第6話 リュージ編6
首都への旅立ちを延期した俺はドリアドの町でさまざまな依頼を受け、それをこなしている。
この世界には冒険者ギルドというものがあり、隊商の護衛や町の住人の依頼などを受けて日々の生活を送る者たちのことを冒険者と言うのだそうだ。
ユーナが行っている八百屋や教会での手伝いもそうした住人の依頼の一部になるそうだ。
……と言うことは、ユーナも冒険者ってことか。
ちなみに冒険者は職業の名前ではないらしい。
冒険者として生計を立てている人はステータス画面では無職と表示される。
これはちょっと改善してもらいたいところなんですけどね、運営さん!
俺はまだモンスター討伐には自信がなかったということもあり、店の手伝いや土木工事など危険が少ない仕事ばかりを受けている。
しかし、学生だった俺にはどれも経験したことのないものが多くレベルは23になっていた。
「よし! そろそろ簡単な魔物狩りでもしてみるか」
「はぁ……リュージ、やっとモンスターと戦う気になったの? 臆病者なの? 臆病者でしょ! いいえ、これはもうヘタレね!」
相変わらずディスってくるなあ。
そんなことはさておき、まずは魔物討伐のクエストを受けるためにギルドへ行くことにした。
せっかく狩りをするんだ、無賃労働になるより依頼を受けて報酬を貰ったほうがいい。
魔物を討伐してお金が入るのは依頼を受けた時のみだからな。
何事も効率よくしないと。
「あら、リュージさん。いらっしゃいませ。本日はどんなご用ですか?」
この人はギルド管理人のニーニャさんだ。
ニーニャさんは人間と猫型獣人との混血種で、亜人という種族に属するそうだ。
ちなみにこの世界の人族は人間、獣人、亜人の3種族があり共存共栄の関係にある。
人間をさらに分類するとヒューマン、エルフ、ドワーフの3種類になる。
獣人?
種類が多すぎて全て言えないけど、猫型・犬型・狸型・狐型等が最も多いらしい。
亜人はこの2種の混血のことを指すらしい。
勇者歴の今はこの3種族が世界を統べているということになるのかな。
で、このニーニャさんは俺としてもかなり好みの部類に入る。
いや、むしろタイプだ。
猫耳というのは素晴らしい存在だよな。
「こんにちは、ニーニャさん。あの、一番簡単な討伐クエストって出ていますか?」
「そうですね、リュージさんは討伐が初めてですからこちらのクエストは如何でしょうか?」
ふむ、地下水路に定期的に湧くビッグモス10体の討伐か。
ビッグモスって何だ?
モスと言うだけあって大きい蛾?
「このビッグモスというのは?」
「ご想像通り大きな蛾ですよ。まれに毒をもった鱗粉を噴射しますが基本は人が近付くと逃げるばかりの虫型モンスターですね」
毒攻撃をするのか。
こっちには回復担当のユーナがいるし、大丈夫だろう。
「では、このクエストを受けていいですか?」
「はい、承知しました。気を付けてくださいね」
町の地下水路はギルドの地下室から入ることができるらしく、ユーナを連れて初のモンスター退治に行くのだった。
……が、実際に見てみると気持ち悪い!
ただ大きいだけの蛾と思っていたが、飛び回ると気持ち悪さが10倍増しになる。
しかも、こちらの攻撃が羽に当たると、毒を持った鱗粉がこぼれ落ちてくる。
「リュージさん! リュージさん! MPがもうないよぉ!」
「なんだって!?」
こりゃ、あかん!
これ以上、毒攻撃を受けると死んでしまう!
「ユーナ! 逃げるぞ!」
「ひゃ! ひゃぁぁ!」
何とかビッグモスから逃れることができたがどこだ、ここは?
必死に逃げ回っていたら、どうやら知らない通路に入ってしまったようだ。
何とか外へ出たいが、他に出口が見当たらない。
ドドド!
ん?
なんだ?
地上がやけに騒がしい。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ぐわ――!」
悲鳴?
何が起きてるんだ?
急いで地上に出るため出口を探してみる。
「リュージ! ここに梯子があるわ!」
でかしたな、ユーナ。
確かに天井から日の光が漏れている。
地下水路に入るための業者用の入り口だろうか?
とにかく急いで地上を確認しないといけない。
ドドド!
これは馬車の音か?
かなりの大人数が来ているようだ。
「オラ! オラァ! 女はこっちだ! 野郎どもは皆殺しだ!」
あ、これはあかん。
地上から聞こえる声はいかにもならず者が言いそうなセリフだ。
「ちょっと! リュージ! 早く昇ってよ!」
馬鹿野郎!
デカい声出すんじゃねぇよ。
相手に気付かれたらどうするんだ!
「ちょっと――! リュージさん! 聞こえてる――? は――や――く――」
「なんだぁ? 地面から声が聞こえるぞう!?」
ひ、ひぃぃぃ!
天井を塞ぐマンホールの蓋がゆっくりと開いていく。
「おい! ユーナ、戻れ」
「え? な――に――? 逆光で見えないんですけど――!」
ぎゃぁぁぁぁ!
デカい!
デカい声出すなっての!
