2 エリアスside①
「エリアス、お前は知っているか?我々王族には、魔王の血が流れているんだ。」
「魔王の血……?」
幼い頃、王弟のサディアスに、王城にある図書館でよく本を読んでもらっていた。
王弟にしては王太子の自分と年が近い程に若いサディアスとは、
勉強するときも、鍛練する時も一緒で、まるで兄弟のように育った。
実際、サディアスは自分とは一つしか違わない筈なのに、
既に大人のような貫禄があり、全てにおいて見本のような完璧さが感じられ、
彼に対して、憧れと共に本当の兄のように慕うようになったのは必然的だったのだろう。
その彼を自然と兄と呼ぶようになるほどに。
何時だったか、サディアスが王城の図書館である蔵書を見つけ、
それをパラパラと捲っていた時に言われたのがそんな言葉だったのだ。
サディアスが手にしているのはこの国の建国記が書かれた本。
王太子としての教育の一環で、確かにその話は習った事がある。
勿論、王族なのだからサディアスも習ったのだろう。
だが、サディアスが言いたいのはもっと違う事のようだった。
「魔王には、時を遡る力があったそうだ。」
「……それは、歴史を…いや、過去に戻ると言うことですか?」
「その通り。そして、その力は我々王族の血に受け継がれている。」
「…まさか!?ですが、そんなこと、習っていませんし、誰にも聞いた事はありませんよ?!」
「それはそうだろう。そんな事が王族以外に知られたりすれば、大変な事になる。」
時を遡る事など、普通に考えてとんでもない話だ。
しかもそれが己の意思で自由に遡れるのだから、歴史が変わる所の話ではない。
民に知られれば、パニックに陥るのは間違いないだろう。
「だが、これは、今の王族に他に知っている者はおそらくいないだろう。
魔王自身が伝える事をしなかったからな。」
「……なら。何故兄上は知っているのですか。」
「…………さてな。」
兄上はニヤリと笑うだけでそれ以上は何も言わない。
こうなった兄上が口を割らないのはわかっている。
何時かは話して貰えるだろうか……
「エリアス。お前も、俺も、その力を使う事ができる。ただし、」
兄上は一旦言葉を切ると、私の右肩を強く掴み、至近距離まで顔を近付け、凄むように言葉を紡ぐ。
「力を使えるのは1度だけだ。」
それだけ魔力を消費するということらしい。
「使い方は俺が教えてやろう。」
使い所は間違えるなよ。
まるで幼子を宥めるかのように、兄上にポンと頭を叩かれる。
子供扱いされても兄上に敵わないと思ってしまう辺り、自分はまだまだなのだろう。
◇◇◇
歳を重ねる毎に、いつの間にかその力の存在自体を忘れてしまい、
そのまま
私は何の問題もなく過ごし、月日が立っていった。
そして、年頃になると、
将来の人脈を作る一環で、兄上が私より一年早く学園入りし、
その翌年、私も入学した。
己の婚約者、ウェルミナ・アンカー嬢とも同じクラスになる。
ただ、私は父上から入学する際に、同時に密命が下されたのだ。
同じクラスに入る、平民からの奨学生――エリアナ嬢の監査を___
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