「アンカー宰相、被告人_エリアナの罪状を述べよ」



王宮の謁見の間の中央で、エリアナが魔法で体を拘束されたまま両脇を衛兵に挟まれ、

無理やり頭を押さえ込まれ、跪かされている。



周りには名高い貴族の面々が並んでおり、其処にはお父様とお母様、

そしてウェルミナもエリアナに深く関わった被害者ということで一緒に参列していた。



陛下の斜め左前にはお兄様と私が。


その反対の右側にはエリアス殿下とサディアス殿下が立っている。



エリアナの正面には小高い玉座があり、国王陛下がエリアナを見下ろしていた。



陛下はエリアナを感情のない目で一瞥すると、そのままエリアナの隣に控えていたアンカー公爵へと視線をずらし、言葉を紡いだのだった。




「それでは罪状を読み上げます。」



宰相であるウェルミナの父、アンカー公爵はエリアナの罪が記されている罪状紙を広げた。



「こ、国王さま!待ってください!あたしは悪くないんです!!」



この期に及んで未だに罪を認めないエリアナ、


そもそも陛下はエリアナに発言を許していないのにも関わらず、アンカー公爵の言葉を遮った。



アンカー公爵の、「無礼者!!」という言葉に一瞬噤んだが、すぐに だって、だってと独り言を繰り返している。



浅ましいと言える程の老婆姿で子供のように駄々を捏ねる様子は見るに堪えない。



周りの貴族もそんなエリアナを見て、目を顰めながらヒソヒソ罵詈雑言を並べたてている。



陛下を見れば無表情のまま。何を考えているのか読む事はできなかった。…だが。




「……よい、話してみよ。」



陛下の言葉で場は静寂を取り戻した。



「国王さま!あたしは、あの女、ユリーナに全てを奪われたんです!!」



エリアナは叫び、私に向かって指を指した。



「……っ、」



私も陛下からの発言許可は出ていない。


直ぐにでも反論したくなるのを堪え、掌を固く握りしめた。


「…ユリーナ、大丈夫だよ」


血が滲む程に握り締めていた右手を、お兄様が優しく包み込み、労るように微笑んでくれた。




「全てを奪われたとは?」


そんな中で陛下の質疑応答が続く。



「あの女は、あたしが聖女なのを妬み、力を、その姿を奪ったんです!」



「…ほぉ?」



「ひっ!!?」



感心しているかのような返事をした陛下は、だがその眼を冷徹に変化させエリアナを射抜いた。



「……ユリーナ・フェリス公爵令嬢、発言を許可する。

この者の言っていることは真か?」



陛下の視線が私の方に向き、私は恐怖で震えてしまう。


そんな私を、お兄様があやすように背中をポンポン優しく叩いてくれる。


お兄様にお礼をいいながら、私は己を奮い立たせた。



「彼女の言葉は嘘です。そもそも、彼女が聖女という前提が間違っています。」



エリアナは最初から聖女ではなかった。


ただ光魔法が使えたというだけの、普通の人と変わらない。



「ならば、そなたが聖女だと申すのか?」



一度王家はエリアナによって聖女詐称をされている。


暗に陛下はお前も同じことをするのだろうと言っているのだ。



何故、何もしていないのにこんなに疑われなければならないのか。



「陛下、発言の許可を。」



どう返事をしようか考えていたら、エリアス殿下が助け舟をだしてくれた。



「そこの彼女を…エリアナを聖女と認定したのは陛下ではありませんか?だと言うのに……大した慧眼ですね。」



自分で認めておいて、違っていたら騙したエリアナが悪いのだと、己の否を認めない。


さらに、私も王家を偽るのだろうと冤罪をかけようとするなんて……



そんな私の思いを殿下は代わりに言ってくれた。



言ってくれたのは嬉しいけど、陛下に対してそんなにして大丈夫なのだろうか?



