第10話 リュージ編10

「ぶぇぇぇぇぇん! お姉ちゃ――ん!」


 なんで、こんな所に子どもが?

 いや、それよりもこの子、飛竜に跨って殴っていたよな。

 飛竜ってそんなに弱いのか?

 仮にも龍族だろ?

 

 キュエエエ!

 キュ――!


 ほらほら、飛竜さんがお怒りになっとりますがな。

 俺じゃないよ、そこで大泣きしているお子ちゃまですよ。

 しかし、どうやってこいつらを手懐けるというんだ?

 

「大丈夫ですか!? リュージさん!」


 上から欽治が呼びかけてくる。

 良かった。

 どうやら、駆け付けてくれたようだ。

 

「はわわわ! 何たる幼女! 極上だぁ!」


 予想通り、杏樹が30メートルはある高さの崖を飛び降り泣きじゃくる子に抱擁したのだった。

 

「む――! む――!」

「おい! 杏樹、その子をお前の胸の中で窒息死させる気か?」

「ひゃ、ああ。すまない」

「びえぇぇぇ!」


 あ――、うるさい。

 飛竜さんも無視されて困ってますがな。


「びぇぇ……あっ! お姉ちゃん!」


 え? 

 お姉ちゃん?

 欽治を見て、泣き止む幼女。

 お姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんでしょうがって突っ込みたいのだが、止めておこう。

 欽治もこの子の顔を見て驚く。


ゆき!? どうしてここに?」

「えっとね、お姉ちゃんがいつまでも帰ってこないから中学校に迎えに行ったんだよ。そしたらね、光ってる扉があったから入ってみたの。中学校って凄いね、お姉ちゃん。恐竜さんもいるなんて!」


 いや、どう見てもここは中学校じゃないでしょう。

 飛竜を見て恐竜って……まぁ、ある意味近い存在か?

 この子、飛竜に跨って頭を殴っていたし。

 

「そうだったの、心配かけてごめんね」

「欽治、それよりも飛竜って飼い慣らすことができるのか?」

「いえ、どうなんでしょう? 杏樹さん、わかりますか?」

「ス――ハ――。幼女の匂い、最高だ!」


 この変態は……。

 幼女の胸に顔をうずめて何をしてやがる。

 

「おいっ! 変態! 飛竜に乗るにはどうしたら良いんだ?」

「ス――。ふぁふぁがってしふぁがふぁせる」


 幼女の胸に顔をうずめながら喋るな!

 俺は小判鮫のようにくっ付いている杏樹の頭を無理矢理引っ剥がす。


「何をするのだっ! 最高の一刻を邪魔するなっ!」

「お前の異常な趣味は今は置いてろっ! 飛竜はどうして従わせるのか教えろ!」

「背中に跨り力で従わるのだ。これで良いだろう。私は続きを……フヘフヘヘヘ」


 もう危険人物にしか見えん!

 それより力で従わせるって、跨るにも一苦労しそうだ。

 一度、欽治に気絶させて貰おうか。

 いや、力加減が出来なくて殺しちゃいましたなんてことになりかねん。

 そう言えば、欽治の妹とやらはどうやって飛竜の背中に跨ったのだろう。


「ちょっといいかい? 雪ちゃんだっけ?」

「なぁに? お兄ちゃん」


 はわわわ。

 なんて純粋な目!

 欽治が男であの可愛さだ。

 よく見ると確かに欽治に似ている気がする。

 俺もお持ち帰り……ゲフンゲフン!

 正気に戻れ、俺!


「雪ちゃん。さっき、あの恐竜の背中に乗っていたけど、どうやったのかな?」

「え? あたし、近付いてないよ」

「いやいや、さっき背中に跨っていたじゃないか?」

「乗ってないもん!」


 どういうことだ。

 飛竜から落ちた時に頭を打っていたが、まさかそれで?

 

「リュージさん、ちょっといいですか?」

「どうした? 欽治?」

「あのですね、実は雪には変わった体質がありまして……」

「変わった体質?」

「はい。実はたまに出てくるんです」

 

 出てくる?


「何が出てくるんだ?」

「えっと、こう言うと変かもしれませんが。もう一人の人格です」


 ふぁっ!?

 二重人格っていうやつか?

