第14話 リュージ編14

「そういえば、ユーナ。何で一人だけでいたんだ?」

「そうなのよ。私だけ町の人たちから離されてここに閉じ込められたの。まったく失礼しちゃうわ! 女神の私を無理矢理引きずって連れてくるんだから! 今度あいつらに会ったら処刑ものよっ!」


 ふむ、こいつだけ別にするには何か理由があるんだろうな。

 見た目は悪くないこいつだ。

 もしかして、一番目の餌食の予定だったのだろうか。

 なんとか酷い目に遭わされる前に助けられてよかった。


「気になったのだが、この部屋は他の部屋に比べて滅茶苦茶広いな。何かないか少し探ってみるか」

「いいわね! その時間を有効に使おうとする姿勢、素晴らしいわ!」

「おいっ! リュージ! 聞いているのか! ユーナを見捨て……」


 こいつは無視しておこう。

 危険があったら最優先でユーナを守るだろうし、ついでにならず者共を蹴散らしてくれるなら都合が良い。

 最悪、杏樹を囮に使ってニーニャさんたちを連れ出そう。

 うん、そうしよう。


 奥の方には各地で奪った財宝か?

 以前の部屋といい、どれだけの町を襲撃しているんだ。

 相変わらずアクセサリーや王冠や金貨などが山のように置かれている。

 さすが、ならず者ならではの置き方だ。

 アニメの世界でしか、こんな置き方見たことないぞ。

 他には、本が山のように積まれている。

 本もこの世界じゃ貴重なものに当たるのか?

 ここの本の山にも何か情報はないか? 

 大量の本の中でめぼしいものがないか探ってみる。

 ん、ここにも日記がある。

 転移者はみんな日記でもつける癖があるのか?

 それとも無理矢理、日記を付けさせているのだろうか?

 とりあえず目に付いた一冊の日記を手に取る。

 

「なになに? それ、面白そうね! 私に読ませなさいよ!」

「ああ、いいぞ」

「え―と、勇者歴101年9月27日。二代目勇者の側近と名乗る人にクルゥの町からここ首都グレンへ強制連行されてきた」

「二代目勇者の側近? 強制連行?」

「どこかもわからない所で、元の世界にあったものを何でもいいから作れと命令された。僕はニートだから手に職なんて持ってないと言うと嘘つくなと拷問された。僕に何を期待してるんだ」

「そういえば、78歳の婆さんも来てたし、この世界って手当たり次第に俺たちの世界から人を攫っているのか?」

「マッドサイエンティストと自分で名乗っているヤバい人のもとで助手として働かされることになった。マッドサイエンティストと自分で名乗っているだけあって、この人は本当に異常者だ。スライムの強化改造をすると言って怪しげな液体を手当たり次第に注射している。するとスライムはドロドロに溶けて跡形もなくなってしまった。俺の仕事はスライムの捕獲。スライムを捕まえて持ってくるだけで命の危険に何度も冒されるのに、この仕事はまさにブラックだ」


 それからもスライムの改造に関する記述が続いていた。

 どうやら大先輩は同じ世界の異常者にこき使われているようだ。

 ここで書かれている内容ではスライムでいろいろな形状が作れないか実験しているようだ。


「勇者歴106年3月3日。マッドサイエンティストは遂に完成したと感喜に伏している。何が完成したのか聞いてみると俺たちの世界の怪獣王を再現できたと言っていた。どこにいるのか聞くと逃げたらしい。次は三つの頭を持つ怪獣と作るとか言っている」


 そこから先の日記は書かれていなかった。

 怪獣王ってあれだよな?

 マッドサイエンティスト、なんてもの作り出してんだよ。

 

 ドォン! 

 ドォン!


 ん? 

 地響き? 

 また、地上で何か起きてるのか?

 とにかく、混乱が起きているならチャンスだ。

 めぼしい本が他には見当たらない。

 18禁の本は少し興味があったが、そんな余裕は無いし。

 

 ドォン! 

 ドォン!

 

 かなり揺れが大きいな。

 倒壊でもしたら大変だ。

 

「急いで引き上げよう! なんか、ヤバそうだ!」

「そ、そうね! さぁ、リュージ! 今回はしっかりと私を守りなさいっ!」

「それはそこにいる変態がやってくれる。安心しろ」

「はわわわわ! 地震か? まさか、崩れるのか? 崩れたら私はペシャンコに? く――!」


 もう脳内はとっくに崩壊してますよ、貴女。

 ニーニャさんたち町の人も連れて脱出になるから、俺たち三人が先陣を切らなければ。

 俺が珍しく先陣?

