第13話 リュージ編13
地下への階段を降りた先に一つの大きな扉が見える。
他に進むところは無いようだ。
ドアノブをガチャガチャと回すが、鍵がかかっているようで開かないらしい。
杏樹は物怖じせず扉を蹴り開けた。
俺は相変わらずステルスで身を隠し、杏樹の様子を伺いながら進んでいる。
「こ、これはっ!」
杏樹が驚倒の声を上げた。
俺も部屋の様子をそっと覗いみる。
「何と言う乙女の園だ! はわわわわ!」
あれはニーニャさん?
他にもドリアドの町で見かけたことのある女性たちもいた。
まだ、首都に到着したばかりなのか服装も町にいたときのままだ。
「あ……貴女は?」
「ふむ、助太刀に参上した。貴女たちはあのゴミ以下の下衆どもに攫われた方たちで良いな?」
「えっ? ゴミ? あ……はい」
「やった、助けが来たわ!」
「ありがとうございます」
攫われてきた方たちが杏樹に感謝の言葉をかけている。
当の杏樹はというと、女性に囲まれて緩んだにやけ顔をしている。
俺も監視カメラが無いか確認し部屋へ入る。
「ニーニャさん、こっちです」
俺はニーニャさんにだけ声をかける。
ニーニャさんはどこから声がするのかキョロキョロしていたが、俺がそばにいることに気付いた。
「リュージさん! 貴方も助けに来てくれたのですね! ありがとうございます!」
本当に可愛い人だ。
俺は若干照れながらも話を進めた。
「し――! ステルスの魔法をかけています。なので、周囲に気付かれないように話を進めてください」
「ステルスを? わかりました。私たちは半日ほど前にここへ連れてこられたばかりなんです」
「良かった。道中では何もされていないですか?」
「はい。ずっと檻の中で閉じ込められていました。誰も酷い目に遭わされていないと思います。悲鳴も聞こえませんでしたし」
思いのほか、規律がしっかりしている組織なのか?
ならず者なら移動中でもなりふり構わず、手を出しそうなものだったが……。
「それでユーナはどこですか?」
「ユーナちゃんですか? 彼女もここへ? 檻も5つくらいありましたので、他の檻に入れられていたらわかりませんね。お力になれず御免なさい」
「ここにいる方たちはみんなドリアドの方なんですか?」
「いえ、他の町の住人もいるようです」
ユーナめ、ここにいてくれれば良かったものを……。
まぁ、いまさら何を言っても無駄なんだが。
「冒険者様、私と同じ町の方がまだ奥の方で閉じ込められているんです。助けてくださいませんか?」
杏樹に声をかける一人の女性が言った。
「任されよ。全世界の見目麗しい女性たちはすべて助太刀する! 私のユーナのためにも!」
いや、お前のユーナじゃないんだがな。
女性にお願いされて、やる気がさらに高まっているようだ。
頼むからこれ以上暴走は止めてくれよ。
杏樹は奥にある扉を蹴破り進んで行く。
「では、ニーニャさん。俺もあいつについて行きます。他の方たちも確認が出来たらまたここに戻ってくるのでしばらく待っていてください」
「わかりました。お気をつけて」
杏樹について行き、次の部屋へ入る。
誰もいない。
ザッ!
ザー
壁に備えられているスピーカーから声が聞こえる。
「おいっ! ならず者の女! 俺は最上階だって言ってるだろうがっ! さっさと俺の八人の使徒を倒して最上階へ来るが良いっ!」
えっ、八人もいるの?
というか、ネタバレをボスがしてどうすんだよっ!
杏樹も相変わらず聞く耳を持たず、先に進んでいる。
二つ目の部屋も多くの町の人たちが捕えられていたので解放し、次の部屋へ入る。
これだけ女性ばかり集めて何をするつもりなんだ?
酒池肉林か?
男は容赦無く殺すみたいだから、この世界の男女比って凄いことになり得ないか?
相変わらず鍵はかかっているようだが杏樹が容赦無く蹴破る。
次の部屋はそれぞれの町で略奪した盗品か?
