第7話 リュージ編7
彼女は自分の今までの経緯を話してくれた。
この世界には4年前に飛ばされてきたらしく、ここより北方にあるスノーティアという国の小さな村ウィーリのギルドでさまざまなクエストを受け日々の生計を立てていたそうだ。
しかし、2年前にさっきのならず者どもがウィーリを襲撃し、今のドリアドのような惨状になってしまったらしい。
少なくとも、あいつらは2年前からこんな悪事を働いていたのか。
もともと人口も100人にも満たない小さな村だったらしく生き残りは彼女だけらしい。
正確には魔物討伐のクエストで村の外に出ていたのが幸いしたのだと言う。
それから、彼女はさまざまな村や町を転々とし2日前にドリアドに着いたそうだ。
それにしても今回の襲撃も運良く魔物討伐中で外に出ていたおかげで助かったとは幸運な人だ。
「その……昼間にギルドで其方たちを見かけたのだが、連れの少女はどうしたのだ?」
ギルドでビッグモスの退治の依頼を受注したときか。
まさか、ユーナがいないことに気付いて話しかけてきてくれたのか?
話の持って行きかたによっては、一緒に救出を手伝って貰えるかもしれないな。
近接アタッカーは重要だし。
「えっと……先ほどの連中に連れていかれてしまって」
「な、な、な、なんだって!?」
物凄く驚いている。
やはり、連れて行かれたあとはすぅんごぉい目になるのだろうか?
「実は俺も転移者で彼女の家で世話になっ……」
「なんだって!? うらやま……ゲフンゲフン!」
ん?
うらやま?
なんだろう。
俺の本能が何かを感知している。
「あの。あいつらって何なんですか?」
「ふむ、私も詳しくは存ぜぬのだが……」
武者小路さんの話ではあのサ〇ザーみたいなやつが三代目勇者というのは事実らしい。
旅の途中で勇者の家系でしか扱うことが出来ない特殊能力をモンスター相手に使っている所を見た商人から聞いた話らしいが。
なぜ勇者である存在がならず者みたいな悪事を働くのかは知らないようだ。
それにしても勇者の家系でしか扱うことのできない特殊能力っていうのが気になる。
魔法じゃなくて特殊能力って言い換えれば異能の力ってことだろ?
異能力なんて最高に熱いじゃねぇか!
まさか、それを俺が使えたり?
そんな展開があればなぁ。
「よし、私も腕には幾許か自信がある。救出に向かうならば、助太刀できよう」
「え? 良いのですか? 武者小路さんも危険な目に遭うかも知れないです」
「大丈夫だ! あのような可憐な少女を! く――! 羨ましいではないかっ!」
ふぁっ!?
羨ましい?
どちら側が羨ましいのだろうか?
美少女にすぅんごぉいことをするほう?
それともされるほうか?
………………。
あ――、そうか。
危ない人だ、この人。
どうしよう。
同行させるべきか?
変態はややこしくて、一番相手にしたくない。
「あの? できれば、ステータスを見せて貰ってもいいですか?」
「ん? ふむ、本来なら汚物の塊で恥辱にまみれた下賎な男という生命体に見せるステータスなどさらさら無いのだが致し方なかろう」
あれ?
めっちゃ、ディスられたんですけど。
「では、失礼して……アナライズ!」
・氏名 武者小路 杏樹 (むしゃのこうじ あんじゅ)
・種族 ヒューマン
・レベル 72
・年齢 22
・職業 ストライカー
・HP 3570
・MP 20
・筋力 1
・体力 356
・知力 1
・精神力 1
・素早さ 1
ひでぶ――!
また極振りかよっ!
え?
流行ってるの?
ステータスもファッションの一部?
違うだろ!
まあ、防御特化ならタンクになってくれるよな。
それにしてもタンクって普通は盾を持つ職業を選ぶはずだがなぜなのだろう。
「あの、失礼かもしれませんが防御特化なら盾の持つべきじゃ?」
武者小路さんの表情が強張る。
何か不味いことでも行ったのか?
