第11話 リュージ編11
飛竜を雪のおかげで従えることができた俺たちは、こいつに乗って勇者一行を探すことにしたのだが……。
実際に飛竜が心を許したのは雪と、その兄の欽治だけであり俺と杏樹はまるで鷹が獲物を捕獲したときのように足で掴まれているのが現状である。
もし、飛竜が離したらと考えると怖くて仕方がなかった。
同じように掴まれている杏樹はと言うと……。
「はわわわ! こんな高さで落とされてみろ! 死ぬぞ! 確実に昇天だぁ! ヒャッフー!」
どんな状況になっても揺るがない奴だ。
だが、高度がありすぎる。
下は雲に覆われて地面が見えない状況だ。
「雪ちゃん! 飛竜にもう少し高度を落としてくれないように頼めないか?」
「ああん? あんちゃん、あたいに指図するんじゃねえ!」
相変わらず糞生意気なガキだ。
もう一人の雪では飛竜はコントロールできないのだろうか?
ま、無理なんだろうな。
「
「はぁい! お姉ちゃん!」
なんだ、この態度の変わりようは。
というか、なんでお姉ちゃんだ?
お兄ちゃんじゃないのか?
この兄妹はどんな環境で育ったんだよ。
飛竜が高度を落とすことで街道が見えてきた。
辺りを見渡すが、どこにもならず者どもの大軍は無い。
約二日ほど時間を取ってしまった。
当然か。
飛竜は首都のある西の方向へ進路を取る。
ずっと辺りを見回しているが大軍の姿は見当たらない。
街道は若干の行商人や旅人がいる程度である。
「あいつらは居ないな。杏樹、お前の変態センサーでユーナの匂いは感じ取れないか?」
「おい、リュージ。私だって立派な人間だ。変態呼ばわりは止めてほしい」
いや、お前は十二分にド変態だよ!
「ごめんごめん! それでユーナの居場所はわかるのか?」
「ああ、微かだが。私のユーナの匂いが西方から感じられる」
西方か。
もしかして、すでに首都に到着しているとか?
それとも別の場所なのか。
見えるまでわからないか。
数時間は何事も無く過ぎて行った。
「リュージさん! 何か見えますよ!」
欽治が西方を指差しながら大声を上げた。
確かに何か見える。
かなり大きい街だ。
上空から見たわけじゃないがドリアドの町より十倍ほどあるだろう。
まさか、あれが首都グレンか?
それにしても、どこかのゲームで見たような街だ。
中世の中に近代が混じっているかのような街である。
街の中だけだが蒸気を噴き上げながら列車も走っている。
さらに街を囲む大きな壁があり、中世的な建物と近代的な建物が綺麗に別れて並んでいる。
スラムとそれ以外って感じか?
どこの世界にも闇の部分は変わらないな。
街の中心には城か?
とても城には見えない。
スカイツリーのような細くて高い建造物が建っている。
その周りに大きな堀があり、堀の外側には城下町のように近代的な高層ビルや中世の建物が所狭しと建っている。
何とも違和感剥き出しの街だ。
「前面ガラス張りのビルって……あの辺りだけどう見ても時代が違うだろ」
「わぁ、立派なタワーですね。あれがまさか王城なんでしょうか?」
「多分そうなのだろう。周りを堀で守っているのが証拠だ」
それにしても、どうやって潜入するべきか迷う。
飛竜はこの大きさだ。
街の上空に行くだけでも迎撃されそうだ。
街の北東側に大きな森があるのが見える。
あそこに着陸して徒歩で街に近付くほうが良さそうだ。
俺は雪に機嫌を損なわないように頼んでみた。
「姐さん、あの森に着陸できませんか?」
「ほほぉ? 少しは立場が理解できたじゃないか。そんなもん余裕に決まってんだろ!」
うん、チョロい。
飛竜が森のほうへ進路を取る。
それにしても本当に凄いな。
どうやって、飛竜に指示しているのか気になる。
着地の際は俺と杏樹の扱いは酷かった。
まだ地上5mくらいのところからそのまま落とされ、木に引っかかって事なきを得た。
まあ、そのまま着地したら踏み潰されるしこうなると思っていたけどさ。
さて、ここからは下手なことをすると命取りだ。
一層の警戒をしなければならない。
「くんくん? すんすん! おお! 私のユーナの匂いだ! 待っていろ! 今助けるぞ!」
さすが、変態。
ま、肉壁として存分に使ってやるよ。
そんなことよりもユーナがいるということは分かった。
あの街に侵入する方法だが、上空から見た時に街を囲っている壁に門らしきものが四ケ所あるのが見えた。
もちろん、門番らしき兵士は居たが……兵士と言うか、ならず者か。
世紀末な恰好をしていたし。
この街が倒壊したビルばかりの荒れた廃墟なら、より一層、世紀末な感じが出ているのになぁ。
あの門番共をどうかして侵入するしかないか。
しかし、問題を起こしてしまうと後々厄介だろう。
交代時など隙が出来るときがないか見てみるか。
「三人は少しここで待っていてくれ。俺がステルスを使って、門の様子を見てくる」
「はい。お願いしますね、リュージさん」
「あたいは少し寝るよ。勝手にやってくれ」
ん?
あれ、杏樹は……。
街の方を再び見てみると杏樹が凄い勢いで門に向かっている。
うわ――、あんのバカ――!
俺は急いで杏樹に追い止まるよう指示したが一向に聞く耳を持たない。
仕方がないので、ステルスを使い杏樹の後を追う。
意外とあっさり門番が入れてくれるかも知れないし、あいつとならず者の話す様子を気付かれないように見てみるか。
「おい! 私のユーナはどこだ! この汚物ども!」
ひぃぃぃ!
喧嘩腰でならず者に何を言ってんだ!
「ああん? 誰だ? おめ――?」
「ドリアドの町から攫った私の美少女をどこにやった! 糞塗れの低脳ども!」
ちょっと――!
ディスるのにも相手を選びなさいよっ!
どこからどう見ても怖そうな方々の前で何を言ってるの!
「ほほう! お前! あの町の者か? 随分、別嬪さんだべ。勇者様も喜ぶべ」
門番が杏樹に触ろうとする。
あ、この展開はヤバい。
予想通り、杏樹はその手を払い門番の顔面に膝蹴りを入れる。
「てめぇ! 何をしておるかぁ!」
もう一人の門番も杏樹に襲い掛かるが杏樹は門番の槍を回し蹴りで簡単に折り、すかさず反撃で脳天にかかと落としをかける。
ならず者の顔面ばかり狙って容赦ないな。
それを城壁の上から見ていた兵士が警笛を鳴らす。
ますます、悪状況になっていくじゃねえか。
どうする?
一旦退却するか、杏樹に加勢するか……。
いや、杏樹に加勢はあり得ないな。
また、俺にヘイトを集められて酷いことになりそうだ。
もっとも相手が人間だとヘイトが効くのかわからないが……。
今から欽治を呼びに戻るという手段もあるが、その間に杏樹が何をしでかすか。
そういえば、あと三つの門はどうなっている?
ここから見えるのは近くの東門だけだ。
東門は杏樹が暴れているし、北か南の門から侵入できるか見てくるか?
西門は正反対だし距離がありすぎる。
クイックネスを使い、北門のほうを見に進む。
北門には門番がいない。
おそらく、東門の加勢に行ったのだろう。
さすが、頭の回らないならず者共だ。
今なら北門から侵入できるだろう。
だが、俺一人で大丈夫だろうか?
今の瞬間を逃すと街中に入ることも難しそうだ。
俺は北門から一人、侵入することにした。
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