第12話 リュージ編12
北門からの侵入は簡単にできた。
壁上の見張りも杏樹が暴れている東門に駆り出されていたためだ。
街の中に入ると先に目に入ったのは中世の建造物。
しかし、あちこちにパイプのようなものがあり蒸気を噴き出している。
とても、歪な感じがする街である。
街の人は普通だがなぜか女性や子どもばかりだ。
男の人はどこにいるのだろう?
これだけ男が居ないとステルスが解けた場合、さすがに目立ちすぎる。
俺は裏路地のほうへ行ってみた。
「私のユーナ! 待っていろ! ヒャッフー!」
杏樹が押さえつけるならず者どもを重戦車のように跳ね飛ばしながら大通りを疾走していく。
さすが、体力馬鹿だ。
だが、あいつステータスの筋力は1なのに東門でならず者を一撃で気絶させていたな。
攻撃力=筋力がこの世界の仕組みなはずなのにどうなっているんだ?
雪の相手を従わせる不思議な能力もあるし、別の何かみたいなのあるのかな。
杏樹の向かっている先は街の中心地に建っているタワーか。
どうやら、あそこにユーナはいるようだが何階にいるのだろうか?
そもそも何階まであるのかもわからんくらいでかいぞ。
さらに地下まであったとしたら、ますますわからなくなる。
俺は杏樹の行き先を確認しながら、裏路地を通りタワーに向かって行くのだった。
ステルスのおかげで街の住人には気付かれることなく、安全に進むことが出来たのだが、かなり大きい街だけあってまだまだ距離はある。
大通りを我が物顔で進む杏樹といえば、すでに三百人ほどのならず者がスクラムを組むようにして杏樹の前進を阻むかのようにしているが、難無く跳ね除けて進んでいる。
あいつ、欽治以上に実はチーターなんじゃないのか?
ならず者共は杏樹相手に棍棒や戦斧、弓なども使っているが当然無傷な訳で……。
敵に回すと恐ろしい相手だとつくづく思う。
ま、あいつにとって男は全て敵というかゴミ以下の価値なんだろうけど。
建築物が段々と現代様式のものが混じってきている。
一体、この世界の文明レベルはどんなのだかわからなくなってくる。
ドリアドの町は映画で見たような中世の町並みだったし、ここがおかしいだけなのだろうけど。
上空から見たときは中世の民家とガラス張りのビルがある区間で別れている感じだったが、住人の服装は派手さの欠片もない一般的な服装だ。
お、タンクトップにホットパンツの美女発見。
服装も現代風のものが混じっているのか。
いずれ現代兵器とか出たりしないだろうな。
え?
そんなことを言うとフラグになるって?
杏樹の様子を伺える距離はしっかりと取りながら裏通りを進んだ。
中心地まで半分ほど近付いたようだ。
中央に建っているタワーは見上げないと全体を捉えられないほどだ。
「てめえら! 構えろ! ……撃て――!」
なにっ!?
パアン!
パアン!
パアン!
おいおい、飛び道具まで進化してるのかよ。
見たところマスケット銃のようだが、さすがに銃を撃たれたら杏樹もヤバいだろ!
杏樹の方を見てみる。
ふぁっ!?
……喜んでいる!!
「まさか、銃火器に撃たれるとは! さぁ! もっと撃ってこい! 私はここだ! く――!」
「バ、バケモンだ!」
「あいつを勇者城に近付けるな! 撃て! 撃て――!」
すんません。
変態チーターで本当にすんません。
このならず者共に同情しそうになる。
だが、銃があるならなぜこんな所に来てから用意するんだろう。
まだまだ数が少ないとかそんなところか?
さらに進むと機関銃とか出てきそうな予感もするが銃を撃たれても無傷な肉壁なら大丈夫だろう。
これもフラグが立っちゃうって?
そんなことありまへんがな。
ガガガガガ
ドゴォォォン!
ブォォオォォ!
ほんまや!
一気に現在兵器まで出ちゃったやん!
マシンガンや火炎放射器、手榴弾まで!?
どれも杏樹には無傷だったが。
いつの間にか周りの建造物も中世のものより現代の建物が多く見られるようになっていた。
電柱などは見当たらないが不気味なパイプは相変わらず所々に見られる。
建物の中も電気が通っているようだし蛍光灯らしき光が見える。
このパイプが電気を送っているのか?
ここからはより慎重に進むべきかもしれない。
実際に監視カメラがいくつか見えるし。
「このバケモンめっ! これでも食らいやがれや!」
建物の上から重火器を背負い杏樹を狙うならず者が見えた。
あれはロケットランチャーか。
ヤバい!
