27
あのあと、屋上で泣きすぎたせいか私の顔は悲惨なことになってしまった。
サディアス王弟殿下はそんな私を気にして、今はもう授業もない時間だし、後は生徒会だけだろうからと、
グランツアー先生に報告して、今日は帰った方がいいと心配してもらったが、
私はこのまま帰ったら、きっと明日はもっと辛くなると思い、
己を奮い立たせて教室へと戻った。
恐る恐る教室へ入る。
すると、皆の視線が私に向けられ、ひそひそと声が聞こえた。
よく
私はまた泣きそうになる気持ちをぐっと堪え、荷物を纏めるために自分の机に向かう。
そのまま鞄を持って教室を出る。
「ユリーナ!」
「…ウェルミナ?」
「貴女、どうしてあんなことしたの?彼女が貴女に
「………え?」
私はウェルミナの言葉が信じられなかった。
私の事への疑惑はともかく、エリアナさんのやった事を覚えていない…?
「ウェルミナ、何を言ってるの…?」
「ユリーナ、いくら貴女がエリアナさんを嫌いだからって、あれはやり過ぎよ。後でちゃんと謝りましょう?」
「…!だから、私はやってない!ウェルミナ、信じてよ!」
「まだ認めないの?」
「っ、」
ウェルミナの私に向けられた目が、私を責めているのがわかる。
「…ねぇ、ウェルミナ?ウェルミナは忘れてしまったの?エリアナさんにされた事を。」
「……エリアナさんに?」
「そうだよ…私も、殿下もそう。私達は彼女の被害者でしょう?」
思い出してよ!と、ウェルミナの肩を掴んで私は彼女に詰める。
「…っ、殿下…?ユリー…ナ?っっう、」
「ウェルミナ!?」
ウェルミナが急に頭を押さえながら苦しみだし、そのまま倒れてしまった。
「誰か!誰か助けて下さい!ウェルミナが!」
助けを呼ぶも、今私達がいる所は自分たちのクラスからも離れていて、放課後ということもあり
周りには誰も居なかった。
とにかく、ウェルミナを医務室まで運ばなければ。
そう思い、何とかウェルミナを自分の背中で支えるように持ち上げ、
医務室へと向かった。
幸い、医務室は生徒会室のある場所と同じ通りにある。方向は同じだからこのまま進めばそんなに遠くない。
やっとの事で医務室に着くと、常勤医はちょうど出ているのか誰も居なかった。
どうしようかと考えるも、とりあえずウェルミナをベッドに寝かせ、
私はベッド横の椅子に座った。
「…ウェルミナ…」
「…うぅ、」
今もまだウェルミナはつらそうにしている。
黒い靄は見えないが、やはりこれは呪いなのだろうか。
エリアナさんは、聖女になって、殿下の婚約者にもなったのに、
それだけでは足りなかったのか。
今の私にはきっと光魔法は殆ど残っていないだろう。
それでも、ウェルミナが苦しんでいるのが見ていられなくて、
彼女の右手を両手で包み、昔のように祈った。
強く、強く願う。
どうか、どうか、ウェルミナが治りますように___。
「__ユリーナ嬢。」
「…グランツアー先生…」
何時からそこにいたのだろう。ずっと祈りを込めていたせいか、
私は先生に声をかけられるまで全く気が付かなかった。
「大丈夫かい?」
「はい、多分。ウェルミナはきっと落ち着いたと思います。」
ウェルミナの顔を見ると穏やかな表情に戻っていて、今は規則正しい寝息が聞こえてくる。
私の祈りが通じたのだろうか。とりあえず良かったと思っていると、
先生がそうじゃない、と首を振った。
「いや、彼女の事もそうだけど、私が言っているのは君の事だよ、ユリーナ嬢。」
「…私?ですか?」
「なんだ。自覚ないのかな?君も倒れそうな
何かあったんだろう?そう聞いてくる先生の声は優しい。
そうだった、この先生は基本優しい人だった。
だけど、だからと先生に話す気にはならなかった。
話す事で先生を巻き込み、先生までも呪いに掛けられでもしたら、それこそ迷惑をかけたどころじゃ済まなくなる。
「…まあ、話したくないならそれでも構わないよ。」
愚痴位は聞いてあげるから。そう言うと先生は柔らかく笑った。
「そういえば、先生はどうしてここに?」
「あぁ、ケインとフレイが、君たちや殿下が来ないから心配していてね。」
そうだ、自分達は生徒会室へ行く途中だったということを思い出した。
でも…あれ?
「私達はともかく、殿下もですか?」
「聞いた所によると、どうやら殿下も急に具合が悪くなったらしくて、そのまま帰ったらしい」
「え!?それは…大丈夫なんですか?」
「とりあえずは問題ないみたいだよ、一応王宮医に見てもらうからと、王宮には戻っていったようだから」
付き添いでここの常勤医が着いていったんだよ。
という先生の言葉に、だから誰も居なかったのかと納得する。
殿下…もしかして殿下もウェルミナと同じ症状に…?
だとしても。今の自分には何も出来ない。
今日はもう生徒会の方は休みにしたから、お帰り。
と先生は言う。
先生にウェルミナの事を頼み、アンカー公爵家へと連絡してもらい、
私は自分の無力さに歯がゆく思いながら帰路に着いた。
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