第2話 リュージ編2
俺はこいつを引き離そうとするが、金魚の糞のように付いて来やがる。
仕方無い。
適当に取り見繕って、チャンスが来たら全力で逃げよう。
「さぁ! リュージ行くわよ!」
すっかりご機嫌を直された女神様は張り切っていた。
と言うか、本当にこいつは女神なんだろうな?
とても女神のようには見えない。
ごく普通の少女にしか見えないのだが。
そういう訳で、こいつを女神(仮)とすることにした。
女神(仮)はどうやら冒険に出るのが目的らしい。
だが、巻き込まれた俺はというと勿論冒険などする気はない。
そもそも、何で俺が異世界に転移されたのか説明も無いまま命の危険を冒すほど、俺はお気楽思考では無いのだ。
いや、説明されても冒険などする気はない。
この女神(仮)が俺にチートみたいな能力をくれるなら多少は乗り気になれるかもしれないが、こいつは何も言ってこない。
チート能力があれば旅が楽になるのは、本物の女神なら十分理解しているだろう。
だが、こいつは何も言ってこない。
ただ、俺をパーティーにして冒険に行かせようとしているだけだ。
「いや、行かない。なんで俺が冒険しないといけないんだ?」
ここでハッキリと俺が召喚された理由と女神(仮)と共に冒険しなきゃならない理由を言ってもらう。
何も言わないなら俺は徹底的にこいつを無視して今晩のことを考えることにしよう。
手元にあるのはスマホと僅かな小銭だけだ。
いや、スマホも小銭も異世界なら無意味だろう。
実際にスマホは圏外になってるし。
「え? えぇと……そうだわ! リュージ、ステータスを見てみなさい!」
速攻、話を逸らしてきた。
しかし、ステータスか?
それは確かに面白そうだ。
「分かった。見てやるがその後に俺がここに呼ばれた理由と冒険をする理由を言って貰うからな。いいな? 絶対に言ってもらうぞ。それで、どうやって見るんだ?」
「なぁに? そんなことも分からないの? ぷっ!」
こいつぅ、笑いやがった。
そんなの知るわけもないだろう。
次、馬鹿にするような態度取ったらシメてやる!
「女神様! どうか、この無知な私にステータスの見方をお教えください!」
「もう、仕方無いわねぇ。」
ほんとチョロいなこいつ。
「ステータスって言えばいいのよ。」
「ふむ、ステータス!」
すると目の前に文字が浮かび上がってきた。
・氏名 神薙龍識 (かんなぎ りゅうじ)
・種族 ヒューマン
・レベル 1
・年齢 17
・職業 無職
・HP 20
・MP 20
・筋力 1
・体力 1
・知力 1
・精神力 1
・素早さ 1
思いっきり、初期ステータスじゃねぇか!
体力1って何だよ!
俺、これでも体育の成績は5段階中4なんだぜ!
知力だって、テストは平均点万歳だし。
職業も無職ってなんだよっ!
学生とかじゃ駄目なのか?
「ぷっ! 当たり前じゃないの。貴方はまだ、この世界の仕組みに囚われていないんだから」
「……どういうことだ?」
「まずはステータスを振り分けるためにポイントを稼がないとね」
なるほど、ステ振りか。
そのために冒険して、モンスターと戦って……。
うん、このHPならいきなり死亡もありえるな。
やめよう。
「さぁ、リュージ! 冒険に出るわよ!」
俺はこいつと反対側に歩いていった。
……。
「ちょっと待ちなさぁぁぁい!!!」
やっぱり、追いかけてきたか。
「リュージ! そっちはモンスターがうじゃうじゃいるのよ! バカなの? バカでしょ? いいえ、バカだわっ!!」
また、バカバカバカと……。
はいはい、そうですよ。
俺はこの世界知らないし。
それより腹が減ってきたな。
町はこの辺りに無いのだろうか。
下手にこいつに聞くと町まで付いてきそうだ。
辺りを見回して見ると小高い丘の上に一本の大木が立っている。
あそこなら辺りを見渡せそうだな。
俺は大木を登り、辺りを見渡してみた。
遠くに煙が昇っているのが見える。
しかし、あの煙が戦闘で出ているものなら近付くのは危険だよな。
仕方がない。
こいつに聞いてみるか。
「なあ、女神。あっちに見える煙は何の煙だ? そろそろ飯にしたいんだが」
「知らない。でも、安全よ」
知らないのにどうして安全って分かるんだよ。
まあいいや。
煙の立っているのが何か気になるし、戦闘中かも見える所まで進めば分かるだろう。
「ちょっと待ちなさぁぁぁい!!!」
はいはい、予想してましたよ。
「なんですか? 女神様? 俺、腹減ったんで食べ物くれるんですか?」
「貴方、マイペース過ぎよっ! 自己中なのっ! 自己中でしょ! いいえ、もう完全に自己中だわっ!」
マイペース=自己中心的だと勘違いしている愚かな女神様だ。
いや、女神(仮)か。
俺は自己中心的ではない。
他人を俺の思うように動かしていないからだ。
自己中心的というのは自分の思い通りに他人を動かそうとすることなのだ。
「あららぁ、女神様。自己中心的なのは貴女ではないですかぁ? プッ、クスクス」
全くもってその通りである。
こいつは俺の反対を無視して冒険に連れて行こうとしている。
それよりも、俺の承諾無しにこんな訳の分からない異世界に強制的に召喚した。
誘拐犯並みの悪党だ。
そうだ、誘拐だ!
俺の世界なら刑事裁判になっても可笑しくないレベルの事態だ。
そう思うと段々と腹が立ってきた。
召喚したこいつをシメてやりたいが、今は体力を温存するべきだ。
「では、女神様。ここで……」
「ちょっと待ちなさぁぁぁい!!!」
……もう聞き飽きたわ。
なんなの?
漫才ですか?
うちら、お笑いコンビですか?
いや、ちゃいますがな。
「私も付いて行くわ。さぁ、あの家を目指してしゅっぱーつ!」
仕方ない。
今は飯に有りつくことが……
ん?
家?
「おい! 女神! 今、家って言ったよな? あそこに見える煙はやはり家の煙突から出ている煙なのか?」
「何言ってるの? あそこは私の家よ!」
「なるほど……」
ん?
私の?
家?
女神様の家?
女神って普通は天国とか天界じゃないのか?
それとも、ここが天国なのか?
じゃあ、俺は転移じゃなくて死んだのか?
天国は転移で来れるものなのか?
アカン!
謎が益々増えていくばかりだ。
だが、こいつはおそらく詳しい説明はしないだろう。
隠すのはなぜだ?
いや、そもそも隠しているのか?
こいつも知らないとか……。
知らないってなんやねん!!!!
気になりすぎて思考が安定しない!
なんとか知る方法はないのか……。
例えば、こいつの家にこの世界のことについて書かれた本とかあれば……。
そんな都合の良いことは無いだろうが可能性が無い訳でもないよな。
「よしっ! 女神様! 是非、無知な私に女神様の神々しいお屋敷を拝見させていただけないでしょうか? 是非! 是非とも! 偉大なる女神様ぁ!」
「んもう! 仕方ないわねぇ! それじゃ、招待するわ! ついて来なさい!」
うん、チョロい。
そうして俺は女神(仮)の家に行くことになった。
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