第5話 リュージ編5
ユーナ・クロウド、年齢14、職業プリーステス(自称女神)、俺の中では痛い娘だ。
佐納欽治、年齢15、職業サムライ、ユーナを女神と信じ切っている脳筋娘だ。
いや、違った。
男だ。
近接アタッカーを得た俺は今レベル上げの真っ最中である。
欽治の話ではどうやらモンスターとのバトルでなくても、無数に近い職業を経験することで経験値が貯まりレベル上げが出来るそうだ。
さすが先輩、どこかの役立たずとは大違いだ。
だがしかし!
俺は異世界にまで来て、何をしているんだ。
おじさんの家から最も近い町ドリアド。
俺は今ここで客の呼び込みをしていた。
「ほら! リュージ! もっと大きい声でお客さんの呼び込みしてよ!」
おじさんの職業はファーミスト、いわゆる農民だ。
果樹園で育てたリンゴを町の八百屋や料理店に卸している。
おじさんの計らいでお得意先の八百屋で手伝いをさせてもらうことになった。
普段からユーナはこの八百屋で看板娘として手伝いをしているそうだ。
呼び込みなど経験したことがない俺だがそれゆえに経験値の入手量は多かった。
しかし、ただ呼び込むだけという単調な仕事だけあってレベルが5になった時点で、経験値の入手量は微々たるものになっている。
ま、こんな簡単な仕事をしただけでレベルが少しだが上がったのは嬉しい。
「ユーナちゃん、今日はありがとうね。助かったよ」
「気にしないで! 女神である私にかかればお茶の子さいさいよっ!」
お茶の子さいさいって今どき聞かない言葉だな。
「リュージくんもありがとね。これ少ないけど今日のお給料ね」
「はい、ありがとうございます」
レベル上げもできて金も入る。
命のやり取りして危険な目に合うよりよほど効率的だ。
MMOでもあるにはあるが、どれもバトルより効率が悪すぎるんだよな。
だが、今は現実。
下手したら死ぬよりこういった仕事をしてレベル上げをし、格下相手にイキる。
「さぁ! リュージ! 明日こそ冒険に出るわよっ!」
相変わらず、こいつは俺を冒険に連れて行かせようとする。
だが、いつまでもここにいても元の世界に帰れる感じはしない。
「なぁ、ユーナ。冒険、冒険って言うが具体的にどこを目指すんだ?」
「ふふん! やっとその気になったようね! いいわ、特別に行き先を教えてあげる。心して聞きなさい! 勇者様のいる首都グレンよっ!」
なるほど、勇者のいる所か。
そして、首都……。
帰るための方法を見つけることができるかもしれない。
「その首都まではどれくらいかかるんだ?」
「分かんない。行ったことないもの」
「おじさんに聞いてないのか?」
「お父さんも行ったことないから、分からないんだって」
そうか、行ったことのない場所なら仕方ない。
しかし、レベル的にも金銭的にも少し心許無いな。
「分かった。ただ、明日は駄目だ。もう少し力を付けてからにしていいか?」
「なに? 怖いの? 貴方、意外と臆病なのね。」
うるせぇ、俺は死にたくないだけだ。
「そうね……じゃあ、明日はもっと経験値の多い仕事しましょう。うん、そうしましょう!」
「何、勝手に決めてんだ。それは安全なんだろうな?」
相変わらず、こいつは危機感がないというか無謀というか、自分が女神と信じ込んでるから死なないってか?
そんなわけないだろ。
ユーナが言うには明日の仕事というのは寺院の孤児院での子どもの世話だそうだ。
遊び相手をするだけで金も経験値も入る。
これは確かに旨い。
「そうだ、リュージ。まだこっちの文字が読めないのよね」
「ああ、そうだな。なぜか、意思疎通はできるが文字は読めないな。それがどうした?」
「仕方ないから、文字を教えてあげるわ! 感謝しなさい!」
一言多くなければ喜べるのだが、こいつの上から目線なところは何とかならないのか。
しかし、文字を覚えることは確かに大事だ。
首都に行ったところで文字が読めなければ情報は聞くことしかできない。
「そうだな。ユーナ、お願いするよ」
「ふふん! 素直ね! ありがたく思いなさい!」
その夜ユーナから文字を学び、同時に学習したことでレベルも7になった。
知力に振り分けることで文字の理解も早く、これなら思ったより短期間でマスターできそうだ。
翌朝、ユーナと一緒に町の孤児院に行き子どもたちの相手をすることになった。
さすがに子どもたちの無邪気さといつでも元気すぎる姿に、俺は四苦八苦しながらも世話をすることが楽しくなっていた。
こっちの世界でスローライフを送りながら子どもの世話か……意外とありかも?
元の世界じゃモンスターペアレントがいたりして手を出そうとは思わないがな。
遊び相手だけでなく、ご飯の準備や簡単な計算を教えること、赤ん坊をあやすことまで忙しすぎる1日だったが、ユーナが言っていたように新しいことの経験ばかりでレベルも10になっていた。
しかし、異世界に来てまで俺は何をやってるんだって思わなくもない1日だった。
俺は保父さんになるために来たんじゃないぞ。
チート能力がない。
俺より強い転移者がいる。
俺はいったい何のために呼ばれたんだ?
虚しい、虚しすぎる。
さっさと元の世界に帰りたい気持ちがよけいに高まってきた。
「さぁ! リュージ! 明日こそ首都に行くわよっ!」
相変わらず元気な奴だ。
だが、今日の給料である程度の装備は整えることができた。
ヒーラーはユーナ、近接アタッカーには欽治がいる。
それなら、俺は遊撃や援護役としてアーチャーを選ぶことにした。
アーチャーは中距離には弓を使い、近距離では短剣を使えるからだ。
弓も短剣も武器屋では他の職種の武器より安く買えるのも昨日確認しておいて正解だった。
いや、正確には剣や盾が高すぎるというのもこの職業を選んだ理由だ。
ステータスの振り分けは極振りの二人がいるため俺は筋力、体力、素早さを同程度にのばすことにした。
「ユーナ、明日は首都に行くのかい?」
「そうなの。お父さん、留守番お願いね!」
「まぁ、そうだな。街道を進めば比較的安全に行けるが道中気を付けてな。リュージくん、娘をお願いするよ」
「はい、おじさん」
翌朝、出発することになったのだが……。
まさか、想定外だ。
欽治がいつまで待っても集合場所に来ない。
そもそも、欽治に一緒に来てほしいという約束すらしていなかった。
いや、ユーナがパーティーに入ることを進めていないのが原因だ。
「ユーナ、欽治は?」
「何言ってるの? 欽治ならあの後、修業に出たわよ。自分の限界を超えるためカビル山脈のドラゴンと戦うんだって」
ド、ドラゴン?
すげー!
って、違う!
なんてこった。
貴重なアタッカーがいなきゃ話にならないだろうが!
これはまだここに滞在してレベル上げでもするべきか?
昨晩、おじさんに出かけることを言ってしまった以上、今さら延期するとも言いにくい。
「何をトロトロしてるの! 出発するわよ、リュージ! この女神様についてきなさい! ちゃんと私を死守するのよ!! 貴方は怪我してもいいから、全力で私を守りなさい! さぁ、早く行くわよ!」
うん、やっぱり延期しよう。
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