第25話 リュージ編25

 雪には強制的に相手を服従させる能力がある……らしい。

 実際に飛竜は、雪のお陰で助かったし。

 ただ、この性格の荒い雪にお願いをして助けてもらえるかどうかだが、やってみないとわからないこともあるし、とりあえず聞いてみるか。

 問答無用で殴られるのは勘弁だけど。


「雪ちゃん、あそこに見える怪獣なんだけ……ぐへぇ!」


 顔面キックを入れられた。

 やっぱり、この雪は扱いにくいか。


「んだよ! 馴れ馴れしく雪ちゃんって呼ぶんじゃねえよっ! 姐さんだろうが!」


 そうだった!

 見た目が雪だから、つい呼んでしまったが姐さんと言わないと殴られるんだった。

 今は雪に頼るしか無いんだ。

 耐えろ、俺!


「それにしても、あの怪獣カッコいいな。あれってキングギ……」

「姐さん! あの怪獣を従わせて、どこかに追いやれないですか!」

「ああ!? 追いやるだぁ? んな可愛そうなこと誰がやるかよ! あれはあたいの舎弟3029号にするんだ!」


 えええ、舎弟って?

 3029って何だよ?

 3029人も舎弟が居たのか?

 そういえば、欽治が言ってたな。

 元の世界で怖いお兄さんも従わせていたって。

 どんだけ特殊能力持ちなんだよ。

 ま、それでも今は助かるならいいが。


「まずはあいつを呼び寄せるとするか」


 ふぁっ!?

 呼び寄せる?

 何、言ってんだよ!

 そんなことしたら温泉街が滅茶苦茶になってしまうじゃないか。

 

「舎弟1号、来い!」


 舎弟1号?

 元の世界にいたころから舎弟を作っているなら、さすがにここには来ないだろ。


 ヴヴヴ……ヴン!


「姐さん! いかがしやしたか?」


 キタ――!

 怖いお兄さんだ。

 もう見た目からして怖いお兄さんだよ!

 どうやって来たの?

 え、元の世界とここって簡単に行き来できるものなの?


「ちょっと、あそこにいるデカいのこっちに呼んでこいや」

「はっ! 姐さんのためなら何なりと!」


 怖いお兄さんが怪獣の元へと走って行く。

 危険ですよって言いたいが、怖くて言えない。


 ギュエェェェ!


 怪獣の口から雷撃が放たれる。


「あふん」


 言わんこっちゃない。

 ありゃ、死んだな。


「まったく、使えねえやつだ」

「雪ちゃん、あの怪獣をこっちにおびき寄せるの?」

「誰が雪ちゃんだ! この雌豚が!」


 ユーナ、今の雪をあまり刺激するなよ。

 雪がユーナのほうに手をむける。


「はは――! 雪様、何なりとご命令を!」


 ユーナが雪に服従させられたぁぁぁ!

 何とも清々しい土下座だ。


「よし、舎弟3029号! あいつを呼んでこい!」

「はっ、雪様! ヘイトアテンション!」


 ぎゃぁぁぁ!

 なんで、そんな魔法覚えてるんだよ!

 それは杏樹の特権だろう!

 うわぁ、怪獣さんがこっちを睨んでいらっしゃるよ。

 あかん、死んだ。


 ドォン! 

 ドォン!


 ひぇぇぇ!

 やっぱり、こっちに来たじゃないか!

 なんてことするんだ! 

 この女神(仮)が!


「だぁぁぁ! 姐さん! この温泉街にあいつを呼び寄せたら、壊滅しちゃいますよ!」

「気にするな。黙って見とけ」


 気にしますわ!

 俺たちのせいで温泉街が壊滅しちゃダメでしょ!

 

「お座り!」


 あの怪獣に向かって大きい声で叫ぶ雪。

 何、言ってんだ?

 そんなので従わせているのか?

 それなら安心だけど。


 ドォン! 

 ドォン!


 怪獣が雪の声に反応もせず、こっちを睨みつけてやって来る。


「あれ? なんで、あいつには効かないんだ?」


 ちょ、ちょっと待てって……。

 なんてことだ……。

 雪のせいで温泉街が滅茶苦茶になるまであと数分くらいしかねぇ。


「おいっ! お座りだ!」


 そんな犬を扱うみたいなことで止まるわけないじゃないか!

 あかん! 

 もう、あかん! 

 終わりだぁぁぁ!

 

「……あいつ、知能がないのか? わりぃ、あんちゃん。あいつ、パペット効かないわ。あははは!」


 笑ってんじゃねぇぇぇ!

 

「ふぁ? ……え、えええ!? 近付いて来てるじゃない!? リュージさん! リュージさん! もう駄目よっ! おしまいよぉぉぉ!」


 正気に戻ったのか、ユーナは号泣して叫んでいる。

 俺も泣き叫びたい気分だよ。

 雪、有能かと思ったが……。

 こいつも駄目だ、うん。

 危険をわざわざ呼び寄せてしまう時点で杏樹と変わらない。

 もう片方の雪なら大歓迎だな、可愛いし。

 正直、お持ち帰りしたい気分になる。


 ドォン! 