ハラハラして殿下を見ると、殿下は大丈夫だと力強く頷いていた。






































「……ックク、ハハハハハ!」



暫く黙っていたかと思ったら、いきなり陛下が笑い出したのでびっくりした。



「ハ、ハァ…そう怒るな、エリアス。ちょっとしたジョークだろうが。ユリーナ嬢、すまなかったな。」



「……い、いいえ。」



まさかの展開にそう返事をするだけで精一杯だった。



「だいたい、エリアス。お前がその者の監査の結果が遅かったせいだろうが。」



「私のせいにしないで下さい。最終決定は陛下でしょう」



「そうは言うがな、儂はそこの者を聖女に認めた覚えはないぞ。」




「「え!?」」



思わず私とエリアナの声が被ってしまったのは仕方ないと思う。



聖女に認定したからエリアス殿下の婚約者になったのではなかったのか。



そう思ったのはやはり私だけではなく……



「国王さま、あ、あたしを聖女だと、認めて下さったんじゃ……だって、エリアスさまの婚約者にって……」




「あぁ、それはそなたを泳がせる為の嘘だ。」



「そんな、だって、王妃教育だって……」



「そこまですればそなたを油断させるだろうとな。まあ、せっかくの教育も身に付かなかったようだが。」


陛下はククッと馬鹿にしたようにエリアナを嗤う。



「そなたは聖女と言うには素行が悪すぎる。

それに、そなたが浄化させたという魔獣も…本当かどうか怪しいものだ。」



「なっ!?」



「森に現れた魔獣、昨日の事も含め、そなたに都合が良すぎではないか?」



「うっ、ちがっ、」



「王家を嘗めるな」




陛下の一言で遂にエリアナは陥落した。






「……では。罪状を読み上げます、」




落ち着いた所でアンカー公爵がつらつらとエリアナの罪状を述べる。



聖女詐称。


エリアス殿下や、ウェルミナ、私達フェリス公爵家を呪術で貶めた罪。


王家を謀り、エリアス王太子殿下を呪った事への王家反逆罪。



そして、故意に魔獣を操り街を混乱させた罪。



ここまで罪状があると、処刑になってもおかしくないだろう。



でも。私はそんな一瞬で苦しみから解放されるような処罰は納得出来なかった。


殿下は、そんな私の思いを汲み取ってくれたのか、陛下に掛け合ってくれた。







そして、エリアナの判決が決まった。



エリアナの見た目こそ老婆だが、人としての寿命は変わっていないこと。

また、体力も体質も若いままなのだと言うことを私が進言した事で、



国外追放。隣国の娼婦奴隷に落とされることに決まった。


この世界に奴隷制度があった事にも驚いたが、しかも娼婦奴隷などという、えげつなさ。



娼婦奴隷は、普通の娼婦のように店で客をとり相手をする事は同じだが、



身請けは幾らお金を積まれても一生できない事になっている。


自死もできないように奴隷魔術に含まれている。



つまり、寿命か体の状況で死ぬまで娼婦奴隷として生きるしかない。



老婆の姿のエリアナがお客を取れるのかと聞いたら、


どうやらそちらの趣味があるヤバい貴族が居るらしい。



ちょっと信じられないけど、世の中色んな人がいるんだなと思った。





本当は、エリアナもに振り回された被害者のようなものだと私は思っている。



だから、エリアナが少しでも反省しているなら、もう少し処罰を軽くしてあげたいと思っていた。



でも、エリアナは最後まで認めなかった。







「あたしは…聖女。聖女なのよ。…ヒロインなのよ……!

いや、いやああああ!!」



衛兵に連れて行かれながら、叫んでいるエリアナを見て、


彼女が反省する日は来る気がしない。 



あそこまで頑なだと、いっそ可哀想に見えてしまう。







「閉廷する。」



エリアナがいなくなり、謁見の間に静寂が訪れ、


陛下が退室すると、皆、次々謁見の間から退室していった。




私はお兄様のエスコートで腰を抱かれながら、殿下に挨拶すべく歩きだした___











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