第17話 リュージ編17

 神様、本当にこの変態を何とかしてください。

 破滅願望はわかっているから俺たちを巻き込むな!

 怪獣に夢中になってユーナや雪、救出した町の住人もいることを忘れているのだろうか?

 だったら、この状況を利用してやる。

 

「杏樹! そのまま、森を出て西側へ行け! 絶対にあの怪獣を森に入れるな! 森に入れてしまうと、お前のユーナや雪ちゃんがとんでもないことになるぞ!」

「はっ! しまった! 私の可愛いユーナや雪、その他美女たちがいたのだ!」


 本当に都合の良い頭しているよな、お前は。

 その変態要素、片方だけにしておいてくれ、本当に。

 

「そうだ! 可愛いユーナや雪ちゃんが死んでもいいのか!? 危ない目に遭うだけでお前を恨むかもしれないぞ!」

「それは困る! はわわわ! 私はいったいどうすればいいのだ!?」

「いいか! 今すぐ森から出て、街の壁沿いに西へ走れ! その間に俺が何とかする!」

「わ、わかった! 西だな! 私のユーナや雪に嫌いにならないように言っておいてくれ!」

「ああ、逆にお前が頑張ったから誉めてやってくれと言っといてやる! だから、行ってこい!」

「ご褒美か!? うっひょ――! よし、行って来る!」


 ご褒美があるかはわからないがな。

 どうやら良い方向へ脳内変換してくれたようだ。

 デレっとした顔で怪獣のもとに向かって行く杏樹だった。


 俺は一度、森の奥へ戻りユーナやニーニャさんたちに、杏樹がヘイトアテンションであの怪獣を引き付けてくれていることを話し、今後のことを決めることにした。


「さすが杏樹ね! 自分の身を挺して私たちを守るなんて冒険者の鏡だわ!」

「本当に素晴らしいです。あのストライカーの方、素敵です」

「ねぇねぇ、お兄ちゃん? あのお姉ちゃん、大丈夫?」


 思いのほか、評価がぐんと上がったようだぞ、良かったな杏樹。

 安心して逝ってくれていいぞ。

 

「ニーニャさん、この首都グレンの近くに町や村ってありますか?」

「そうですね。確か小さな村が東側にあったと思います。名前は憶えていませんが、徒歩なら3時間ほどで行ける距離ですね」


 東側に村か、ちょうど良い。

 ドリアドの町も東の街道を進んだ先だからな。

 他の町の住人はどうすべきか。

 とりあえず、その小さな村までは同行してもらったほうが良いかもな。

 ここは危険だし。


「では、俺たちはその村へ行きましょう。事情を話して馬車などを貸してくれるかもしれませんし」

「そうですね。リュージさん、お手数をおかけしますがよろしくお願いいたします」


 いえいえ、貴女のためなら喜んで! 

 って、言いたいが言えない俺は意気地無しなんだろうか。

 そういえば、飛竜はどうすればいいんだ?

 雪ちゃんに懐いているし、何とかしてくれるか。


「雪ちゃん、今から出発するけど、そこの恐竜さんには空から見張りを出来ないか頼めないか?」

「ん――……分かんなぁい」


 もう、いちいち可愛いな! 

 まったく!

 

「それじゃあ、今から村へ行くけど雪ちゃん、歩けるかな?」

「遠足するの――? やったぁ!」


 ちくしょう、話は通じてないが可愛いよぉぉ!

 お持ちかえ……ゲフン!


「欽治のお兄ちゃんは後から来るから、先に行ってようね」

「お兄ちゃんじゃないよ。お姉ちゃんだもん。パパがお姉ちゃんって呼びなさいって言ってたもん!」


 この二人の親父はさぞかし脳内が熟成しきっているんだろうな。

 

「とにかく、お姉ちゃんは後から来るみたいだから先に行こうね」

「女神ちゃんと一緒におててつないで行く――!」

「さすが、欽治の妹ね。しっかりと付いて来なさい!」

「うんっ!」


 おいおい、雪までユーナのこと女神だと信じてしまったのか?

