第4話 リュージ編4

 ユーナは女神を語る中二病の痛い女の子だった。

 そうすると、俺をこの世界に召喚したのは誰なんだ?

 それに、俺は元の世界に帰れるのだろうか?

 今日は寝床に有りつけたが、ずっとここにいるわけにもいかない。

 おじさんが居ていいというなら、お言葉に十分に甘えさせてもらうが……。


「リュージくん、ちょっといいかい?」

「はい、何ですか?」

「晩酌に付き合ってくれんかね?」

「え? 俺はまだ未成年で……」

「娘から17って聞いたが違うのかい?」


 おじさんに聞くとどうやらこの世界では15歳で成人らしい。

 江戸時代の元服みたいだな。

 ま、飲酒が許される世界ならお言葉に甘えよう。


「はい、是非!」

「ははは、助かるよ。娘はまだ14で酒は飲ませられないからね」


 俺は人生初の酒を楽しむことにした。

 まずは一杯。

 う、旨い!

 こいつはヤバい!

 酒と肴とはこんなに相性がいいのか!?

 いくらでも飲めてしまう。

 ああ、うんめぇ!

 俺は至福の時を過ごすことができたのだが……。


 翌朝。

 あまりの旨さから飲み過ぎてしまったことを後悔する。

 こいつが二日酔いか。

 うっぷ!

 気持ち悪い。


「ほら! リュージ! だらしないわねぇ!」

「お、おぅ。悪いな」

「吐きたくなっても吐かないでよ! 大変なことになるから」

 

 いや、こりゃあかんわ。

 我慢など出来る領域ではない!


「トイレ、どこだ?」

「駄目よ! トイレでも吐いては駄目!」


 おいおい、拷問かよ!

 別にいいだろ、吐くくらいで何が起きるってんだ?


「なんで、吐いたら駄目なんだよ? うっぷ!」

「ごくごく民が来ちゃうかも知れないでしょ!」


 ふぁっ!?

 ごくごく民?

 なんじゃそりゃ。

 無視してトイレで楽になろう。


「駄目よ! 絶対、駄目だからね!」

「はいはい、吐いていいってことだな」

「違うわよっ! あんた、バカなの!? バカでしょ! いいえ、真正のバカだわっ!!」


 バカ3連発、また来たよ。

 うっぷ!


「仕方ないわね! ヒール!」


 彼女の手からひんやりとした心地良い何かが流れてきた。

 しばらくすると、二日酔いによる気持ち悪さが嘘だったように和らいでいく。


「それは魔法か?」

「そうよ、この世界には魔法があるの! すごいでしょ! まぁ、私は女神だから魔法も超すっごいんだけどね! さぁ、リュージ! 私を誉めなさい! 讃えなさい! 敬いなさい!」

 

 いや、それは無理。

 それより丁度いい。

 前から気になっていたことを聞いてみよう。


「なぁ、ユーナ。お前、なんで俺が異世界から来たことを知っている? それよりなんであの場所にいた?」

「……そうね。私が女神だからという答えは望んでないのよね? いいわ、特別に教えてあげる」


 珍しく、こいつが教えてくれることになるとは……。

 ユーナの言葉によると、夢であの場所に俺が現れることを知ったらしい。

 そして、転移した者は俺だけではなく他に数人いることも教えてくれた。

 その中の一人は1年前にこの世界に呼び出され、近くの山で修業に明け暮れているようだ。

 ちなみにユーナと呼び捨てするのはおじさんの了承を得ている。

 女神と呼ぶのは本物の女神様に罰が当たるから駄目とも言われた。

 ユーナの了承? 

