第24話 リュージ編24

 おいおい、一度ならず二度までもなんでこんな目に遭うんだよ。

 マッドサイエンティストの日記にそれらしき事は書いてあったが、アレにも逃げられたのか?

 作るならしっかりと管理しろよ!

 しかし、ユーナは俺の世界の創造物など知らないはずだが……。


「ユーナ、なんでアレの名前がわかるんだ?」

「え? だって、これを首都から逃げるときに貰ってきたの」


 ん? 

 転生者の日記か。

 ユーナから手渡され読んでみる。

 えらく達筆だな?


 二代目勇者と名乗る輩に魔王討伐のための兵器を作れと頼まれた。

 そんなものまともな機材も無いのにできるわけがない。

 一向に研究が進まない私に魔法使いを名乗る女が現れた。

 数本の不思議な薬品を机上に置き、説明もせずに帰って行った。

 ちょうど、飼育していたビッグモスの幼虫に飲ませてみた。

 20日後、体長が10mを超える巨大生物になった。

 素晴らしい!

 この姿はまさに私の世界の怪獣そのものでは無いかっ!

 さまざまなモンスターで試してみるが、強大化する薬品以外はどのような効果が起きているのか不明のままだ。

 魔法使いから貰った薬剤を組み合わせ、再投与。

 ねずみの身体は巨大化し、性格は凶暴化する。

 こちらの命令は相変わらず反応せず。

 別の薬品との組み合わせで再実験。

 異形の魔物になるものの凶暴化は改善できない。


 そこからも、日々失敗の出来事ばかり綴られている。

 

「おい、この日記とアレと何の関係があるんだよ?」

「もう、そこじゃないわよ。もっと後ろ」


 ページをめくり最後のほうを読む。


 完成だ、素晴らしすぎる!

 相変わらず命令は聞かないがスライムで実験したところ任意の形に調整することができた。

 まずは、これで怪獣王を作るぞ!


 あ――。

 これって自称マッドサイエンティストの日記か。

 さらに続きが書いている。


 怪獣王ができた!

 うっひょぉぉぉ、これは素晴らしい!!

 喜びに更けて弟子と一緒に焼き肉へ行こう。

 翌日、研究室にデカい穴が開いていた。

 やっべ!

 逃がしちゃったよ!

 何が逃げたのか聞かれたが、ここはウサギ型モンスターが逃げたと伝えておいた。

 あれだけデカいのに気付かれなかったのが不思議なくらいだ。

 このまま、研究に没頭できる。

 前回は逃がしてしまったが、今回もスライムで作ろうと思う。

 次は怪獣王のライバルだ。

 頭が3つというのが、なかなかに難しい。

 スライムにゴールドスライムとスライムフライをかけ合わせてみる。

 飛んだ!

 頭も3頭再現でき、別々に動いている。

 うっひょぉぉ!

 しかし、嵐が収まらないのはこいつのせいか?

 身体を軽くするためにエアースライムを混合させたのが原因か?

 だが、怪獣王のライバルも完成だ!

 今夜は弟子と一緒にキャバクラへ行こう。

 翌朝、研究室にまたしてもデカい穴が開いている。

 やっべぇぇぇ!

 まぁた、逃がしちゃったよ!

 遂に王城から呼び出しがかかり、いろいろと質問された。

 巨大生物のことは隠し通せたが、このままではいつか気付かれてしまう。

 貰った給料と退職金で自分の研究所を建てるために勇者の元から去った。

 研究所ができたら、次は紫色の人造人間でも作ってみようか?

 もちろん、暴走化は付けるつもりだ。

 おっと、その後は赤色と青色のも作らないといけないな。

 することがたくさんありすぎて、こりゃ忙しくなるぞぉ!


 ……また、お前かぁぁぁ!


「はぁ、もうわかったよ。モンスターの名前だけはここにも載っていないぞ?」

「何、言ってるの? ほら、ここに名前書いてるでしょ」


 日記帳の最後のページに実験で作られたモンスター一覧表が貼られている。

 1体目はモス〇

 まぁ、ビッグモスをさらに巨大化させただけだもんな。

 18体目はゴスラ?

 19体目の3つ首のモンスターはキングギスラ?

 スライムでできているからか?

 製造予定表がその後に続いて書かれている。

 紫色の人造人間……スヴァ初号機?

 スライムでできたら誰が乗るんだよ、却下だ!

 ファンの人も黙っちゃいないぞ!

 あ、最新映画見ました!

 最高でした!


