5 エリアスside④
「エリアスさま~、お願いがあるんですう~」
こうして媚をうられるのは以前と同じ。
隙あらば寄ってくる彼女を鬱陶しく感じながらも、
あまり彼女に対して無下にするのは危険だと思い、
顔が引き攣りそうになるのを無表情になることで誤魔化す。
◇◇◇◇
暫く学園は何事もなく過ぎていったが、そのうちにアンカー嬢が呪いの魔法に掛けられている事に気付いた。
私に掛けられていたような強力なものではない事に安堵したものの、
今後、いつ強力に掛けられてしまうかわからない。
アンカー公爵とも話をし、宮廷魔術師に抵抗魔法を掛けてもらい、魔道具を渡す事で当分の間は妥協してもらった。
本当なら直ぐにでも解呪させたいが、エリアナの背後関係が完全に把握しきれていない。
アンカー公爵も、宰相というだけあってその辺りはわかってもらえたようで、申し訳なくも有り難かった。
その頃からだろうか、エリアナがユリーナに対し、以前のように絡みだしたのは。
やはり婚約者を作らずともこうなるのか……
と思うものの、なんだかエリアナのユリーナを見る目は嫉妬だけではない気がする。
一体何を考えてる?
結局エリアナの目的がわからないまま、私は最悪の瞬間を目にすることになってしまった。
目の前でユリーナが倒れていく。
頭の中の
どうして。このタイミングで!?
アンカー嬢の時もそうだが、魔法を掛けられる時期が早すぎる。
また私は彼女を助けられずに終わるのか……?
慌てて彼女に駆け寄り、ユリーナが地面にぶつかる直前で彼女を抱き抱えるように受け止める。
以前と違うのは、血を吐いていないこと。
確認したところ、浅くはあるがちゃんと呼吸はしているようだった。
どうやら意識を失っているだけのようで、彼女がこうして生きている事に安堵する。
そのまま彼女を抱き上げ、医務室へと運び、
この医務室の常勤医にフェリス公爵家への連絡と、
宮廷魔術師を呼ぶように告げる。
彼女をベッドに寝かせ、青白い頬を優しく撫でる。
ユリーナが最近体調が悪そうにしているのは気付いていた。
だがここで彼女に接触することにより、エリアナがどんな行動に出るか分からず、何もできずにいた。
その結果がこれだ。
せめて魔道具だけでも渡していれば……
後悔ばかりが私を苛む。
後で宮廷魔術師に抵抗魔法を掛けさせるが、それだけでは心配なので自分からもユリーナに魔法を掛ける。
その後、医務室に一緒に着いてきていたアンカー嬢と入れ替わりに宮廷魔術師が入ってくる。
「殿下、魔道具はこちらで宜しかったですか?」
「あぁ、ありがとう。助かる」
魔術師に持って来てもらったのは、
ネックレスを模した、深い碧色の魔石を埋め込んだ魔道具。
この時の為にと、私は自分の瞳の色をした魔石を魔術師に渡し、抵抗魔法付与の魔道具を作らせていたのだ。
この国は、己の瞳の色を含めた贈り物をすることにより、相手に気持ちを伝える風習がある。
現時点、気持ちを彼女に直接伝える事が出来ない私にとって、
狡いかもしれないが、これで少しでも彼女に私の気持ちが伝わればいいと……
だが、結局は私が自分で彼女に渡す事はせず、迎えに来たキリク令息に渡してしまったから、
きっと彼女は全く気付いていないのだろう。
キリク令息は、おそらく私の思惑に気付いている。
魔道具を手渡した時のキリク令息の顔がそれを物語っていた。
◇◇◇◇
それから幾日も経たないうちに、新たな問題が発生する。
東の森で魔獣が暴れているという。
おかしい。現状では、魔獣が現れる兆しはなかった筈だ。
後の報告で、エリアナが魔獣を浄化したと聞き、信じられなかった。
聖女はユリーナであって、決してエリアナではないはずだ。
だが、目撃者も多数いるということは、全くの嘘とも言えないだろう。
これを父上はどう判断するのか……
私は直ぐに王城へと戻り、父上に確認を取りに行くことにした。
◇◇◇◇
「父上!どういうことですか!!」
国王の執務室で、私は父上に詰めよっていた。
王城に戻った私にもたらされた話は、エリアナが私の婚約者になったということだった。
それはつまり。エリアナが聖女と肯定する事と同義ではないのか。
「何だ、エリアス。今頃そんな事を言いに来たのか?」
「そんな事とは何ですか!彼女が聖女かどうかは、私の監査の結果で判断するのではなかったのですか!?」
「あぁ、そのつもりだった。だが、お前の監査が終わる前に事が転じてしまった。目撃者も多いとなれば、仕方あるまい」
「……私は、彼女が聖女だと、認めません。私の婚約者も同様です。」
「まあ、そう慌てるな。お前の婚約者に、というのは建前だ。」
「建前?」
「そうだ。どうやら、あの者の背後はかなりキナ臭いようだからな。」
「…成る程、理解しました。」
「今後、監視の意味も含め、王城に住まわせ、同時に王太子妃教育も受けさせる」
「王城に住まわせるのはわかりますが、教育もですか?」
「一応、表向きは王太子であるお前の婚約者となっているのだ。疑惑を持たれない為には必要だろう」
監査はそのまま続けるように。
父上の一言を最後に執務室から退室した私は、時を遡る前とはかなり変わってしまっている流れに、
どうすればいいのか、不安が溢れるようだった。
父上に言われるまでもなく、監査は辞めるつもりはない。
とりあえず、父上もエリアナの事は信用していない。その事だけは救いだ。
エリアナが王太子妃教育を受けることにより、学園を休学することになって、
これで暫くはユリーナに危害を加える事はないだろう。
つかの間の平和かもしれない。
王城に戻ればエリアナの癇癪に付き合わされるが、
それでも、エリアナの居ない学園は楽しくも感じられた。
そんな平和な学園生活もあっと言う間に過ぎ、私達は学年が上がった。
本来なら、休学していたエリアナは単位と出席日数が足りず、留年するはずのところを、
王太子妃教育の一環で学業も1学年は終えているということで免除された。
実際のところ、彼女は勉強は身に入って居ないようだが、
父上によれば監視の為にはそれも関係ないらしい。
どちらにしろ、私はエリアナを無事卒業させるつもりなどない。
続けていたエリアナの監査も、あと一歩の所まで来ている。
そう、私は油断していたのだろう。
暫くは私は呪いに掛かる事がなかったから、という事もある。
エリアナと王城の一室で話している時に、それは突然起こった。
数年前と同じ、いや、それ以上の激痛が頭を襲った。
そして、
゛自分が尤も愛する者はエリアナ。
エリアナは聖女。ユリーナはエリアナとエリアスを引き裂く、害する最悪である〝
「…っく、ふざ、けるな……っ!」
私は目の前にいるエリアナを睨み付け、抵抗魔法を展開させた。
だが……
「……ぐ、あ゛あ゛あ゛っ!!」
抵抗魔法が効かない。
私は兄上に言われてから、魔法に研鑽を重ね、毎日鍛練を欠かさないようにしてきた。
だから能力は大分上がっているだろうと思っていた。
だというのに、よほどエリアナの掛ける呪力が強いのか、
己の魔法が意味をなさないでいる。
操られてたまるか……!!
そう思いながらも、あまりの激痛に悲鳴を上げた私の体は限界で、
意識が段々と遠退いて行くのが自分でもわかる。
倒れる瞬間、エリアナの後ろに見たことのない怪しげな風貌の男を目に留め、私は意識を手放した。
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