやっと理解したか。

 よぉく考えて、全員に理解してもらえるように言葉を選んでくれよ。


「俺もニーニャさんへの伝えかたを考えないとな」

「それは大丈夫よ、ニーニャんは理解してくれるから」


 信用しているんだな。

 でも、未来ではダリアに能力使ってもらって、やっと信じてもらえたはずなんだが本当に大丈夫か?


「以前、言ってたがニーニャさんが欽治より強いかもしれないというのは本当か?」

「ニーニャんが冒険者を辞めたの、私が8歳のころだからね。腕が少し劣っていたとしても、滅茶苦茶強いわよ」


 なん……だ……と!?

 ユーナが8歳のころ?

 俺の見立てではニーニャさんは十代後半か二十代前半だと思っていたのか違うのか?

 ステータスで見ろ?

 そんな盗み見るなんてこと俺はしません!

 

「ニーニャさんってそれなりに歳を取っているのか?」

「何、言ってるの? ニーニャんは猫族とエルフ族のハーフよ。この町じゃ、彼女のお母さんの次に長命よ」


 な、な、な、何だって――!

 亜人というのは知っているが、まさかエルフとのハーフなんて!

 ハーフエルフなら長生きなのはうなずけるが、まさかニーニャさんがそうだったとは……。

 実際に何歳なんだ、気になってきたぞ?


「まさか、おじさんよりも?」

「お父さんじゃ話にならないわよ。今の勇者歴の前の勇者と共に魔王を倒した英雄の一人なのよ」


 確か勇者歴と魔王歴がほぼ100年周期であるんだよな。

 今の勇者歴の勇者はどうやら有能みたいで、187年も続いてるみたいだが。

 あの世紀末勇者の爺さんとその息子が有能だったんだろうなあ。

 で、その爺さんが倒した魔王によって世界が支配され、その魔王にやられた勇者の連れの一人がニーニャさん?

 ややこしいな。

 年齢はざっと見積もっても300~400歳くらいか?


「ニーニャさんのお母さんか。そういえば、会ったことないな」

「何、言ってるの? リュージもこの前会ったって聞いてるわよ」

「え、この前?」


 エルフの知人などいないぞ。

 八百屋のおばさんか?

 いや、違う。

 教会のシスター?

 いや、これも違うな。

 孤児院の保母さんか?

 いや、あの人は明らかに純血の獣人だ。

 モフモフだったし。


「誰も思い当たらないぞ」

「ニーニャんから聞いたわよ。ルーシィさんを愛輝から助けたって」


 ルーシィ?

 あれ、どこかで聞いたことがある。

 愛輝から助けた……ハッ! 

 ホスピリパの町からの帰り道、杏樹と一緒にいた女性だ。

 あの人がニーニャさんのお母さん?

 どう見てもパリピ風なギャルにしか見えなかったが。

 

「過去に来て良かったわね。愛輝はあのままにしておくと公開処刑されてたわよ」

「なんで、すぐに処刑じゃなかったんだ?」

「ニーニャさんが必死に止めてくれてたのよ。リュージとルーシィさんの話に食い違いがあるって」


 やっべぇ、そのままにしてたら俺の嘘もバレて処刑されるところじゃないか。

 過去に逃げてきて助かった――!


 

 

 

 


 

 

 

 


 

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