 グシャ!


 村の柵を踏みつぶす怪獣。

 もうどうしたらええねん!

 ニーニャさんはまだなのか?

 まあ、この天候じゃなぁ。

 吹き飛んできた看板とかに当たって怪我とかしてないだろうか?

 

 ギャゥゥ!

 キュエ!

 ギャウウウウ!


 怪獣の頭、三頭のうち一頭が頭を反り口元を光らせている。

 あ、終わった。

 あいつも口から光線吐けるんだった!

 どうすんだよ!  

 詰んだ! 

 詰んだよ! 

 詰み終わってるよ!

 こうなりゃ、仕方がない。

 せめて、ここにいる俺たちだけでも。


「ユーナ! 今すぐテレポートだ! もう時間がない!」

「え、いいの? 跳んでいいの! 跳ぶわよ! 後で何を言っても無理だからね!」


 すまん、ニーニャさん。

 貴女のことは十年くらい忘れない。

 一生?

 知らんな。


 ギャウウウ! 

 ビ――!


 光線が俺たち目がけてやって来る。

 早く飛べって、ユーナ!


「ダメ、詠唱が間に合わ……」


 パァン!


 ふぁっ!?

 光線が弾き、空へ飛んでいく。

 何が起こったんだ?


 ドォン!

 

「はわわわ! やっぱり、ドラゴンです! 素晴らしいです!」


 え?

 この聞き覚えのある頼もしい声は?

 

「姉ちゃん、すご――い、すご――い!」


 雪が喜んでいる。

 というか、今の乱暴な雪が慕う奴といえばアイツしかいない。

 

「倒剥の型……」


 東北? 

 また、ダサい名前の必殺技か?

 だが、威力はお墨付きだ。

 まさか、その必殺技ってまさか47種類もあったりするのかな?

 気になってきたぞ。


「射我鎚剣!!」


 岩手県キタ――!

 太刀を地面に刺し柄を反動にして、自ら大砲の玉のように怪獣目がけて飛んでいく。

 本当に格好良いな、貴方が女なら惚れてるくらいだ。


 ギュアア!!


 だが、アイツの取り柄の太刀を地面に残して、飛んで行ったら攻撃できないのではないのか?

 

 ブシャァ!


 怪獣の三頭のうち左側の首が削げ落ちる。

 今、何をしたんだ?

 欽治が両手につかんでいるのは小太刀?

 しかも二刀。

 二刀流なんて恰好良すぎだろ!

 そういや、背中の太刀と脇差を二刀持っていたな。

 あの脇差が小太刀だったのか。

 だが、あの怪獣の凄いところは首が落ちても残り二頭がある限り生きられるということだ。

 

「はわわわ! なんて、凄いドラゴンなんでしょう!」

 

 なんか、欽治の様子がいつも違うな。

 興奮してるのか?

 ま、見た目がドラゴンだからな。

 ドラゴン狩りが趣味なアイツにとっては嬉しいんだろう。


 ギャゥウ!


 怪獣が再び空中に飛び上がる。

 そうなんだよな、あいつ空飛べるんだよな。


「宙極の型!」


 中国? 

 あ、中国地方ね。

 だが、相変わらず必殺技名がねぇ。

 それって、なんていう流派?

 まさか、都道府県なんてこと……ありそうだな。


「捕鶏剣!」


 鳥取県キタ――!

 小太刀一刀を先ほど地面に刺した太刀に向かって投げつける。

 何をしてるんだ?

 相手は空だぞ。

 小太刀が太刀の横を通り過ぎる。

 外してるじゃないか。


「それっ!」


 大きな掛け声と共に小太刀が軌道を変える。

 太刀の周りをぐるぐると回転している。

 何だ? 

 何が起こってるんだ?


「ハッ!」


 グンッ!


 太刀が地面から抜け小太刀と共に欽治の元に戻っていく。

 ん、なんか今光ったよな?

 目を凝らして見てみると鉄線がつないである。

 小太刀の柄の中に鉄線が内蔵しているのか。

 まさか、仕込み刀なんてな。

 なるほど、鎖分銅のようにも使えるのか。


「ドラゴン倒したい! ドラゴン倒したい! 早くぅぅぅ、戻ってこい!」


 もう、目がやべぇぇぇ!

 まるでバーサーカーのような感じになっている。

 太刀をつかみ、構えを取る。

 

「禁忌の型ぁぁぁ!」


 禁忌って凄い気合入ってるやん!


「豹弧剣!!」


 兵庫県キタ――!

 大阪やないのが残念やけど、しゃあないか。

 太刀を空中に投げて、何するんや?

 続きがありそうやし、何かするんやろうな。

 

「どぉぉりゃぁぁあ!!」


 両腕を大きく振り下ろす欽治。

 はっ!

 また鉄線か?

 空高く飛んで行った太刀が弧を描きながら物凄い早さで怪獣目掛け落ちていく。


 ブシャァァ!!


 怪獣の胴体が縦斬りに真っ二つになる。

 もう、ほんまに欽治が勇者でええんちゃうか?

 強すぎやろ!

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