「何を言っている! 盾など持つなどと! そんなことをすれば、モンスターの強烈な一撃で昇天出来ないではないかっ!」
ふぁっ!?
え、どゆこと?
「いいか! モンスターと戦うメリットはとても太刀打ちできない強敵との死闘の末に力及ばなく無残にも八つ裂きにされることだ! いいか! こんな燃える展開など! くぅ――!」
はい……貴女ぁ、救えないほど変態ですね。
破滅願望と別の何かを匂わせる別属性……もうとてつもなく危ない人だ!
だが、壁にはなる……。
うん、壁として使ってお望み通り瀕死になったら放置しよう。
そうしよう。
隊列として、杏樹を前衛に俺は中衛ではなく後衛に徹することにした。
え?
アーチャーは中衛だって?
いえ、変態のすぐ後ろは俺が恐怖を感じるからです。
戦力的には心許無いがまずは首都へ行ってみないことには分からない。
道中で運が良ければ新たな出会いがあるかもしれない。
もう変態は勘弁だが。
こうして、俺たちはユーナを救出するために首都グレンへ目指すのだった。
おじさんには事の顛末を伝えたかったがあいつらから距離を取り過ぎるとそれだけユーナの身に危険が迫ることになる。
決しておじさんにユーナを見捨てたことを咎められるのに怖気付いた訳じゃないからな。
「えっと、武者小路さん?」
「うむ、私のことは杏樹でいい。本来なら男という糞以下の生命体に呼ばれる名など持たぬのだが」
こいつ!
本当に生命の危機に陥っても放置だ!
放置!
「では、杏樹。首都へはどうやって行くつもりだ?」
「そうだな、首都グレンはアルス大陸の遥か西方にある。ここから徒歩での移動は一か月以上は当然だろう。」
一か月!?
そのころにはユーナはすぅんごぉい目に合わされてボロ雑巾のようになっているかも知れない。
いや、最悪のことも十分考えられる。
「それでは遅すぎるだろっ!?」
「問題は時間だけでは無い。あの卑しい汚物共が首都に戻るまで私のユーナが安全とは言えないことも有り得ない話ではなかろう。」
確かにそうだ。
首都に戻ってからすぅんごぉい目に遭うと言うのも確定では無い。
悪党どもだ。
その気になったらもしかしたら時すでに遅しと言うことも考えられる。
やっぱ見捨てたのはマズかったよな……助けたら、誤っておくか。
誤って済む問題じゃ無いけど。
「時間だけでなく、汚染物質共の位置を捉えるためにもカビル山脈に向かうべきだろう。」
カビル山脈?
どこかで聞いたような?
そうだ……欽治がドラゴン討伐に行っている場所か。
確かに欽治が入れば奴ら相手にも何とかなるかもしれない。
だが、杏樹は欽治のことを知っているのだろうか?
あの恰好だ。
欽治を美少女としてマーキングでもしていたのだろうか。
いや、実際は男なんですけどね。
正体を知ったら欽治の命が危険に晒されそうだ。
「なぜ、カビル山脈に?」
「あそこには飛竜がいる」
飛竜?
ゲームでよく出てくる小型のドラゴンか。
「以前、近くの村の者に聞いたのだが飛竜は馬よりも早く移動できる上、空を飛べる」
「なるほど、時間的にも奴らの位置を掴むためにも飛竜なら解決できるというわけか……」
「そうだ、それにあの山脈にはドラゴン最強種のヨルムンガルドがいるようでな」
ふぁっ!?
ヨルムンガルドって北欧神話で出てくる巨大な蛇だよな。
そんなのと遭遇したら即死確定だろ。
ま、まさか?
「もし、ヨルムンガルドにでも遭遇してみろっ! 一撃で昇天させられるかもしれない! いや、一撃でなくても確実に昇天させられるに違いないっ! くぅ――! 最高だっ!」
んもう!
バカ――――――!!
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