第22話 リュージ編22
「うぇ、リュージ……ちょっと背中摩ってよ」
「飲みすぎるからそうなるんだろうが」
俺が吐きそうになった時は必至に吐くなと言ってたやつが、こうなるとはな。
自業自得ってやつだな。
だが、ここでこいつに吐かせたら、ごくごく民とやらは来るのだろうか?
見てみたい気もするが怖い気もする。
ま、吐いたら吐いたでごくごく民が来るとは限らないか。
「さて、寝るか」
「私、ちょっと夜風に当たってくるわ」
「道路で吐くなよ?」
「吐かないわよっ! うぇぇ」
そういってユーナは外に出て行った。
ここは温泉街だし安全だろう。
確信は持てないけど。
さすがにまた攫われてもテレポートで帰って来れることはわかったし放っておこう。
それよりも元の世界に戻る手段を探すのが先決だ。
やはり、魔王を倒すことなんだろうか?
苦労の末に魔王を倒して、元の世界に戻れませんでしたってことになるのだったらあほらしい。
何よりもまずは情報が大事だな。
そうだ、首都に何の用があったのかユーナに聞けなかったな。
ま、明日の朝にでも聞くか。
今日は疲れたし寝るか。
数時間後……。
俺もちょっと飲みすぎたかな。
まさか、トイレに行きたくなって起きてしまうとは。
何で部屋にトイレ無いんだよ。
見た目は高級旅館だがやはり中世か。
廊下にもあるわけではなく、ロビーから出て中庭にあったはずだ。
めんどくせえな。
ん?
ロビーに誰かいる。
何か騒がしいが。
ああ、他の客もトイレか。
ここにしかないんじゃな、そうなるよな。
「ちょっと! 早く出て頂戴!」
「おい、いつまで待たせるんだ?」
どうしたんだ?
余計な事に関わり合いたくないのだが。
10分ほど待っただろうか。
トイレに入ったまま出てこない人がいるようだ。
「ああ、もう! 漏れそうよ!」
「俺もだ! 早く開けろ!」
「ぐわー! もうちょびっと出ちゃったじゃねえか!」
トイレぐらいで騒ぐなよ。
と言いたいが、確かに長いな。
「おい! 出ないなら無理にでも開けるぞ!」
「おう! やれやれ!」
「そうよ! 早く開けて頂戴!」
バアン!
一人の宿泊客が扉を蹴破る。
「んだよ! 誰がこんな悪戯したんだ!」
「どうでもいいから早くしてよ!」
「俺、先に行っていいか!」
誰も居ない。
俺の世界の公衆トイレみたいに上にも下にも隙間の無いこの密室でか?
そのせいで臭いも凄いが。
どうでもいいが解決したなら早く用を足してくれ。
「ふぅ……天国だぜ」
「次はワタクシよ!」
みんな、スッキリした顔つきだな。
さて、俺も用を足して早く床に就くとするか。
トイレから出たあと、部屋に戻る前に飲水所に行く。
水がうめぇ。
ミネラルウォーターかよっていうくらい澄んでいるな。
「おい、賢者様だ!」
「え? どこに?」
「足湯に出たんだよ!」
何?
賢者だと?
足湯に浸かっているのか?
眠たいが会って情報を得たいな。
今を逃すと会えなくなるかも知れないし行ってみるか。
あれ?
足湯には人っ子一人いない。
なんだよっ!
どこかに行ってしまったのか?
少し辺りを探してみるか。
まだ近くにいるかも知れないしな。
「うぇ……あ、リュージ」
「ユーナ? お前、今まで外にいたのか?」
「うん、ちょっとね……賢者に会っちゃった」
「どこに居たんだ、教えてくれ!」
ユーナの肩を揺らす。
「ちょっと、気持ち悪く……う! うぇぇぇ」
「ちょっ! おま!」
『ごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごく』
何だ?
また変な声だ。
ごくごく民か?
どこだ?
