しっかり覆うように包まれた手に、優しい魔力の流れを感じ、私は瞼を開けた。



「…殿下?もしかしてずっと…?」



「ああ。…せめて、私の魔力で体が少しでも楽になればいいと思ったのだが、」



余計な心配だったか…?



と、心配そうな表情かおをしながらも、

未だ握っている私の手を離す気配はない。



魔獣に襲われた傷も綺麗に治り、覚醒した反動で魔力封じの腕輪も破壊されている。


正に聖女然とした姿に変化した私の姿を見て、


殿下は眩しそうにを細めた。



心の奥底で、サンテナと話している間にも魔力が体に流れて来ていたのは気付いてはいた。



エリアナに奪われて、殆ど魔力が残っていなかった私に、

殿下はずっと自身の魔力を送り続けてくれていたようだった。






「そんな事はありません、とても体が楽になりました。」



ありがとうございます、と続ければ、殿下はホッとしたように微笑んだ。




「…ちょっと、待ちなさいよ!何であんたがその姿になるのよ!?」



この期に及んで、私に否定の言葉を浴びせ続けるエリアナ。



私には、どうして彼女がそんなに自分が聖女だと思い込めるのか解らない。


ただ聖女になりたいだけとは違う、異常な執着に何だか私はゾッとした。 



「……貴女はやり方を間違えたんだよ」



手を繋がれたまま、殿下に助けられて私はその場に立ち上がった。



「本当に聖女の力を使う事が出来るのなら、関係ない人達を苦しめる必要はなかった筈だよ。」



エリアナに聖女の魔力があるとは思えないけど。




「な!偽物が、判ったような事言うんじゃないわよ!!」



「…偽物、と、貴女は言うけれど、じゃあ貴女は?」



「バカにしてるの!?あたしは本物に決まってるじゃない!」



「……その本物の貴女は、他人の心を操って、陥れて。…………それが本当に聖女だと?」



「……あ、当たり前じゃない。あたしはヒロインなんだから!あたしの、ゲームの世界なんだから!」




ヒロイン、ゲームの世界。


やっぱりそんな風に考えていたのか。



だけど。


それよりも、さっきからエリアナを見ていて気になっている事があった。




「……ねえ。エリアナ?その姿は貴女の本当の姿かな?」



「っ、」



「私には、今の貴女に、穢れが纏わり付いて、違う姿が見えるよ?」



「な、何、バカな事………、大体、聖女であるあたしに穢れなんてあるわけないじゃない!」



「………本当に?………そう思うなら、足元を見てみなよ。」



「!?」




エリアナの立っている所は、地面に着いている足元から広範囲で草木が枯れており、


更に地面はエリアナから漏れ出でた穢れでどす黒く泥濘んでいる。




「それでも、穢れがないと?」



「…五月蝿いわね!あたしは聖女なんだから、こんな穢れ位、一瞬で浄化してやるわよ!!」



言いながら、エリアナは穢れを浄化しようと魔力を込めた。



ピカッと軽い光が照らされたが、それはすぐに収まり、元の静寂が訪れる。



エリアナに視線を戻すも、どうやら浄化出来ていないようだ。



「どうして!?何で浄化出来ないのよ!?」



「今、貴女が使った魔法は、只の光魔法だからだよ。」



「そんなわけないわ!あたしはちゃんと聖魔法使ったわよ!!」



「……それは、貴女がそう思い込んでいるだけだよ。」



「嘘ばっかりつくんじゃないわよ!……前に森に現れた魔獣を浄化したことだってあるんだから!」



「なら、何で浄化出来ていないの?それに、聖女なら、穢れているのはおかしいよね?」



「ちょ、ちょっと今は調子が悪いだけよ…」



「………」



ちょっと調子が悪い、というので済ませられるレベルの穢れではないのに、


エリアナは何も判っていないのだろうか。



私の聖女としてのから見るに、エリアナから漏れ出でている穢れは、


一朝一夕のような最近のモノではなく、どうやらかなりの年月から前に、彼女の中にずっとあったモノのようだ。



おそらく、穢れがおもてに現れた事で、エリアナの別の姿が見え出した…


要するに、元の姿は別にあり、今のピンクゴールドの髪の愛らしい姿は穢れにより造られた物………という事だ。



穢れが、こんな可愛らしい姿を模せるなど可笑しな話ではあるが。




「とにかく、貴女が浄化出来ないのであれば、私が代わりに浄化する。……その状態の貴女は害でしかないよ」



「何……、勝手なことしないでよ!」



「……あぁ、そうだ。浄化したら、貴女の姿もきっと元に戻るから安心して?」



「!!」



私の言葉に驚愕し、エリアナは焦りを見せる。



「ま、待って!穢れはあたしが自分で浄化するから!」



「……いつ?」



「そ…、それは、」



「今じゃなきゃ、駄目なんだよ。貴女の周りを見ればわかるでしょ?」



エリアナの周辺は先程と何も変わらない、穢れに侵されたまま。



「…っ、」



歯を食い縛り、恨みがましく私を睨む。







「……エリアナ、貴女が魅了を使いすぎなければ…、いや、使わなければ、そのままの、キレイな姿のままでいれたんだよ。」



私の言葉は彼女に聞こえてはいないだろう。







◇◇◇





__エリアスside




ユリーナの聖魔法が森全体を覆う。


それは森だけでなく、森を通り越し、王城のある王都や市井をも広がり、


国中に眩い光が包み込んだ。




エリアナの事だけでなく、


森にいる魔獣も、エリアナの魔法に掛かったままのキリク殿も、


彼女は全てを浄化するつもりで全力で力を解放させたのだろう。 



暫くして光が収束し、魔獣は消え、森は緑豊かに生命の息吹きが此処彼処から聞こえ、


穏やかな空気が流れている。





これできっとエリアナの穢れも浄化されただろう。



そう思ってエリアナの立っているであろう場所へと視線を向けた。






「…………誰だ?」



思わず呟いた私の言葉に、浄化をしている間も、彼女を離すまいとずっと支えていたユリーナが苦笑いした。



姿を見れば、誰でも疑問に思う筈だ。



何故なら、其処に居たのは、今まで1度も見たことのない人物だったのだから。








◇◇◇





辺りが落ち着いてすぐ、真横でわたしの腰を支えていた殿下の呟きに、


まあ、そうだよね。


と思うしかなかった。実際、私も見たことなかった姿で、



だけど、彼女の本来の姿は前世を懐かしく思わせるにも十分でもあった。



肩まであるストレートの黒髪に、黒目。


そして日本人特有の薄い造形の顔。




ついさっきまでは、いや、サンテナに会うまでは、私もエリアナは転生者だと思っていた。


だが違った。



『ユリーナ、エリアナは、巻き込まれてしまったんだよ』



サンテナはエリアナの事をそう言った。



そうか、転生者、ではなく。





____転移者だったのだ。





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