第29話 リュージ編29
「神薙龍識さん、中へどうぞ」
「ほら、行くわよ。リュージ」
「ああ」
「僕はここで待ってますね」
ユーナと一緒に診察室へ入る。
っていうか、お前は俺のおふくろかよ。
恥ずかしいから、付いてくるなよ。
診察室へ入ると白衣を着た男性がいる。
とてもこのパリピ病院の医者とは思えない真面目そうな人がカルテにいろいろと書いている。
さすがに電子カルテまでは無いんだな。
さっきのSNSとか何だったんだ。
それよりも元の世界の診察室と同じ光景にどこか違和感を感じる。
「ウェーイ! 今日はドゥしたのかな? チミ」
この医者もパリピか!
見た目で判断した俺が馬鹿だった!
「えと、今朝から熱と頭痛と悪寒がありまして……」
「えっ、風邪引いちゃった? マジで? マジ卍で?」
だからマジ卍ってなんだよっ!
ってか、初対面で馴れ馴れしすぎるだろ!
これだからパリピは!
「マジ卍! 単なる風邪、ウケるわよね――!」
ユーナも初対面で馴れ馴れしいぞ。
「お、中々のべっぴんさんじゃん! この娘、リュージの彼女?」
「「違います!」」
いきなり呼び捨てかよ!
それより診察しろ!
「息合ってるぅぅ! 僕ちん、草生えたわ!」
「先生、とりあえず風邪薬を出して下さい」
「あ――はいはい。まずは口開けて中だけ見せて、ウィ?」
ウィ? って何だよ。
仕方なく口を開ける。
「なるほどなるほど。マジ、インスタ映えするわぁ」
どこに口の中をインスタに上げるやつがいるんだよ。
ってか、スマホ取り出して写真撮ってんじゃねぇ!
「いや――。銀色の石を歯にくっつけるって……リュージ、流行の最先端行っちゃってるぅ! ウェーイ!」
虫歯の治療したやつか。
この世界では治療法が異なるのか?
どちらにしても、こんなのが流行の最先端じゃないのは確かだぞ。
「で? 俺は風邪ですか?」
こんなパリピの巣窟に長くいると余計に具合が悪くなりそうだ。
さっさと薬を貰って、家で休むに限る。
「ノリ悪いぞ――。僕ちん、ぴえん」
「風邪ですか?」
「ウィ、ウィウィ。単なる風邪だねぇ。大丈夫、死なないから!」
「ぷっ、単なる風邪だってリュージ! マジウケる――!」
お前が病院に行こうって言ったんだろうが!
「じゃ、彼女さんまたね――!」
「「違います!」」
ここの連中は本当に医療従事者か?
医者よりホストの方が天職だと思うぞ。
「凄い、お医者さんだったわね」
「まったくだ」
「あの病人を病人とも思わず対応する、さすがね!」
駄目だろ!
身体がだるいときにあんなのは逆効果だっての。
「あれ、欽治はどこかしら?」
「あいつ、ここで待っているって言ったしトイレじゃないか?」
「じゃ、少しここで待ってて! 私が会計を済ませてきてあげる」
「ありがとう、助かるよ」
診察室前の椅子で欽治を待って20分、あいつどこに行ったんだ?
トイレに行って迷子とか?
有り得そうだな。
誰かに聞くっていう手もあるが、あのパリピ共は駄目だ。
話が通じん。
「さっきのあの子、モデル級じゃね?」
「マジ、ゆめかわだよね――」
ユーナのことか?
それとも欽治?
いや、別人ってことも有り得るが聞いてみるか?
話が通じるか?
「あの、看護師さん。その子ってどれくらいの子でしたか?」
「え、なに? ストーカー?」
「ググればいいじゃん!?」
ググっても出ないでしょうに、そんな個人情報。
この病院にまともな奴はいないのか。
建物は素晴らしいのに、中で働く人たちが常時パリピとか止めてくれ。
しかし、気になっていることも有る。
この町にはインターネット的なものがあるのか?
ドリアドは中世らしい建物ばかりだし。
町によって発展が異なるって、俺の世界の人間が関係してそうだな。
「ちょ、ちょっと。止めてください」
お、欽治の声だ。
2044号室?
病室だよな?
なんで、こんな所から欽治の声が聞こえるんだ?
ガラガラガラ!
扉が急に開いて欽治が飛び出してきた。
「うわっ!」
「あっ! リュージさん、診察終わったんですね」
「ああ、それよりここに知り合いでもいるのか?」
部屋の中をそっと覗いて見る。
「ふむ、リュージ。貴様か! 私の欽ちゃんをどうするつもりだ!」
ふぁっ!?
杏樹、なんで入院しているんだ。
ミイラ男みたいに全身を包帯でぐるぐる巻きにされている。
あの怪獣王にやられたのか?
残念だったな、死ねなくて。
「ちょっと、武者小路さん。大怪我なんですよ! 安静にしてください!」
「大丈夫だ! ……いや、看護師さん。私と一緒に寝てくれたら大人しくするぞ!」
……こいつは本当に逝ってほしかった。
下手に付いて来られたら大変だ。
さっさとずらかろう。
「欽治、行くぞ」
「あっ、はい。じゃ、じゃあ杏樹さん、またお見舞いに来ますね」
「ああ、私の欽ちゃんが! だが、看護師さんも捨てがたい! くぅ――! より取り見取りだ!」
ブシュ――!
「あふん」
「ほら! 興奮するから、頭から血が噴き出してるじゃないですか!」
看護師さん、そのまま放置しておいてくれ。
失血で逝った方が貴女のため、いや……この世界の男性のためになる。
欽治とも合流したことだし、一階の会計前に行くとしよう。
ユーナも待ってるだろうし。
「欽治、なんであの病室に杏樹が居ることを知ってたんだ?」
「えっと、あの病室の前を通ったときに、そのまま引き連れ込まれたんです。気配もなかったので、凄く驚きました」
さすがだ、杏樹。
危険人物極まりないな。
「あっ、リュージ遅いじゃない! 女神の私を待たせるなんて何様のつもりよっ!」
「病人様だよ」
「ま、まぁまぁ」
「会計は終わったのか?」
「何、言ってんのよ。支払いは貴方よ。はい、明細書」
はいはい、支払いは別の窓口になるのか。
保険制度なんて無いのに思っていたより安いな。
会計を済ませて、病院を出る。
やっと、これでパリピ共から解放される。
「ユーナ、テレポートで帰ろう。マジで横になりたい」
「えっ、ちょっとくらい遊びましょうよ! この町、いろいろあって面白いわよ」
お前、やっぱりそれが目的か!
「で、でも女神様。リュージさん、調子が悪いようですし」
「リュージは病院のソファーで少し休んでなさい! 行くわよ、欽治!」
欽治を無理矢理引っ張って連れて行ってしまった。
また、あのパリピ共の巣窟で休む?
そんなこと出来るか。
どこか休める所でも探すとするか。
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