第16話 リュージ編16
欽治が脳筋だというのはわかっていたが、まさかここまでとは。
暇だから一狩りって、あの有名な狩りゲーみたいな感覚なのか?
しかし、計画が完全に狂った。
頼みの欽治が居ないなら、どうする?
あの怪獣が首都を通り過ぎるまで、この森に隠れているべきか。
と言うか、その方法しか無いか。
あとは
怪獣とはいえ、もともとはスライムだ。
確証はないが試してみるか。
「姐さん、起きてください!」
俺は飛竜のお腹を枕替わりにしてぐっすり眠っている雪を揺すって起こす。
「ん――? どうしたのお兄ちゃん?」
え?
大人しいほうに戻っている?
「わぁ、この恐竜だ! 可愛い! これってお兄ちゃんのペット?」
「え? いや……その」
「私のドラゴンよ! 女神である私にとって眷属のモンスターはドラゴンくらい常識よ!」
「わぁ! お姉ちゃん凄い――!」
おい、ユーナ、嘘をつくな。
何を堂々と嘘をついているんだ。
そんなことより、やはり人格が戻っている。
雪自身が従属させたことを覚えていない。
また、あの凶暴な雪になってもらいたいのだが。
飛竜戦のときは自分がピンチになったから変わったんだよな。
欽治が言うには人格が変わるときは不明らしいが、この方法にかけてみるか。
なんか、こんな幼い子を死ぬかも知れない危険な目に遭わせるのは気が引けるけど、みんなを守るためだ。
だが、どうやって危険な目に遭わせる。
下衆な方法ならいくらでも思いつくが、幼い子にはトラウマになるかもしれない。
飛竜に乗せて超高度から突き落とし、地上すれすれでキャッチとか?
洲巻にして、火炙りや木に吊るすとか?
いっその事、あの怪獣の目の前に出すか?
「どうしたの? お兄ちゃん?」
「うん、ちょっとな」
そんな純粋な目で見ないでくれ。
森の外で気を失っている変態には余裕でできるが、こんな幼い子には当然できるわけがない。
ア―オォン!
かなり近付いて来ているな。
他に何か無いか?
森に隠れてやり過ごすのが安全かもな。
この大人数だし、下手に動いてしまうと狙われやすい。
このまま動かないほうが良いだろう。
恐竜映画でもこういうときって逃げ惑う奴が真っ先に狙われてしまうものだし。
「あの怪獣が街を通過するまで、この森で大人しくしていましょう」
「そうね、わかったわ」
「「はい」」
ユーナの聞き分けが良い。
いつもなら、ヘタレやら臆病やら言ってくるのに。
さすがに、あれには勝てないことがわかるからか。
「木に登ってあの怪獣がどこまで近付いているか見てくる」
「リュージさん、お気をつけて。あのモンスターは目が良いと聞いていますので」
「わかりました。少し覗く程度ですよ、安心してください。ニーニャさん」
ニーニャさんが心配してくれている!?
これは脈ありなのか?
よし、恰好良いところを見せてさらに好感度アップだ。
恰好良く木に登り、あの怪獣がいる方を見てみる。
実際には普通の木登りだけど。
まだ、街まではそれなりに離れている。
通過するまではせいぜい一時間ほどか?
様子を見て、判断するしかあるまい。
ドォン!
ドォン!
ア―オォン!
足音と咆哮が聞こえてくる。
たまに木の上から覗いて見るが、相変わらず首都に向かって来ている。
その後の進路でこの森を通過しないことを祈りたい。
ドッ!
ドッ!
ドッ!
ドッ!
ん、なんだ?
覗いて見ると、南門の方からだろうか?
ならず者共が大砲やら大弓やら持ちだしてきている。
あんな貧弱な武器じゃ、どうしても勝てるわけないぞ。
俺の世界では怪獣王と呼ばれている存在なんだ。
最後尾には勇者(仮)がいるじゃないか。
相変わらず世紀末な馬車に乗って偉そうにしている。
仕事ができたって、これのことだったんだな。
ま、あんたの父親のころに召喚されたマッドサイエンティストを恨んでくれ。
ドォォォン!
大砲から砲弾が放たれる。
ズガァァン!
ア―オォン!
