第3話 リュージ編3

 俺はこの女神(仮)の案内で彼女の家へ行くことになった。

 道中、何も起こることがなく平和そのものだった。

 疑問は色々あるがこいつは何も教えてくれないのだろう。

 これから先のことも、こいつの家で休んでから考えることにしよう。

 などと、考えているうちに……。


「さぁ! 着いたわよ! ここが私の家よっ!」


 思っていたより立派な民家だ。

 洋風な造りでなかなかお洒落な佇まいである。


「ただいまぁ!」


 ん? 

 ただいま?

 誰かいるのか?


「おぉ、ユーナ。帰ったのかい」


 かなり恰幅がいいおじさんが出てきた。

 頭にはタオルを巻き、タンクトップにつなぎを穿いている。

 土木工事でもしていそうな恰好だ。

 いや、こいつが女神だとするとこのおじさんは神様なのか?

 とてもそうは見えないが。


「お父さん、今日は友達を連れてきたの!」


 ふぁっ!?

 お……父……さん……だとっ!?


「おお、そうか。いつもユーナが世話になっているね。どうだ、こいつはなかなか騒がしいだろう」


 いえ、騒がしいどころじゃないです。

 それ以前にいつも世話などしてないです。

 まだ出会って3時間ほどです。

 そう言いたいのだが、神様なら下手なことは言えない。


「い、いえ! こちらこそ、いつも女神様にご迷惑をおかけしています」

「お父さん。私、自分の部屋で少し休むね」


 そういって、女神(仮)は2階へ上がっていった。


「はっはっはっ、面白いことを言うね。女神様なんて、あいつのニックネームか何かかい?」


 へ!? 

 なんだって!?

 間違っていたら大変ことになるかもしれないが、確認せねばならない。


「い、いえ。娘さんが自分は女神だとおっしゃったのですが……違うのですか?」

「ほほぅ! うちの娘がね。はっはっは。面白いことを言ったもんだねぇ」


 おじさんの表情が変わった。


「ちょっと失礼するよ」


 おじさんは俺のもとから立ち去り2階へ上がっていった。

 あ、このあとの展開は読める。

 自業自得だし、放っておこう。

 

 それよりこの家に本棚は無いのか俺は辺りを見て探すことにした。

 隣の部屋の扉が開いている。

 ここからその部屋の一部は見えるが本棚は見えない。

 ただ、その部屋の中に机が置いてありその上に本が見える。


「ユーナ! お前! また、人様に嘘をついたのか!!」

「何よ? 何のこと?」

「自分が女神様とか言ったのか!? 罰が当たるようなことを言うんじゃないっ!」

「大丈夫です。私が女神なのですから罰など当たりません。さぁ、ジョン・クロウド、お客様を待たせるのではないのです。おもてなしをいたしなさい。」

「何を言ってんだ! お前は生まれた時から儂の娘だろうがっ!」


 2階から大きな声が聞こえる。

 なるほど、娘さんは中二病なのか。

 おじさん、大変だなぁ。


 まだ、言い合いが続いているが俺は気に留めることもなく、隣の部屋へ行ってみることにした。

 人様の家でじろじろと見るのはどうかと思いながらも部屋の中を見渡してみた。

 そこは机だけが置いてあり、他の家具は何もない部屋だった。

 机の上に置いてあるのは本ではなく、日記のようだ。

 おじさんの日記だろうか。

 当たり前だが、文字は全くわからない。

 見たことのない文字だ。


 気付かなかったが床の隅に地球儀のようなものがポツンと置いてある。

 その地球儀に描かれている大陸は俺の知っているものではなかった。

 ユーラシア大陸もアメリカ大陸も南極大陸もない。

 いや、六大陸三大洋ですらない。

 見慣れない形の三つの大陸と小さな島々が描かれている。

 この世界は海より随分と大陸が大きいようだ。

 地理の授業で教わった地球の大陸と海洋の比率どころではない。

 大陸名や国名も書かれているが、当然文字は読めない。


「いやいや、お恥ずかしいところを見せてしまったね」

「あ、おじさん。気にしないでください。それより、ここは地球儀ではどのあたりになるんですか?」

「ん? ああ、地理の勉強かい? 立派だねぇ。娘も見習ってほしいよ。ここはアルス大陸のノルド国領に当たるから、地球儀ではこの辺りだね」


 そういって、おじさんは北半球にある二番目に大きい大陸の西方に指をさした。

 ふむ、全く聞いたことない大陸名と国名が出てきた。

 これでこの世界は俺のいた世界ではないと証明出来たことになる。

 この大陸を元の世界に当てはめ考えると今の居場所は大体ヨーロッパの内陸国の辺りか。


「おじさん、変なことをお聞きしますが、この世界について詳しいですか?」

「ははは。本当に変なこと聞くねぇ。いいよ、何が聞きたいんだい?」

「えっと……人類の敵っているのですか?」


 もし、俺が召喚された理由が世界の救済などならこの質問は避けて通れない。


「ふむ、今は勇者歴187年だから、魔王はすでに復活しているはずだね。それにしても、今の勇者様は本当に凄腕だよ。こんなにも長く勇者歴が続いたのは過去に一度も無いからねぇ」


 ふむ……。

 意味が分からないが、魔王と勇者という存在はいるようだ。


「勇者歴ってどういうことですか?」

「勇者歴っていうのは勇者様が世界を統治している時代のことさ。約100年周期で勇者様と魔王様が争って、どちらかが支配する時代が来るはずなんだけどね。儂が子どものころに教えてもらった話ではほぼ100年周期で勇者歴と魔王歴が入れ替わっていたらしいね」

「では、今の勇者様って相当お強いんですね」

「そうだね。魔王を打倒した勇者様はすでに亡くなって、その孫が三代目勇者として今の世界を守って下さっているよ。一度、拝見してみたいもんだね」


 100年ごとに勇者と魔王が支配する世界か……

 というか、勇者いるじゃん。

 俺、いらなくね?

 なんで、召喚されたんだ?

 そこの疑問ばかり大きくなってくる。


「おじさん、勇者が守っている間は人類に良い影響を与えるとかですか?」

「何だい? 教会で学ばなかったのかね。そりゃそうだよ。魔王歴は人族が支配される時代で勇者歴は魔族が蹂躙される時代だからね。本当にこのまま勇者歴が続いてほしいものだよ」


 なるほど、今は俺たちにとっては安全な時代なのか。

 少しは安心できそうだ。


「ところでリュージくんはこの後どうするんだい? 日も暮れてきたし今夜はここに泊ってもいいよ」


 ああ、神だ。

 とても、あの女神(仮)の親父さんに思えない良い人だ。


「は、はいっ! お言葉に甘えさせていただきます」


 こうして俺の異世界生活1日目の夜は安全なこの家で過ごすことが出来た。

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