「殿下、エリアナの処罰の件、ありがとうございました」



「いや、私も同じ考えだったから、どちらにせよ進言するつもりではいたんだ。」



「…え?そうだったのですか?」



「あぁ。

私達は散々苦しめられたというのに、


何の苦しみもなくあっさり死なれては、折角の処罰も意味がないと思わないか?」



苦しんで、苦しんで。…それで死ぬ方が、少しは溜飲が下がるだろう?



そう言って殿下はふっと微笑んだ。








◇◇◇








「…一つ確認なんだが、ユリーナ嬢。君は聖女に覚醒した、真の聖女という事で間違いないか?」



私は殿下の言葉に瞬いた。


今の私の容姿もそうだが、あの森で殿下は私が聖属性魔法ちからを使った所を見ている筈。



もう私が聖女だという事は気付いているのは間違いないのに、


態々私に確認するのは何故なのか。


もしこのまま私が否定したらどうなるんだろう?


そうは思っても、目撃者は他にもいるし、髪の色で既に私が聖女という事実は広がっているのだろう。



結局は認めるしかない。



「私が聖女で間違いありません。」



「……そうか、わかった。」


私が肯定すると、殿下は何故か苦しそうな顔をした。



「とりあえず、君は、今後聖女として立ち位置が変わってくるだろう。

詳しい取り決めが決まり次第、追って知らせよう。

それまで療養していて欲しい。」



「…わかりました。」


「そんな顔するな、大丈夫…悪い様にはならないよう、取り計らうつもりだ。」



そんなに顔に出ていたのだろうか。


恥ずかしい……



そっと隣に立っているお兄様を見ると、何故か険しい顔をしていた。



お兄様も、私と同じ事を考えているのかもしれない。


これから私に降りかかるだろう、聖女として、王家へのしがらみが___。













____________________




それから数日後、王宮からお達しがあり、



お兄様に付き添いをお願いしてもらい、王宮へ登城した。






「よくぞ来たな、当代の聖女よ。」



陛下の言葉に私は完璧なカーテシーをする。



「…ほお?素晴らしい所作だ。流石はフェリス公爵家といったところか。

は毎日教え込んでも全く身に付かなかったというのにな。」




「……お褒め頂き有り難く存じます。」



一瞬、陛下が誰の事を言っているのかと思ったが、きっとエリアナのことだろう。



毎日教えられてもできないなんて、相当なことだなと思う。


それか、最初から覚える気もなかったのか。



エリアナのことだから、もしかしたらそれもあり得るかもしれない。


聖女ということに胡座をかいて、何をしても許されるとでも考えていたとか。








それはともかく、陛下は言葉では感心しているが、その眼は笑っていない。



殿下と同じ、感情に乏しいのかと思ったが、そういえばエリアナの審議のときに大笑いしていたのを思い出した。



今思えばあれは本気で笑っていたのだと思う。


だからこそ、意外で、驚いたのだ。




「__して、そなたの今後についてだが……。」




私はごくりと唾を呑み込んだ。




「………そなたは、聖女として、魔獣等の有事の際に王家へ尽くしてくれるだけでよい。」



「……………」

え?



私は思わず目が点になり、無言になってしまった。



「………あの、それだけでしょうか?」



絶対、何かしら面倒な事になると思っていただけに、

拍子抜けだった。



てっきり、エリアナじゃないけど、


王家の、エリアス殿下かサディアス殿下の婚約者~とか言われるのかと……



聖女はそれくらい王家にとって重要な存在なわけで。



なのに……


婚約者のこの字も出なければ、王家に囲われる訳でもない。



「それだけでは不満か?」



「いいえ!とんでもございません。…では、拝命致しました。」



ふと、陛下の斜め前にいた殿下をみれば、ニッコリ笑って頷いていた。



なるほど、殿下の有言実行だったということですね。





「それでは頼んだぞ。___以上だ。」



そして、また私はカーテシーをし、謁見の間を辞した。











____________________




「お兄様、お待たせしました。」




謁見の間には入れなかったお兄様が、扉の前で待っていてくれていた。




「ユリーナ、難儀なことを言われはしなかったかい?」



謁見の間の扉は重圧で、中の声は聞こえないようになっている。




お兄様もやはり心配だったのだと思う。




「大丈夫でした。」



私はお兄様を安心させるように微笑んだ。


心からの笑みだとわかってくれたのか、お兄様も力が抜けて、ホッとしたようだった。



「………ユリーナ、帰ったら話したい事があるんだ。」


聞いてくれるかい?



そう言うお兄様の表情かおはとても真剣で、

紫水晶のように輝く瞳が私を熱く射抜いていた。




「…………はい。」



私は自分の頬が赤くなるのを自覚しながら、短く返事をする。



そんな私を、お兄様は柔らかく包み込むように微笑んだ。







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