第27話 リュージ編27

 怪獣はごくごく賢者という意味不明な存在によってこの世から消え去った。

 ま、経緯はどうあれこの世界の脅威が一つ無くなったのなら儲けものだ。


「救世主様、どうしても行ってしまわれるのですか?」

「はい。皆さん、ありがとうございました」

「「おおっ」」


 そんな可愛すぎる笑顔で言うな。

 村の男性陣の心を鷲掴みにしてしまってるだろうが。


「よし、今度こそ。ユーナ頼むぞ!」

「さぁ、みんな! 集まって、テレポート!」


 周囲が光に包まれる。

 光が収まると、目に入ったのはドリアドの町の冒険者ギルドだった。

 瞬間移動って初めてだが、一体どんな仕組み何だろうか?

 魔法に仕組みを求めても意味無いのか?


 町は当時の状態でボロボロのままだ。

 ギルドは建物自体は綺麗なままだが、中は凄く荒らされている。

 これを元の状態に戻すのが、当面の目的になるのか。

 俺は少しでも早く元の世界に帰りたいが、それを優先しようにも今回の出来事で金を使い果たしてしまった。

 町の復興を手伝い、依頼で稼いでからになりそうだ。


「酷いです。誰がこんなことを?」


 そういえば、欽治は知らないんだよな。


「自称勇者ってところかな?」

「え? 勇者がいるんですか?」


 え、勇者を知らないのか?

 いや、余計な事は言わないでおこう。

 欽治は一人でフラフラっとどこかへ行ってしまう奴だ。

 勇者がいるみたいことを言うと戦ってみたいですとか言うに決まっている。

 俺の安全のために欽治は常にそばに置いておきたい。

 この前は変な勘違いをさせてしまったようだが……。


「ドリアドの町を復興しないとな」

「ええ、そうですね。勇者とはちょっと戦ってみたいんですけど、えへへ」


 やっぱり、勇者と戦いたいって言ってきたよ。

 あれは自称勇者だ。

 見た目は勇者じゃなくて世紀末悪党だし。

 欽治にとっては雑魚以下だと思うぞ。


「ユーナさん、ありがとうございます」

「ふふん、この女神にとっては朝飯前よ! ありがたく思いなさい!」


 朝飯前なら、その魔法を攫われた後にすぐに使えよ。

 

「今日はまず殺された男性の供養をしないといけないわね」

「そうですね。まだアンデッド化していないようで助かりました」


 ゾンビか。

 こういう世界ではお約束だよなぁ。

 動く死体なんて考えただけで恐ろしい。

 

「では、作業に取りかかりましょう」


 犠牲者は町の男性がほとんどだ。

 どこの町でもこのようなことが行われているなら、あの自称勇者もなんとかしないといけないよな。

 元の世界に戻れたら俺には関係ないんだが、戻れないときのことを考えると欽治にさっさと処理をしてもらったほうがいい。

 これからは欽治を有効活用して安心安全な生活を送りつつ、元の世界に戻る方法を探すってところだな。

 なんてことを考えながら、作業にとりかかった。

 

 日が暮れるころには近くの墓地に被害に遭った方を集めることができた。

 この世界は死体を放っておくとアンデッド化する。

 それなら火葬なんだろうと思っていたのだが、どうやら違うらしい。


「おい、ユーナ。この世界は火葬じゃないのか?」

「火葬って何よ?」

「ゾンビ化しないために燃やさないのか?」

「はぁ!? ちょっと、リュージ! あなた、何言ってんのよ! 死んでも火炙りなんてそんなこと許されないわよ! 」

「じゃ、どうやってゾンビ化を防ぐんだよ?」

「ふふん、女神の私がきちんと供養するのよ!」


 あ、そういえばこいつプリーステスだったか。

 聖職者ならできて当然だな。


「ユーナさん、お願いしますね」

「ええ、任せて起きなさい」


 ユーナが聞き慣れない言葉を唱えだした。

 なんだろう、お経みたいなものか?


「リュージさん、私たちは目を閉じて黙祷です」


 黙祷か。

 こういうのは変わらないな。


「あ、貴方ぁ!」

「ずっと傍にいてくれるって言ってたのに!」


 帰還した住人にとっては辛いな。

 こういう雰囲気は苦手なんだよな。

 好きな人なんていないだろうけど。

 目を閉じているから、周囲の声が余計に大きく聞こえる。

 30分ほどこの時間が続いた。


「さぁ、終わったわよ!」

「ユーナさん、ありがとうございます」


 目を開けると並べられた遺体は綺麗さっぱりに消えていた。

 え? 