「ユーナ、助かった。あのモンスターも俺の世界の人が作ったもののようだ」

「凄いわね。リュージの世界にはカッコいいモンスターばかりいるのね。羨ましいわ」


 いや、特撮の世界ですけどね。

 本物は存在しませんよ、ってなぜか言いにくい。

 それよりも、この村の人たちも避難させるべきだろうな。


「ユーナ、テレポートでこの村の住人や宿泊客も飛ばせるか?」

「え? それは無理よ。テレポートっていう魔法はその人が行ったところにしか移動できないのよ。あくまでも脱出魔法だからね。他の人が知っているからって相乗りみたいなことはできないのよ」


 マジかよ、使えね――。

 じゃ、ドリアドの住人以外は見捨てるってことになるのか。

 それは、この旅館の女将さんや他の町の住人たちに罪悪感を感じてしまうのだが。

 できる限り、恩を仇で返す真似だけはしたくない。

 いや、余計な手間になることはわかっている。

 女将さんたちはどうするのか、聞くだけ聞いてそれから考えたい。

 戦うとかだったら、俺は見捨てるしかなくなるが。

 だって、あんなの勝てるわけないだろ。


「女将さん、皆さんはどうするつもりです!?」

「うちらは気にせんで良いわよ。多分だけど賢者様が守ってくれるからね」


 賢者?

 アレを倒せるというのか?

 見てみたい気もするが、見ている間に村は壊滅しそうだよなぁ。


「賢者様が戦うのなら、余計に足手纏いになるのでは? 避難ができる場所に行っておくほうが良いかもしれないです」

「そうかもしれないわね。裏山の展望台なら村の様子も一望できるので、そこまで避難するとしましょうか」


 良かった。

 いささか距離が近いことが懸念されるが、大丈夫ということにしておこう。


「では、他の宿の女将さんに連絡を取って、展望台へ避難をするように伝えてください」

「ほんと立派だねぇ。貴方、冒険者?」

「ま、まぁ……はい」

「旅のプロなら間違いないわね。わかったわ」


 これでドリアドの住人以外は大丈夫だろうと思いたい。

 俺たちは全員集まり次第テレポートで帰還するし、壊滅した村は女将さんたちが何とかするだろう。

 生きていてくださいよ、また来たいから。


 ギュアァァ!

 キュアァ!

 ギャウウ!


 ドォン!


 ひぃぃ、降りてきた!?

 よりにもよって村の前の街道に降りてきちゃったよ!


「ちょ、ちょっと、リュージ! 降りてきたわよ! あいつ降りてきちゃったわよ! テレポートしていい? しちゃう? もう、しちゃうわよ!」

「ちょっと待てぃ! ニーニャさんたちを置き去りにするのか? お前も結構、外道だな!」

「誰が外道よ! 私は女神なのよ! 女神は千人の人間の命より高いのよ!」

「誰が女神だ! ヒューマンの単なるプリーステスだろうが! 人を見捨てる時点でお前は女神もプリーステスも失格だよ!」

「ふぇ……リュージが言ってはいけないこと言った! 女神の私に酷いことを言ったぁぁ!」

「泣けば済むと思うなよ! 女の武器は涙だぁ? ふざけんな! 男女平等の世界で涙なんぞ単なる塩水だよ! 塩水!」

「うわぁぁぁん!」


 あ――、うるさい。

 こいつは目を離すと自分だけテレポートして逃げそうな感じがしてきたぞ。

 部屋にいる雪も心配だし、一度部屋に戻るか。

 もちろん、こいつは引きずってでも俺の目の届くようにしておく。


「雪ちゃん、大丈夫か?」

「ああん! 誰が雪ちゃんだ? てめぇ!」


 ひぇぇぇ、入れ替わってる!

 幼児モードじゃなくて姐さんモードになってるよ。

 これは言葉を間違うとボコボコにされてしまう。


「姐さん! 失礼いたしやした! 森で寝ていた姐さんをここまでお連れさせていただきやした!」


 ドォゥ!


 せつが俺の顔面を殴りつける。

 痛てぇ! 

 何で殴られたんだ?


「誰が誰をこんな辺鄙な場所に連れて来たって!? あんちゃん、あたいに変なことしてないだろうな!」

「していません!」

「本当だろうな? おい! そこのブス! ところでお前は誰だ?」

「ちょっと、雪ちゃん!? どうしたのよ!? 頭でもぶつけたの! 頭、大丈夫!?」

「うっせぇ! おら! ブス、名前を間違えんじゃねぇ! あたいはせつだ!」

「え? ちょっとちょっと、リュージ? 雪ちゃん、頭おかしくなったの?」


 俺はユーナに雪の生まれつきある性質と能力を教えてやった。


「ふぅん……ねぇ! リュージ、雪にそんな能力があるのなら、あのモンスターを従えさせられないのかしら?」


 ふぁっ!?

 ……そ、それだぁぁぁ!

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