 だって女神じゃないし。

 名前の呼び捨てでも特に気にしてないみたいだ。


「なぁ、ユーナ。よければ、その人のいる所を教えてくれないか? 1年前に来たのなら、俺よりこの世界に詳しいってことだろ? 俺はまずこの世界について知らなければならないんだよ。頼む!」

「そうね。私も一度会っただけだから、今の彼のステータスは見ておきたいわ。冒険に仲間は必要だものね!」


 ふむ、彼ってことは男なのか。

 近接アタッカーであることを望みたい。

 俺は冒険に出るとは言ってないが、こいつは本当に自己中心的な解釈をするよな。

 この世界のことを知るためだ。

 もしかしたら元の世界の帰り方もその先輩なら見つけているかもしれない。


「お父さん、ちょっとリュージと出掛けるね!」

「おお、そうかい。リュージくん、娘をよろしく頼んだよ」

「はい、なるべく早く帰ってきます」


 こうして俺とユーナは先輩転移者のもとへ行くことにした。

 勇者歴だからだろうか。

 道中、モンスターも現れることなく先輩がいるという山の麓まで来ることが出来た。


「さぁ! リュージ! ここからはモンスターがうじゃうじゃいるからね! 気を付けなさいよ!」


 気を付けろって言われてもな。

 俺、装備なんてないんだが……。

 そう言えば、迂闊だった。

 俺のステータスは初期のままだ。

 この森の中でモンスターに遭遇しないということは絶対に無いとは言えない。

 遭遇してしまったら……それでおしまいなんて冗談じゃないぞ。


「お、おい! ユーナ、お前のステータスはどんな状態なんだ? 知っておかないと対策が立てられないから、教えてくれ」

「ふふふ、女神である私の素晴らしいステータスが気になるの? 気になるのね!? いいえ、気になって夜も寝れないんでしょ!」

「いいから早く教えろ」

「相手のステータスを見るにはアナライズっていう魔法を覚えないといけないのよ。ま、今の貴方では無理ね。」

「マジかよ……」

「そうね! 特別に見せてあげるわ。さぁ、驚きなさい! 私の華麗なステータスを!」


 相手が見せてあげる許可を下すとアナライズと言う魔法を覚えていなくても見れるようだ。

 だったら、最初からそうしてくれれば良いのに。


・氏名 ユーナ・クロウド

・種族 ヒューマン

・レベル 教えない

・年齢 教えない

・職業 女神

・HP 20

・MP 270

・筋力 1

・体力 1

・知力 26

・精神力 1

・素早さ 1


 き、きた――!!

 極振り!?

 知力上げってことは魔法重視か?

 さらに職業が女神とは。

 うん、嘘だな。

 おじさんならこいつの職業を知っているだろう。

 戻ったら聞いてみることにしよう。

 と言うかさ、年齢は14ってもう知ってるんだぞ。

 故意に伏せることも出来るのか?

 意外と便利なステータス画面だな。


 それにしても困ったことになった。

 近接アタッカーがいない。

 モンスターに近付かれたら全滅だって有り得るぞ。

 森に入るのは無謀だな。

 完全に手詰まりだ。

 少しでもレベル上げをしてからもう一度来るべきか。

 いや、そもそもレベル上げするにも近接アタッカーが必須だ。

 あれこれと考えているときだった。


 ドスン……ドスン


「きゃ! きゃあ!」

「ガアァァァァ!」


 あ、死んだ。

 どうみても、熊型モンスターだよ。

 こいつぁ、いきなりなんてことになるんだ。

 もう、あかん!

 お父さん、お母さん、僕を生んでくれて幸せでした。

 

「ちょっと、ちょっと! リュージ! 助けてよ! まさか、見捨てるの!? 見捨てるんでしょ!? まさか、見捨てたのねっ!?」


 一宿一飯の恩がある。

 俺だってそこまで無責任じゃない。

 だが、どうする。

 はっきり言ってあの鋭い爪を一撃でも食らえば死ぬぞ、これは。

 

 ……いや、待てよ。

 一宿一飯の恩があるのはこいつの親父さんだ。

 こいつ自体には恩などないっ!

 そうだ、見捨てよう。

 俺は生き延びるために人の道を即座に踏み外した。


「急襲の型!」


 ん?

 九州?


「大痛剣!」

 

 大分県?

 いえ、ここは異世界ですよ。

 ……って何を言ってるんだ?


 そのときだった。

 森の方角から何かが飛び出してきた。

 それは俺の横を一瞬ですり抜け、モンスターへ向かっていく。


 バシュゥゥゥ!