 だって、ニーニャさんが見ているんだからな。

 

 ドォン! 

 ドォン! 

 ガガッ!


 いったい、地上で何が起きてるんだ?

 とにかく、急いでニーニャさんのいる所まで戻ろう。

 ニーニャさんの所までは何事も無く戻ることができた。

 ただ、みんなは地響きに怯えている。

 

「みんな! 落ち着きなさい! 女神の私の加護によって、貴女たちは守られているわ! さあ、付いて来なさい!」


 いろんな町の住人たちにも同じことを言っている。

 ドリアドの住人達は聞き慣れているようでユーナの言うことはスルーしている。

 そりゃ、そうでしょ。

 だって、女神じゃないし。

 

「この方たちは冒険者です。この三名が先行してくれるようです。私たちも続きましょう」

「そうですね。ここに居ると危険ですし」

「ええ。急いで逃げましょう」


 さすが、ニーニャさんだ。

 みんなを上手く纏めてくれた。

 

「先行します! すぐ近くにある階段を上ると出口が見えます。そこまでは恐らく何も無いと思いますが、その先の市街地では表通りは危険です。裏通りを通ります」

「わかりました。リュージさん、よろしくお願いします」


 くぅ! 

 やっぱ、可愛いな。

 ニーニャさんたち町の住人のためにも頑張らねばなるまい。

 俺の本心としてはニーニャさんだけのためだが。

 

 階段を上りホールに出るが誰も居ない。

 そう言えば、勇者(仮)がさっきからスピーカーで何も言ってこないな。

 大人しく見逃すとは思えないが。

 市街地で待ち伏せとかも有り得るか?


 ザッ! 

 ザーザー!


「おいっ! 女! 早く最上階に来い! こっちも仕事ができたのだ!」


 あれ? 

 まだ最上階にいたのか。

 じゃ、その仕事しとけよ。

 杏樹は相変わらず、気にも留めない。

 気にも留めず、ユーナを抱きかかえ頬擦りしながら走っている。

 

「ああ! 最高だ!」

「ちょっと! 離しなさいよっ!」


 ユーナが腕を振りほどこうとしているが、杏樹の力に敵うわけもなく抱きかかえられたままだ。

 タワーの入り口まで何事もなく、外が見えてきた。

 ん?

 

 ドォン! 

 ドォン! 


 まだ街の外だが、遠方にデカいものが見える。

 なんだ?

 歩いている?

 生き物か?

 まだ、遠くて輪郭がはっきりしないな。

 

「おい! 野郎共! 奴が来るぞ! 避難準備だ!」

 

 街の住人やならず者らが、馬車に荷物を纏めている。

 こっちには気にも留めていないようだ。

 今のうちに脱出しよう。

 

 外に出て、杏樹が架け橋を何本か立ててくれる。

 だが、堀の底が深すぎ怖くて動けない人たちもいるようで、仕方ないが跳べない人は杏樹がおんぶして渡り、それを何度か繰り返すことになった。

 子どもは俺でもできたが大人はさすがに無理そうだったのでやめた。

 

「リュージ! 全員、渡れたわよ! 早く行きましょう!」


 ユーナが急かす。

 だが、この大人数をどうやって町まで連れて行けば良いんだ?

 助けることばかりで、まったく考えていなかった。

 まずはドリアドの町に連れて行くことにしたほうが良いのだろうが、飛竜の背中に乗れるのはせいぜい二人だ。

 こんな大人数を運び一気に移動する方法……。

 この世界では馬車くらいしか思い浮かばないが、どこからか奪うか?

 首都の住人たちも避難のために馬車を用意している。

 善人から奪うというのも戸惑うな。

 ならず者共から奪うか?

 いや、怖いから駄目だ。

 徒歩はかなり無理があるし。


「おい、あれは何だ! 凄く大きいモンスターだぞ! あんなのに踏みつけられたら秒殺だ! く――!」

「あっ! あれは伝説の!」


 やめて!

 フラグ立てないで!


「リュージ! あっち見てみなさいよ! 凄いわよ!」

「はわわわ! よく見たら、あいつじゃないか! はわわわ!」


 いや、見ません。

 さっきの輪郭で何となくわかるんだよ。

 フラグ立てられると、すぅんごぉい事になるから見ない。


「リュージさん、あれは討伐クエストZ指定のモンスターです!」


 ニーニャさんまで止めてくれ。

 Z指定って何だよ!

 エロか!?

 グロか!?

 あれに関わると、こっちがグロになってしまうわ!


「はわわわ! あれって、ゴジ……」

「待て――! それより先を言うな! いいか、気にせず全力で逃げるぞ!」

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