第44話 リュージ編44

 漫画に影響され過ぎだろ!?

 魔王退治はどこ行った?

 ねぇ、魔王は!

 武闘大会なんてやっている時間の余裕なんてあるのか?

 

「ユーナ、百歩譲って漫画に影響されるのは許してやろう。だが、上位に入ったクランが死地に送られるなんてハッキリ言って嬉しくないご褒美だぞ」

「ふふん、士気を高めるためにちゃんとしたのも考えているわよ」


 いちおうは考えているのか。

 大抵は賞金とかが一般的なんだが何を出すつもりなんだ?


「何を用意しているんだ?」

「ふふん、聞いて驚きなさい! 私たちのライブ永年無料チケットよ!」


 ふ――ん、興味ないわ。

 そんなの食いつくのは特定の人物に限られるだろ?

 例えば、ここにいる……。


「な、何ですと――! 吾輩、粉骨砕身の覚悟を持って戦に臨むでござる!」

「あんた、また喋ったから10万ゼニカね」

「ダリア嬢のお願いならいくらでも出すでござる!」


 ……そろそろ勘弁してやれよ。

 それにそんなにホイホイと金を出すな、愛輝。

 ま、こういう奴らくらいしか武闘大会に参加しないってわけだ。

 

「私は賞金も出して良いと思うんだけどね」

「駄目よ、すべてのお金は私たちのものなの。それに死ぬまで無料でライブをみれるだけでもありがたく思うべきよ」

「ってね、ダーリンがこんな感じなのよ」


 まあ、守銭奴のダリアからみれば大事な金づるがタダになるもんな。


「あの、私から良いですか? 普通に賞金だけにすれば良いのではないかと? 大事なお客様もずっと無料ではなくなるわけですし、全参加者にとって意味のある大会になると思いますよ」


 さすが、ニーニャさんだ。

 的確な所を得ているなあ。

 ってか、ニーニャさん……まさか武闘大会に出たいのか?


「そう言えばそうよね、気が付かなかったわ。ダーリン、それにしましょ! それでファンの人からはもっとお金を搾り取ってやればいいのよ!」

「……そうね。ずっとタダよりは良いかもね。それにライブのチケット料金を10倍にすれば元は取れるし」


 10倍!?

 いや、普通に考えてファンが減るんじゃないか?

 ってか、このユニット駄目だわ。

 純粋なアイドルに対して失礼すぎる。


「吾輩は10倍でも100倍でもチケットを買ってダリア嬢のライブに参加するでござるよ!」

「あんた、また喋ったから20万ゼニカね」

「どうぞ、受け取ってほしいでござる」


 愛輝、もう何も言うまい。

 死ぬまで貢げ。


「じゃ、これで決定ね。あとは場所ね」


 着々と武闘大会なるものを開催する方向で話が進んでいるんだが、他の奴らはそれでいいのか?


「欽治、このままじゃ武闘大会やることになってしまわないか?」

「大丈夫ですよ。楽しそうですし」


 あ、こいつは駄目だ。


「杏樹、武闘大……」

「雪ちゃん、雪ちゃん、雪ちゃん! くぅぅぅ、もっと揉んでくれ!」

「あはは! デカメロンちゃん、マシュマロ――」


 こいつも駄目だ。

 雪ちゃんは幼女だから許す。

 しかし、子どもに何をさせてんだ、このド変態!


「リュージ殿、お金を少し貸……」

 

 こいつはダリアの言うことは何でも聞くから論外だ。

 やはり、頼みの綱は愛しのニーニャさんだけか。


「ニーニャさん、武闘大会ってするべきだと思いますか?」

「そうですね、クランごとの戦力を測る点としては良いと思いますが幾分時間が」


 全否定してほしかったんだが……。

 しかし、クランごとの戦力か。

 確かに重要だよな。


「時間に関しては心配しなくても良いって言っているでしょう」

「そ、そうでしたね。ダリアさんがいれば問題ないですね」


 そうか、時間的な問題は解決でき……ないんじゃないのか?

 すぐには開催できないだろうし、開催した当日に南の峡谷とやらに部隊を展開されたらどうするんだよ?


「ダリアさん、貴女の能力についてもっと詳しく聞かせてくれないか?」

「え? ……そうね、10万ゼニカでどう?」


 こんなことでも金取る気かよ!

 この守銭奴め!