 モンスターの方に振り向いた時には首から血飛沫を上げ倒れ伏していた。


「何が起こったんだ?」


 カチン


 かなり大きい太刀だ。

 それを鞘に納める一人の女の子。

 この娘が1年前にこの世界に来た先輩?

 あれ?

 男じゃない?

 

「よくやったわ! 欽治! 貴方には天界の祝福が与えられるでしょう」


 何を言ってんだ。

 さっきまで滝のような涙流して俺に助けを求めていたくせに。


「だ、大丈夫ですか? 女神様?」


 あらやだ!! 

 可愛い!

 ユーナのことを女神と信じているのか?

 それよりも綺麗な振袖を着て、日本の女流剣術家って感じがする。

 ん? 

 キンジ?


「あ、あのっ! 大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」

「あ、ああ。助かったよ」

「リュージ! 紹介するわ! この子が1年前にこの世界に来た転移者よ!」

「えっ? あっ! は、はい! 僕の名前は佐納欽治と言います。よろしくお願いします!」

「はっ、はい! こちらこそ、俺は神薙龍識と申します!」


 なんていう美少女。

 俺には女神(仮)より、この娘のほうがよほど眩しく感じられる。

 それより、どうみても女の子なんだが……。

 

「運が良かったわね、リュージ。今のバトルで貴方にもステータスポイントが入っているはずよ! さっそく、アナライズを覚えなさい」


 ふむ、アナライズは知力を2にすると習得できるのか。

 確かにモンスター相手に役に立つ魔法だし覚えていてもいいだろう。


「どうやって、振り分けるんだ?」

「リュージ、そんなことも知らないの! ぷっ! バカねぇ!」


 うるせえ、相変わらず一言多い奴だ。


「自分のステータスを見て上げたい項目を注視するだけよ! 簡単でしょ!」

「分かった。やってみよう」


 レベルが3になっている。

 なるほど、モンスターとエンカウントしても近くの者が討伐してくれるだけで経験値が入る仕様ってところか。

 これは寄生プレイが出来るんじゃないか?

 くくく、MMOじゃ寄生は散々利用させて貰っていた。

 この剣士がいれば楽にレベル上げができるんじゃないか。


 振り分けできるポイントは10入っている。

 1レベル上がるごとに5ポイントか。

 まずは知力を2にして、アナライズを覚えることにした。

 不思議な感覚が体中に巡り渡る。

 頭の中が妙にクリアになり、少し賢くなった気がする。

 アナライズの使い方もなぜかわかる。

 いったい、どういう仕組みなんだ?


 残りポイントは9か。

 振り分けは慎重にしなければいけないのだが、初期ステータスではさすがに戦えないからな。

 筋力と体力にそれぞれ4ポイントずつ振った。

 知力を振った時と同じ不思議な感覚に包まれる。

 身体全体が温かくなり、全身に力がみなぎるようだ。

 残りポイントは1。

 また貯まった時に使えばいいか。


「さぁ、リュージ! アナライズを欽治に使ってみなさい!」


 まるでチュートリアルの説明をしてくれるモブみたいだな。

 いや、ユーナにはちょうど良い役柄か。


「は、はい! ど、どうぞ」


 目を閉じる必要あるのか?

 そんな可愛いポーズをとるな!

 惚れてまうやろ!


「か、かわぇぇぇ……いや違う、アラナイズ!」


・氏名 佐能欽治 (さのう きんじ)

・種族 ヒューマン

・レベル 38

・年齢 15

・職業 サムライ

・HP 1870

・MP 10

・筋力 186

・体力 1

・知力 1

・精神力 1

・素早さ 1


 この子、筋力極振りの脳筋かぁ。

 それより名前から判断すると男なんだが、見た目は可愛い女の子だ。

 はっ! 

 いや、振袖のせいでアソコが分からない。

 失礼かも知れないが聞くしかない!


「えっと、欽治さんは男性ですよ……ね?」

「えへへ、見たままですよ」


 見た感じは女の子なんですって!

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