 俺が杏樹と話している間に何を吹き込んだんだ。

 それにしても欽治の奴、こんな可愛い妹を置いて狩りに行くとは許せんぞ。

 でも、見た目が可愛いから許してしまうんだよなぁ。

 それが駄目なんだろうけど。

 

 さて、杏樹はしっかりとヘイトを取ってくれているのか確認してみるか。

 木に登って怪獣を見ると、西の方へ身体を向けている。

 杏樹はここからだと見えないな。

 いつかは追いつかれるだろうが、そう簡単にくたばるやつじゃないだろ。

 今の内に出たほうが良さそうだ。

 

「では、皆さん出発しましょう」

「リュージ! 杏樹が居ない今、ちゃんと私を守りなさい!」

「わ――い! 遠足、遠足嬉しいな!」

「はいっ、お願いしますね」


 こうして森を抜け東の街道を進み始めた。

 ちなみに、この街道の名前はダーダラ街道っていう名前らしい。

 首都から極東の島国まで繋がっている輸送の大動脈ということを、歩きながらニーニャさんに教えてもらった。

 極東の島国って日本みたいなものなんだろうか? 

 一度、行ってみたい気はする。

 

 2時間程歩いただろうか。

 首都から逃げてきた住人たちもいるためか、街道はそれなりに賑わっていた。

 あの怪獣は西側に進んでいるため、今は豆粒ほどの大きさに見える。

 首都は壊滅したが、この国はどうなるのだろうか。

 ま、リーダーがあれだからな。

 きっとまた、人攫いをして強制労働で復興とかだろう。

 ドリアドの町に戻ったら、対策をした方が良いかもな。

 それより、3時間の徒歩って結構キツいな。


「お兄ちゃん、疲れた――」

「リュージ、疲れたわ! おんぶしなさい!」

「雪ちゃんはおんぶしてあげるね。ユーナ、お前はまだ大丈夫だろ」

「皆さん、もう少しで見えてくるはずですよ。日が暮れるまでには着かないと街道にモンスターが出やすくなりますので」


 さすが、ニーニャさん。

 ギルドの受付嬢をしているだけあって知識人だ。

 それに比べてユーナは。

 こら、俺にもたれかかりながら歩くな。

 

 数時間ほど歩いたところで村が山のほうに見えた。

 ん、山から湯煙が立っているがまさかな。


「あっ! あれってポウポウ村じゃない? 温泉で有名な!」

「そうです! 名前思い出しました、ポウポウ村です。冒険者に有名な温泉地なんですよ」

「温泉があるのか。まあ、火山もあったんだから当然か」

「温泉!? わーい! 女神ちゃんとはいる―!」


 ま、ちょうど良いかもしれないな。

 いろいろあって疲れたし。

 今日はゆっくり休ませてもらおう。


 村に到着したが、行商人だけでなく首都から逃げてきた人たちもいるようで、温泉地は賑わっている。

 さすが、有名な温泉地というだけのことはあるようだ。

 なぜか、群馬の草津温泉のような湯畑もあるが、ここって異世界だよな?

 宿泊施設はどれも老舗旅館っていう感じがする。

 侘び寂びを感じる。 

 いくつかの旅館を見て回ったが、どこも満員のようだ。

 この大人数をいれてくれるのは難しいかもな。


「リュージさん、この村は安全ですし、解散してそれぞれ別の旅館に泊まりませんか?」

「そうですね。この大人数だと泊めてくれる所は無さそうだし、夜にリーダーを決めて、あそこの足湯で今後の予定を立てましょうか」

「わかりました。ではまた後で」


 え? 

 ニーニャさん、俺と居てくれないのか?

 ちくしょう。


「リュージ! あんた、一人みたいだし私が一緒に居てあげるわ! ありがたく思いなさい!」

「お兄ちゃん、あたしも―!」


 まあ、そうなるよな。

 別にいいけどさ。

 さて、泊まれる旅館を探すか。


「リュージ! あの宿がいいわ! ちょうど、空室ありますって書いてるし」

「わぁい! お城みたい!」


 高級旅館じゃないのか?

 お金足りるかな?

 他に探すのも面倒だし、はいるだけはいって聞いてみるか。

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