仕方ない、床までは2メートルほどだ。
あいつを下敷きにしてしまうが殺されるよりいいだろう。
そう考えた俺は梯子から飛び降り、下敷きになったユーナを抱え地下水路の奥へ戻っていった。
「ちょっと! 一体、何してくれんのよっ!」
「少し静かにしろっ!」
さすが、ならず者どもだ。
何の躊躇もなく梯子を下りてきやがった。
「誰なの? あの人たち?」
見たままだろうが!
明らかに残虐非道の悪党の格好だ。
「だ――れ――か――い――る――の――か――な――?」
ヤバい!
これはヤバい!
仕方ない。
これはこのやかましいユーナを巻くために覚えた魔法だが、今はこれしか方法がない。
「ステルス!」
ステルスとは姿を隠す魔法である。
仕組みはカメレオンのように背景の色に溶け込み身を隠す魔法だ。
あくまでも背景に溶け込むだけだから注意深く見られたり、音を立ててしまうと簡単にばれてしまう。
「いいか? ユーナ! 絶対に音を立てるなよ! 絶対にだぞ!」
「え? なぁに? そんなに怖いの? ぷっ! 相変わらずヘタレねぇ!」
怖いだろうが!
相手は見たままの悪党だぞ!
女のお前は見つかれば、すぅんごぉい目に合うんだぞ!
「ん――? 女の匂いがするじょ?」
ぎゃぁぁぁぁ!
定番の女の匂い。
どんな匂いだよ!
そもそも、そんなんでバレるなんて馬鹿げているぞ!
ならず者は2人だ。
数では同じだが、力では確実に負けている。
戦う相手ではない。
「おい、ユーナ。ゆっくりと音を立てずに奥へ行け。」
さすがのこいつも相手を見て怖気づいたのか静かに後退しだした。
カンッ!
ぎゃぁぁぁぁぁ!
なんで、こんな所に小石が落ちているんだよ!
それを的確に狙いを定めたように蹴るんじゃねぇよ!
「んん?」
あかん!
死んだ!
「暗くて見えねぇが、音が聞こえたな?」
「行ってみるじょ?」
どうする!?
こいつを置いて、一人で逃げることはできる。
だが、こいつの家で住まわせてもらっている現状で見捨てて行く訳にはいかない。
……いや、待てよ?
男の俺は殺されて、女のこいつはすぅんごぉい目に合う。
楽観的に見ればこいつは殺されるわけではない。
殺されないだけまだ良いほうだろう。
うん、そう思って置いて行こう。
俺は2回目の人の道を踏み外した。
「クイックネス」
加速魔法を俺自身にかけて地下水道を奥へと逃げる。
「ちょ、ちょっと! リュージ! どこ行くのよ! 置いて行くつもり? 置いて行くのねっ! ちょっと待ってよ――!」
だってこの加速魔法は自分にしかかけられない魔法だもの、仕方ないじゃん。
「おっほ――、可愛いお嬢ちゃんだぎゃぁ」
「よし、連れていけ!」
「ちょっと――! リュージさん! リュージさん!」
米俵を持つように抱え込まれ、ユーナは連れて行かれたのだった。
ふぅ、よし!
見捨てはしたが助ける隙があれば助けてやる。
俺はユーナを含む3人の後を追うことにした。
地上にはかなり多くのならず者どもが来ているようだ。
「へっへっへ! 遠征して正解だったな!」
「ああ! さすがは勇者様だぜぇ! 人族の頂点に立つだけのことはある」
ん、勇者様?
「勇者様! 極上の女が手に入りましたぜぇ!」
「ほう、そうか。褒めて遣わす」
はぁぁ!?
あれが勇者?
どう見ても愛も情けもいらない世紀末の悪党のような恰好をしている。
しかし、この大軍。
それに奴らの掲げている旗はどうみても勇者の紋章そのものだ。
教会で見た本にも書いてあったし。
奴らがただ勇者の紋章を無断使用するならず者という可能性も捨てきれないが……。
「よし、一旦グレンへ戻るぞ」
「へいっ! 全員! 凱旋だ!」
「ヒャッハ――!」
どう見ても世紀末風悪党の集団だよな?
しかし、奴らの言っていたグレンというのが首都を指すのか、それとも暗号みたいなものなのか?
どちらにしてもユーナをあのままにしておくわけにはいかない。
救出するにしてもどうしたものか。
町を見渡すと無残に殺された町の男性の屍だけが残っている。
女性はみんな連れて行かれたのか?
まさか、ニーニャさんも?
ますます、助けに行かないといけないな。
「ちょっといいか?」
背後から急に声をかけられる。
迂闊だった。
まだ奴らの一味がいたのか?
ゆっくりと振り返ってみる。
「其方、奴らの仲間ではないな? この町の生き残りか?」
誰だ?
女戦士?
いや、手甲をしている。
グラップラーかストライカーだろうか?
どちらにしても奴らの一味じゃないようだ。
「はい。あ、あの貴女は?」
「失礼。私は武者小路杏樹という」
日本名!?
まさか、この人も転移者か?
「アナライズ!」
ふぁっ!?
いきなり俺のステータスを見てくるとは、あの……それってプライバシーの侵害ですよ。
「ふむ、其方も日本人か」
しかし寡黙ですらりとした体形をした見目麗しい大人の女性だ。
艶のある黒色の長い髪が風になびいている。
「えっと……」
アカン!
こんな綺麗な大人の女性が相手だと妙に声がかけにくい!
「話しても良いだろうか?」
すると、彼女から声をかけてきてくれた。
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