 燃やすどころか完全消去なの? 

 やだ、こっちのほうが怖いんですけど!


「リュージ、家に帰るわよ。お父さんも心配してるだろうし」


 明日からは町の復興作業か。

 当分は力仕事だな。

 こういうときは欽治のような筋力極振りは心強いな。

 また、フラフラと消えないように欽治もユーナの家に連れて行くか。

 あのおじさんなら快く受け入れてくれるだろう。


「欽治、ユーナの家に来ないか? 雪ちゃんも連れて」

「えっ! 良いんですか?」

「もちろん、良いわよ。女神の家に住めるなんて、貴方たちはこれから幸運しか来ないでしょう!」


 不幸ばっか来てるんだが!

 俺とユーナ、欽治、そして気持ちよく寝ている雪をおんぶして家に帰った。


「お父さん、ただいまぁ!」

「おおっ、ユーナ! 無事だったのか! リュージくんも!」

「ご心配をおかけしました。後で詳細をお話しします」

「ああ、まずは身体を休めなさい。ん? そこの子は?」

「え、えと佐納欽治です。こちらは妹の雪です。よ、よろしくお願いします」

「おじさん、この子たちも泊めていただいてもいいですか? 俺やユーナの窮地を救ってくれたので」

「もちろん、いいとも! ははは、一気に賑やかになったね。嬉しいよ!」


 おじさんはとても嬉しそうだ。

 だが、目の下にクマが出来ている。

 心配で眠れていなかったのだろう。

 おじさんの作ってくれた夕食をみんなで食べて、その後はユーナは自室に、欽治と雪ちゃんは客間で休んでいる。

 俺はおじさんに今回の顛末を話した。

 もちろん、俺がユーナを見捨てたことは隠してだけど。


「ふむ、勇者様を語る悪党ねぇ。せいきまつだったかな? どんな格好か知らないが、盗賊はどこにでもいるからねぇ。ただ、ドリアドの町を壊滅させるほどの盗賊は聞いたことが無いよ。あの町は娘が防御壁を張っているから、それを易々と超えて来るとは」

「防御壁……ですか?」

「おや、リュージ君は知らなかったのかい? ドリアドの町は世界でも数少ない結界で守られた町なんだよ。安全だから、昔は遠方から引っ越してくる者も多くてねぇ」

「どんなことを防ぐのですか?」

「モンスターは当然として、盗賊団のような悪意ある者も防御壁に触れただけで蒸発するよ」


 蒸発!? 

 こわっ! 

 というか、そんなのユーナから聞いていないぞ。

 あいつはどんだけ隠し事が多いんだよ。


「ユーナが結界を張る前はどなたが?」

「ん、娘から聞いていないのかい? 儂の妻だよ」


 なるほど、ユーナの母親か。

 そんな力があったならユーナに受け継がれたのもうなずける。

 

「しかし、そんな防御壁を普通に通り過ぎて来たと言うことは悪意のない者ってことになりますよね? それとも破る方法でもあるんですか?」

「悪意のない盗賊団なんていないと思うのだがね。防御壁を破る能力を持っているのはあらゆる魔法を無効化する左手を受け継いでいる勇者様くらいだよ。」

「無効化ですか?」

「そうだよ。左手を添えるだけであらゆるものを無効化してしまうんだよ。その力が無いと魔王は倒せないと言われているね」


 あらゆる力を無効化ってどこかで聞いたような? 

 あれだ、最強に勝てる最弱。

 じゃあ、あの自称勇者はマジもんの勇者ってことになるのか?


「その能力が防御壁を破ったとすると、やはり本物の勇者ってことですか?」

「どうだろうね。勇者様がそんなことをするとは思えないが、儂も勇者様を見たことがないから何とも言えないね」


 その能力が無いと魔王は倒せないのか。

 あの世紀末風悪党共は次に襲って来たときには、欽治に掃除して貰おうと考えていたが心配になってきたな?

 放置はしておけない存在だし。

 本物の勇者だとしても欽治に取って変わって貰うか。

 だが、欽治は脳筋だしな。

 俺が摂政として欽治を補佐するか?

 裏から世界を操るとか面白そうだ。

 働いているふりして仕事を誰かに任せ、俺はスローライフを。

 うぉぉ、最高じゃん!

 ならず者や魔王を駆逐できる欽治が前線で戦うほうが世界のためになりそうだし。

 そうだ、ニーニャさんを秘書として雇おう。

 いつもそばにいることからニーニャさんに恋心が芽生え、その後、結婚……。

 こ……これだぁぁぁ!

 

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