『ごくごくごくごくごくごくごく』
『ごくごくごくごくごく』
何体いるんだよ!
声はするが姿は見えないってゴースト系モンスターだったのか?
「うわぁぁん! もう部屋に戻る――!」
何なんだよ?
急に走りやがって。
それにしてもどこだ?
「おい! ごくごく民! ここに居ることは分かっている! 姿を現しやがれ!」
………………。
急に静かになったな。
もうここにはいないのか?
何なんだよ、本当に。
それに、あのユーナの慌てふためきといい。
あいつは霊感ありそうな感じだし見えていたとか?
まあ、俺には見えなくても害が無いなら別にいいけど。
実際に近くにいて何ともなかったみたいだし一安心かな。
それよりも賢者だな。
ユーナも会ったって言うし、もう少し探してみるか。
1時間ほどぶらぶらと歩きながら見て回ったが、こんな夜中だ。
外出する人はいないし、結局誰にも会うことはなかった。
今思えば、こんな暗いときに探すのもどうかしてたかもな。
明日の朝にでも村の人に聞いて回ろう。
部屋に戻り、再び床に就く。
ユーナはすでに布団で涎を垂らしながら幸せそうに寝ていやがる。
こいつにも明日の朝に賢者のこと聞かないとな。
ゴォォォ!
ザッザッ――
翌朝……予想外の大雨だ。
なんだよ、台風か?
それとも台風みたいな魔法か?
外に出るのも危ないくらい横殴りの大雨と暴風だ。
「頭が痛いぃぃ……」
「女神ちゃん、大丈夫? はい、お水」
昨晩にあんなに飲むからだろう。
それにしても、他の宿に泊まっているニーニャさんたちはどうしているだろうか?
すでに村の門で待っているか?
いや、こんな天候だし外出はありえないか。
こんなときに携帯電話がない中世の世界は本当に困るな。
とりあえず、天候が良くなるまでは大人しく待っているしかないだろう。
コンコン
「お客様、朝ご飯をお持ちしましたえ」
「仲居さん、おはようございます」
「はい、どうぞ」
仲居さんが朝食を運んで来てくれたようだ。
朝御飯もかなり豪華だな。
まじで料金足りているかな。
……心配だ。
「朝ごはんだ――!」
「雪、少し静かにしてちょうだい。頭に響くわ」
そうだ、仲居さんなら賢者の情報を耳にしているかも知れないな。
「あの、この村で賢者に会ったって耳にしたんですが、何かご存知ですか?」
「ああ、はいはい。賢者様ね。そうだわね、いるかも……としか言えないわ」
いるかも……としか?
どういうことだ?
「ユーナ、昨晩賢者に会ったんだろ?」
「ええ、会ったわよ。酷い目に遭ったわ……」
酷い目?
まさか、賢者なのに賢者タイム外だったため、ユーナに襲いかかったとか?
いや、まさかな。
そんなことをするのは野盗かならず者ぐらいだ。
まさか、賢者という名前のならず者か?
あの勇者(仮)も勇者なのに悪党だし、有り得そうだな。
「賢者に何かされたのか?」
「ちょっとそっとしておいて……頭が痛いのよ」
「ああ、すまない」
二日酔いの嫌な感じは俺も味わったばかりだからな。
今はそっとしておいてやろう。
「そうだ、仲居さん。賢者にはどこで会えるんですか?」
「そうだわね、そこのお嬢さんのようになると会えるわね」
ん?
ユーナのようになる?
女になればいいのか?
それは無理だ。
今のユーナの状態か?
二日酔い?
ああ、賢者だから酒に強いとか?
酒に強いのは仙人だったか?
どちらにしても宴会をしていると、相乗りしてくる気さくな人なんだろうか。
いや、それなら昨晩のユーナとの晩酌で現れてもおかしくない。
他の宿泊客のところに相乗りしたとかかな。
さっぱり、わからん。
やはり、こっちから探していくしかなさそうだ。
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