 そう言えば、飛竜に跨っている時は物凄い生意気なガキだったな。

 確かに今の雪ちゃんからは想像できない。

 そう言えば以前聞いたことがある。

 二重人格でも記憶を共有する人と共有しない人がいるらしいとか。

 雪ちゃんの場合は後者か。

 それなら簡単だ。

 もう一人の雪ちゃんを呼び出せばいい。


「欽治、その人格を今呼び出せないか?」

「え? 今ですか? うーん、多分無理です」

「そういうのって何かきっかけとかで変わるんじゃないのか?」

「きっかけですか? 僕もあまりあっちの雪は見たことがないので」


 レアキャラなのか?

 それよりも飛竜が今にも襲い掛かってきそうだ。

 杏樹にヘイトを取って貰っているうちに何か策を考えるか。

 だが、俺の言うことを素直に聞く奴ではない。

 欽治から言って貰うか。

 杏樹にヘイトを取らせたまま、欽治に作戦を伝える。


 キュエエエ!


 飛竜が杏樹に目がけて口を開き、突撃してくる。

 

「うわぁい! 恐竜さん、かっこい――!」


 自分が襲われていないと喜ぶんだな。

 うん、無邪気で可愛い。

 そうじゃない!

 もう一人の雪が出てきてくれれば何とかなりそうなんだが。

 

 キュエエエ!


 しまった! 

 もう一匹の飛竜がこっちに向かって突進してくる。


「うわっ!」

「雪!」

「あははは! 恐竜さんがこっち来た!」


 雪の大きな笑い声が飛竜をさらに刺激させる。

 相当お怒りのようですね、飛竜さん。

 そのときだった。


「あはは……は……うるせぇぇぇ! このクソが!」


 雪ちゃんの口から凄い暴言が出たよ。

 欽治が守るように抱擁している腕を振りほどき飛竜のほうへ物怖じすることなく近付いていく。

 

 キュエエエ!


「雪!」

「雪ちゃん、危ない!」


 飛竜が雪を踏みつけた。


「あ、あ、あ……なんてことだ」

「私の雪ちゃんが! おのれぇぇぇ!」


 何も出来なかった。

 もう一人の雪なら何とか出来るかもって短絡的だった。

 危険なのは当然か……。

 相手は飛竜だ。

 幼女相手でも手加減などするわけも無いか。

 俺の短絡的な作戦のせいだ。

 それにしても欽治は落ち着いているな。

 問答無用で飛竜に切りつけそうだが……。


 キュ――!


「オラ! オラァ!」

「大丈夫ですよ。もう一人の雪が出て来た時点で飛竜の詰みです」


 えっ!?

 なんだ?

 いつの間にか飛竜に跨って頭部をさっきみたいにポコポコ叩いてやがる!

 攻撃力は無いみたいだが、飛竜は嫌がっている。

 欽治が落ち着いているわけだ。

 ゆきちゃんのステータスをアナライズで見ると……。


・氏名 佐納 雪(さのう せつ)

・種族 ヒューマン

・レベル 29

・年齢 8

・職業 無職

・HP 20

・MP 20

・筋力 1

・体力 1

・知力 1

・精神力 1

・素早さ 141


 アジリティ特化しとりやがりますやん。

 素早さ極振りってMMORPGとかでも妙に強いんだよな。

 しかし、異様にレベルが高いな。

 どうやってレベル上げしたんだ?


 キュゥゥゥ


「へっ! ようやく黙りやがったぜ!」


 すげえ、飛竜を屈服させている。

 

「やはり凄いですね、せつは」

「ん? そうなのか?」


 人格が変わったときの名前はゆきじゃなくてせつなのか。


「はい、あの子は僕が住んでいたコロニーの怖いお兄さんたちも従えていましたから」


 ある意味凄すぎだろ、それは……。

 いや、待て。

 今、何て言った?

 コロニー?

 

「おいっ! そこのデカ鳥! お前もアタシに従え! さもないと!」


 キュゥゥゥ


 うわ、凄い。

 次は言葉だけで従わせてしまった。

 ステータスが素早さ重視だったが、敵を従わせるチャームみたいな魔法でもあるのだろうか?

 

「キュゥゥゥ」


 杏樹もせつに向かって土下座している。

 すげぇぇぇ!

 ……ってか何で飛竜と同じ鳴き声だしてんだよっ!

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