「ダーリン、ただで教えてあげて。こう見えて、リュージは頭良いから。その10万はそこのお財布に出して貰えばいいのよ」

「ユーナからのお願いなら仕方ないわね。私の能力の制限だけ教えてあげる」

「ダ、ダリア嬢……8万ゼニカで……勘弁して……欲しいでござる」


 愛輝……すまんな。

 俺のために犠牲になって……金は返さんぞ。


「時間移動に関しては頑張っても過去には2年、未来には5秒くらいが限度ね。詳しい説明は面倒だから省くけど、簡単に言うと未来は道がないからよ。異世界間は制限なしだけど、時間の接合性が不安定で数時間の誤差が出るわ。同世界の大陸間移動なら制限は無し」


 時間は完全無制限では無いのか?

 まぁ、そりゃそうだよな。

 しかし、未来が5秒程度とは……道がないと言うのは歴史が無いってことか?


「ついでに私のステータスも見せてあげるわ。役に立てなさいよ」


・氏名 結城 ダリア (ゆうき だりあ)

・種族 ヒューマン

・レベル 103

・年齢 16

・職業 吟遊詩人

・HP 2000

・MP 2100

・筋力 100

・体力 100

・知力 105

・精神力 105

・素早さ 100


 やっときたぁぁぁ!

 俺と同じ平均的なステ振り!

 神父に言わせればチキン型らしいが、これは万能と言う優れた振り方なんだぞ。


「どう、リュージ? ウケるわよね!」

「お前のステ振りの方がよっぽどウケるわ!」

「も、もう! この世界のシステム、知らないから偏らないように振っただけよ」


 いや、貴女の考えこそ正論です。

 食事もステ振りもバランス良くだ!


「ありがとう、これでもしものときは対応できるかもしれません」

「さすがですね、リュージさん」


 照れるなあ。

 仲間の得手不得手くらいは理解しておくのは当然ですよ、ニーニャさん。


「しかし、魔王がいつ来るかわからないんじゃ、武闘大会を開いている余裕はないだろ?」

「そうですよね」

「そうでござるな」

「あんた、また口開いたから30万ね」

「リュージ殿、お金を少々貸し……」

「断る」


 俺まで破産に巻き込むな。

 

「そういえば、ダリアさん。俺がこの世界に来る以前のこの世界に俺は行くことができるんですか?」

「行くと大変な目に遭うわね。貴方は3か月ほど前にこの世界に来たことでこの世界に道を作ることができたの。道ができる前の所に行くと永遠に次元の狭間を漂うことになると思うわ。異世界間ってそんな簡単じゃないのよ」


 こわっ!

 強制的に元の世界に戻されるなら俺としてはぜひお願いしたいところなんだが。


「リュージさんが来た直前に戻れば、そこから約3か月は確実に準備できますね」


 今までの苦労が無しになるのか。

 ダリアの能力っていろいろ馬鹿げているよなあ。

 と言うか、四日前に戻れば魔界との戦争を開く必要無くなるんじゃね?

 いつかは準備が必要だろうけど。

 

「皆さんだけ行って私はこの時間帯に残してください」

「え、ニーニャん。どうして?」

「今の私はここが居場所ですから……私はこの時間にいたいです」


 心の強い人だなぁ。

 誰もがやり直したい過去は持っていそうだけど、ニーニャさんは敢えてそれを自分に課して生きるつもりなのか。


「別にいいわよ。過去に行ったって記憶が無くなるわけじゃないし、不幸のやり直しは後々大きなものとなって襲ってくるって考える研究者もいるくらいだからね。それに私が移動した過去からすると、この時間帯は未来になるからここには二度と戻れないし。跳んだ先が今の時間より経ったときでも狙ってここに戻ってこれるとも限らないのよ」


 この能力は本当にややこしいな。

 時間移動といっても実際には過去の無数にある並行世界のどれかに跳ぶってことか?

 過去に戻った時点で今の世界は未来になるのもわからなくはないな。

 図で改めて書いてみるとなんとなくわかる。

 それを理解できたのは俺とユーナと愛輝くらいだ。

 ニーニャさんはそもそも過去に戻る気もないって言ってるし。


「ありがとうございます、ダリアさん。せめて、その時間軸の私が悲しい思いをしないようにしてくれれば」

「それは約束しかねるわね。おっと、リュージくんはニーニャに自己紹介をしないといけないのが面倒だけど特に問題ないわよね?」


 えっ!?

 そ、そうか!

 俺を基準にして戻るなら3ヶ月前。

 この世界へ跳ばされた直後の時間軸に来るとニーニャさんは俺とまだ出会ってもいない。

 つまり、俺が今まで頑張りに頑張った好感度も0になるのか。

 あかん、それだけはあかんでぇ!

 俺の嫁計画が遠のくでは無いか!

 ……俺も行くのやめようっと。

 

 



 





 

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