ロケットランチャーなんかまともに当たると杏樹でも致命傷だ。
しかし、杏樹を通さんとばかりに大男どもがスクラムを組み通せんぼしている。
ならず者も味方が杏樹の近くにいると撃ちにくいのか、狙いを定めたままだ。
ならず者は杏樹に狙いを定めたままだし、今なら奇襲できるか?
俺はならず者のいる建物の中に入り屋上を目指した。
ステルスのおかげで誰にも気付かれず、屋上まで行くことができたが、その瞬間。
バシュゥゥゥ!
ズッ、ガァァァァン!
凄まじい爆風で一瞬視界を奪われる。
しまった!
間に合わなかった。
すぐさま、杏樹の方を見てみる。
杏樹はぐったりと倒れていた。
ちくしょう!
まさか、ロケットランチャーだなんて。
あんな重火器まで出てくるとか予想なんてできるわけないだろ!
杏樹、助けられずに済まなかった。
屋上にいるならず者は俺に気付いてないみたいだし、そっと戻ろう。
俺は屋上から地上に戻り裏路地に出たときだった。
「ひゃ、ひゃあああ!」
「バケモンだっ!」
ん?
なんか表通りが騒がしいな。
気付かれないように見てみる。
「あっはは! 今のは良かったぞ! だが、まだだ! もっと力強くて最高に感じるものだ! もっと強い兵器を持ってこいっ! 豚野郎共!」
……はい。
爆風で怯んでこけただけなのね。
心配して損したわっ!
俺の心配を返せ!
それにしてもあいつの目的、変わっていないか?
進むほどならず者の抵抗の激しさが増している。
まあ、杏樹は無傷のままなんだが。
そのうち、近未来兵器とか出ないだろうな。
見てみたい気もするが囮がいないと俺も危険に晒される。
大きな堀に出た。
タワーは目と鼻の先だ。
しかし、かなり深い堀で底の方から淡い緑色の光が出ている。
なんか、あの有名なゲームに出てくる星の命のような感じもするが。
そんなことはどうでもいい、この堀を超えるにはどうすればいいんだ。
杏樹も堀の前で立ち止まった。
そりゃそうか。
橋もないし、どうやって渡るんだろうか。
タワーにあるスピーカーから声が流れ出る。
「よくぞここまで来た。ならず者よ。俺の城と知っての狼藉か? 俺の配下となるのなら道を開けてやる。そうでないならば、去れっ!」
いや、ならず者にならず者呼ばわりされてもねぇ。
それより、この声は勇者(仮)か。
「私のユーナを返してもらうために来た! ユーナを返せ! そうでないならば、押して参る!」
押して参るって橋がないだろう。
どうやって参るつもりだ?
「ククク、忠告も無意味というわけか。良いだろう! 俺の元まで来れるなら来るが良い!」
杏樹は勇者(仮)の言葉など気にせずに構えを取っている。
「武者小路流!
ズドン
杏樹が地面を強く叩きつけると岩の柱が飛び出してきた。
その柱を倒し、架け橋にし杏樹は先に進んだ。
どんな原理だよ!
やっぱ、あいつはド変態チーターだ!
杏樹は堀を難無く渡り、タワーの正面玄関に入って行った。
俺も杏樹が作った架け橋を慎重に渡りタワー内に入る。
すぐに初代勇者の像がかなり大きい像が出迎える。
あの勇者(仮)のお祖父さんにあたる人の銅像はまさに勇者って感じだ。
タワーの中はどんな技術力だろうか、かなり上層まで吹き抜けになっており壁沿いに備えられている螺旋階段しか見当たらない。
この高さでエレベーターが無いとは登るのはかなり疲れるぞ。
壁面にあるスピーカーからまた声が聞こえてきた。
「ほう、女……中々に興味深い。良かろう、最上階にて待つ! 待っておるぞ!」
また勇者(仮)の声だ。
最上階って、お約束というか何というか。
途中に四天王とかが待ち構えているバトル漫画か?
何も起きなければ良いのだが。
杏樹は辺りを探っている。
階段はすぐそこなのに、何をしてるんだ。
「ふむ、地下か」
ふぁっ!?
えぇぇ?
ユーナは地下にいるのか?
最上階にて待ってるって……。
ハッ!
言ってない!
勇者(仮)は最上階で待つとしか言ってない。
ユーナがいるとは言ってない。
うん、わざわざ危険な目に遭う必要もないし最上階に行く必要はないな。
杏樹も勇者(仮)には、まったく無関心のようだし。
杏樹の後を誰にも気付かれないように進んで行く。
時々、放送が流れる。
「おいっ! どこへ向かっている! 俺は最上階だ! 最上階で待っておるぞ!」
この勇者(仮)も実は馬鹿なんだろうか?
あのならず者の大将をしているぐらいだし、力はあるのだろうけど。
地下への階段も杏樹の嗅覚のおかげでわかり、地下へと降りて行くのだった。
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