ん――、まったく効いておりませんな。
相手を刺激しただけだ。
下手に怒らせてこっちに来られたら溜まったもんじゃない。
ゴォォォォォ!
怪獣の口から熱線が放たれる。
大砲もろとも、ならず者共を焼き払っていく。
それ見ろ。
勇者(仮)と少数のならず者は撤退中か。
あんた、一応勇者なんだろ。
なんでそんなすぐに逃げるんだよ。
逃げるならこっち側に来ずに、そのまま怪獣を引き付けて西側に行ってくれ。
しかし、怪獣は勇者(仮)を気に留めることなく首都を目指す。
まぁ、そうだろうなぁ。
すぐに逃げ出すような奴を追いかけでもしたら怪獣王の名が廃れるわな。
俺としては追いかけてほしかったが。
ドォン!
ドォン!
ガッ!
ズガガッ!
遂に首都の南門の所まできたが、辺りの城壁をものともせず前進していく。
このまま進んでくれると北上することになるが、どうなんだろう。
急に進路を東側に変えてくれないことを祈るばかりだ。
ア―オォン!
ゴォウン!
ふぁっ!?
戦闘機?
あれってF-15だったか?
なんでこんなところに?
凄い爆音でみんなが空を見て驚いている。
そりゃ、そうだわな。
「あれは何? 新種の飛竜かしら?」
「飛行機だぁ! 凄い! すご――い!」
雪は嬉しそうに手を振っている。
同じ世界のものだもんな。
ん、そうか。
あれに乗っているのは転生者か?
そういえば、地下の日記に自衛隊員のものもあったはずだ。
チラッと見たけど、戦闘機で訓練中にこの世界に召喚されたんだっけ。
戦闘機はこの世界では量産できないだろうし、どこかに隠していたのかな。
バババババババ!
戦闘機から機関銃が放たれる。
いやいや、やめておきなさいって。
尻尾や手で振り落とされるか熱線で破壊されるのが落ちだ。
ア―オォン!
怪獣が辺りを飛び回るハエを見るように戦闘機を目で追いかける。
あ、死んだな。
ヘイトを下手に取るからだ。
同じ世界の仲間だが、助けようも無いし諦めてくれ。
ゴォォォォォ!
バァン!
怪獣の熱線が戦闘機の翼に命中し、墜落していく。
ほら、お約束だ。
墜落地点は西門の向こう側か。
怪獣が去ったら後で行ってみるか。
生きていたら助けてあげないと。
そのまま、怪獣は首都を蹂躙し突き進んでいく。
どうやら、多くの住人は避難が間に合ったようで悲鳴などは聞こえない。
あんなものがいる世界で逞しく生きているんだなと感心する。
そのまま北上していくのかと思っていたが若干、東側に進路を変えている。
おいおい、マズいぞ。
あの戦闘機が邪魔したからか?
こっちへ来ることも想定して、何かしら別の手段を考えないと。
俺は木から降り、みんなを一度集めた。
「少し状況がヤバそうです。あの怪獣がこっち側に来るかもしれない。どうするべきか考えましょう」
「わ、わかりました。でも、どうしましょう?」
「ちょっと、リュージ! あんたが大丈夫って言ったんじゃない! 責任取りなさいよ!」
「うっせぇ! 俺は大丈夫とは言ってないぞ! この森であいつの動向を見守ると言っただけだ! お前こそ何か良い方法でもあるのかよ! あるなら出して下さい! この自称女神!」
「う――、リュージが意地悪言った! 酷いこと言った! うわぁぁぁん!」
「お姉ちゃん、泣かないで! ほら――、よちよち!」
まったく話が先に進まん。
そう言えば、杏樹はまだ気絶しているのか?
森の入り口を見てみる。
ん?
森の入り口で何をしているんだ?
あの怪獣は目が良いみたいだし、あんなところにいたら見つかって俺たちも巻き添えを喰ってしまう。
「杏樹! そんなところにいたら危ないぞ! 奥に来い!」
「はわわわ! リュージ! あいつが凄い目で私を睨んでいるぞ! ヘイトアテンションを使ったら、こっちに来てくれたぞ!」
……おぉぉぉ、お前かぁぁぁぁ!!
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