第28話 リュージ編28

 翌朝、目が覚めると頭がズキズキと痛む。

 二日酔いではない。

 

「リュージ、朝よ――。いつまで寝ているの? って、顔真っ赤じゃない? どうしたの?」


 顔が赤い? 

 まさか、風邪でも引いたのか。

 少し朦朧としているのも熱が出てるからか。 

 連日忙しかったもんな。

 いや、あのスライムのときの暴風雨が原因か?

 

「風邪でも引いたかもしれんな」

「ふぅん、ちょっとおでこ触るわよ。……熱いわね」

「やっぱりそうか。風邪でも治す魔法は無いのか?」

「風邪ぐらいで魔法を使う必要ないわよ。こういうときはね」

「こういうときは?」

「病院よっ! 一度、行きたかったのよね!」


 病院のほうが大袈裟だろうが。

 というか、病院があるのか?

 中世が基本の世界だから病院は無いと思っていたが、あるならもしものときも安心だな。

 保険適用は……無いよな。

 それよりもこいつ、自分が病院に行きたいだけじゃねぇのか?


「病院は遠慮する。どうせ凄く高いんだろ? 俺、金欠なんだよ」

「駄目よ、風邪を甘く見ちゃ! 1年間で3000人ほどが亡くなっている怖い病気なのよ!」

「たかが風邪だろ?」

「貴方ね、風邪で死ぬ気!? 死ぬ気なの!? まさか、もう死んでるの!?」

「死んでねぇわ。体温、あっちっちだったろうが」


 あ――、うるさい。

 病院に行くまでこんなうるさいの続くと思ったら、風邪がさらに悪化しそうだ。

 とりあえず、その病院の場所は知っておくべきか?

 仕方がない、ユーナにも恩義があるし見捨てたことの詫びに付き合うか。


「わかったよ。だが、欽治も連れて行くぞ」

「え、欽治も? リュージ、貴方まさか注射が怖いの? 怖いんでしょ? いえ、もう怖くてちびってるでしょ!」

「ちびってねぇし、怖くねぇわ。それより病院なんてドリアドにあったか?」

「ドリアドじゃないわよ。医療の町ホスピリパよっ!」


 聞いたことない町の名前だ。

 まさか、病院に行くために冒険なんて本末転倒なことにならないだろうな?


「遠いのか?」

「大丈夫、テレポートで連れて行ってあげるわ!」


 なるほど、テレポートで行けるということは一度その町にユーナは行ったことがあるみたいだな。

 多分だが、そのときに病院を初めて見て興味津々になった……こんな所か。


「わかった、わかった」

「決まりね。欽治をすぐに連れて来るわ! ついでに準備してくる!」


 ん、準備?

 出かける準備か。

 病人の立場にもなってくれ。

 待っている間は寝ておくか。

 マジで頭が痛い。


「……-ジ! リュージ! 行くわよ!」

「あ、あのリュージさん。大丈夫ですか?」


 すぐに眠りにつけるとは……。

 

「あ、ああ……すまない。ユーナ、頼んだ」

「さぁ、行くわよっ! テレポート!」


 この感覚もなんか慣れないなぁ。


 ヒュン

 

「着いたわ、医療の町ホスピリパ!」

「わぁ、凄いですね。白衣を着た人がいっぱいいます。強い人はいなさそうですね……残念です」

「さすが、医療の町ってところか」


 なんだろう、大学のキャンパスみたいに緑と建物に囲まれた綺麗な町だ。

 建物は中世っぽい感じでは無い。

 これもまさか俺の時代に近い人が建てたものなのか?

 俺の時代にある総合病院のような立派な建物まであるし。


「先に受付を済ませましょ!」


 ウィーン


「自動ドア? なんか首都グレンにあった建物より近代的なんだが」

「これが自動ドア? 初めて見ました」


 自動ドアを初めて見た?

 欽治がわけのわからんことを言ったが、今は受付を済ませないと。

 病院の中はかなり広い。

 元の世界に戻ってきたような感覚さえ覚えるほど見たままの総合病院だ。


「えーと、受付はどこかしら?」

「なんとなくわかるが、あっちだな」

「リュージ、来たことがあるの?」

「いや、無いがこういうのはだいたい決まっている」

「僕も病院は来たことがないので新鮮です!」


 そりゃ、あんなに強いあんたが病気とか考えられんな。

 俺のような繊細な人が病気にかかるのだ。

 とにかく受付を済ませて、さっさと座りたい。

 身体が凄く怠い感じがするのは熱のせいなんだろうなぁ。


「あ、あそこね。リュージは少し座って休んでなさい。私が受付をしてきてあげるわ!」

「ああ、頼む」


 欽治に肩を借り、受付前のソファーに座る。

 なんか、ホテルのロビーに置いていそうなソファーだ。

 しかし、総合病院だけあって人が多いな。

 患者もそうだが、医者の数もかなり多い。

 

「それウケる!」

「だろ!」

「マジマジ!」


 研修生? 

 なんか、陽キャ感丸出しだな。

 医療は真面目な仕事だぞ。

 そんなところで駄弁ってないで仕事しなさい。


「リュージ、2階だって。行くわよ!」

「2階か。総合病院はこういう移動が面倒なんだよな」

「リュージさん、行きましょ。あそこにエレベーターがありますよ」


 エレベーターまであるのか。

 というか、欽治。

 自動ドアを見たことがなくて、エレベーターを知ってるって意味わからんぞ。

 

「凄い乗り物ね、面白いわ!」


 こら、エレベーター内で騒ぐな。

 他の人に迷惑だろうが。


「でさぁ、今日も飲みに行くんよ!」

「マジで!」

「マジマジ! マジ卍!」


 マジ卍ってなんだよっ!

 この研修生共も陽キャ感全開だな。


「で、内科はどこなんだ?」

「治療室の向こう側ね。あそこが治療室だから、あの向こうの部屋ね」


 この長い廊下に迷路みたいな造りも総合病院あるあるだよなぁ。

 というか、内科に行くまでに歩かされすぎなんだが。

 頭は痛いし、汗も凄い出て来る。

 これだけで風邪が治ったら笑いものだな。


「はい、リュージさん。ソファーですよ」

「すまないな。欽治」


 ここで先生に呼ばれるまで待つのか。

 内科だけあって待ってる人も多いな。

 主に高齢者だが。

 隣の治療室の中が見える。

 看護師も多いな。


「でさ――昨日インスタに載せたらさぁ」

「マジ? どこのブランド? インスタ映え不可避じゃん」


 インスタってどういうことだ?

 というか、この病院は陽キャな奴らしかいないのか!


「ウェーイ!」

「ウェーイ!」

「これマジヤバいって! マジ卍!」

「これSNSに拡散するね! メスでダーツした件についてって」

「ちょ、それバズるって! マジ卍!」


 ……この病院はパリピの巣窟か?


「楽しそうですね」

「さすが、病院ね!」


 違うだろ!

 医療器具で遊ぶ時点でおかしいだろ!

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