金品のみならず服やら家具まで、さまざまなものが乱雑に置かれている。
本棚もたくさんあり、いろんな分野の本が置かれている。
そこで見覚えのある文字があることに気付く。
日本語だ。
日本語の文字で書かれた日記のようだ。
まさか、他の転移者のだろうか。
一冊だけではなく、数冊同じようなものが確認できる。
かなり古い本だが、もしかしたら元の世界に戻る方法が書かれているかも知れない。
杏樹は気にすることなく先に進もうとしているが、どうするべきか。
三つ目の部屋だというのに誰も来ないし、トラップなども無い。
ずっと一本道だったし、少し離れてしまっても良いだろう。
それよりも元の世界に戻る方法が優先だ。
日記にはこの世界に来た経緯が書かれている。
どの転移者も日常生活を送っているときに突然、この世界へ送り込まれたようだ。
俺のような普通の高校生だけではなく、自衛隊員や教師、建築業者に町の電気屋さん、七十八歳の専業主婦までさまざまな年齢や職業の人々がこの世界に送り込まれている。
特に条件があって、この世界に送り込まれるわけではないようだ。
建築業者の日記には二代目勇者のときに、この世界へ転移させられたようでモンスターに襲われそうな所を勇者に助けられ、勇者からの頼みとしてこの街の発展に力を貸したようだ。
つまり、ガラス張りのビルとかってこの人のような専門の知識を持った技術者が作り方を提供したって感じか。
労力や素材などはこの世界で手に入るのだろうし、時代背景が入り乱れているのも説明が付く。
それよりもずっと昔からこの世界には俺たちのような転移者が送り込まれていたということが腹立たしい。
神隠しという言葉があるが、もしかしてこの世界が原因じゃないだろうな。
ならず者が使っていた銃火器も同じような理由だった。
ただ、工場といったものは無いようで大量生産は難しいようだ。
基礎が中世なら、そりゃそうだろう。
家内制手工業だっけ?
歴史の授業で習ったな。
電気はこの世界のマナという魔法的な物質を科学的に変換して作り出したらしい。
あの堀の底から見えた淡い緑の光のことだろう。
これも二代目勇者のころにこの世界にやって来た自称マッドサイエンティストが発見し作り出したものらしい。
自称マッドサイエンティストって何だよ?
しかも、このマッドサイエンティストは魔物合成など生物部門でもいろいろなことをしているようだ。
この首都の異様な感じもすべて転移者が勇者に協力してできたものだっていうのが何ともやるせない。
しかし、どの日記にも元の世界に戻る方法が書かれていなかった。
いくらか収穫はあったのだが。
それより杏樹から少し離れてしまったし、急いで後を追いかけよう。
四つ目の扉はすでに開いており、その先の扉も開いている。
今で九つ目の扉だ。
ここまでに攫われてきた他の町の住人はほぼ全員確認が出来たのだが、なぜかユーナだけが見当たらない。
一体どこにいるんだ、あいつは。
目の前の扉はなぜか閉まっており、中から声が聞こえる。
「やめろ! 私はこの程度ではっ! ちくしょう!」
敵か?
ここまでいないと思ったら奥で待ち構えていたのか!?
杏樹が危険な目に遭っているとしたら助けてやらなくもない。
しかし、怖いのでそっと扉を開けて中を覗いて見る。
「うわぁぁぁん! 助かったわ! ありがとう! 貴女には女神の加護があるわよ!」
「はわわわわ! 抱き付かれているぞ! 私は今、美少女に抱き付かれているぞぉぉぉ!」
そんなことだと思ったよ!
呆れているとユーナがこっちを向いた。
ん?
ステルスをかけているがまさか見えているのか?
「リュージ! 助けに来てくれたのねっ!」
おいおい、そんなに俺がいないと寂しかったのか?
ユーナがこっちに向かって嬉しそうな顔をして向かって来る。
まぁ、少なくともこいつは俺のチョロイン第一号だから、温かく迎えてやるとしよう。
「ゴッドスプリフィケーション!」
ドゴォン!
魔力のこもった右フックが俺の顔面にぶち当たる。
「いって――! 何しやがる!」
「あんた! よくも私を見事に見捨ててくれたわね! もう極刑よっ! 極刑ものよっ! 今すぐその薄汚れた魂を浄化してあげるわ! 悔い改めなさいっ!」
クソ!
ちょっとでも優しくしようとした俺が馬鹿だった!
それよりも、こんな所でゆっくりするわけにはいかない。
「おいっ! 馬鹿してないで、さっさと引き揚げるぞ!」
「ちょっと、逃げるつもり! リュージ!」
「ふむ、リュージよ。少しいいか?」
何だよ。
後にして欲しいのだが。
「何だ? 後回しにできないのか?」
ガッ
俺の胸ぐらをつかみあげる杏樹。
「貴様! ユーナを見捨てたとは本当かっ! こんな幼気な少女を! ゆ……許さんぞっ!」
うわぁ、めっちゃ怒ってるぅ……。
そんなこと後でもいいだろうに。
杏樹の手を振りほどき、まずはここから離れることがいかに大事か二人に説明した。
よけいな時間を取られたが、なんとか二人は理解してくれた。
いや、最後に土下座して無理にでも頼み込んだといったほうがいいかな。
「ユーナ、お前たちにもステルスをかける。MP回復頼めるか?」
「え――。そんなに回復して欲しい? 私に? 私がいないと困る? 困るのねっ! さぁ、女神の私を……」
「いいから、さっさとしろ」
「わかったわよ。ちゃんと、感謝しなさいよ!」
「おいっ! リュージ! やはり私は貴様が許せない! 百発、殴らせろ!」
そんなときは一発じゃないのか?
というか、先に進めねぇ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます