25
その日は朝からおかしかった。
「おはようございます………?」
何時ものように挨拶しながら教室へ入ると、
クラスメイトの皆の様子が何時もと違っていた。
私が来たのがわかると、みんなの視線が一斉に集まる。
つい先程まで話していた子達も話すのをやめて振り返った。
「……?」
一応、おはよう、と返事は返ってくるものの、
皆の私を見る目が、なんだか、責められているようで居心地が悪かった。
何かあったのかなと、親友のアマリアに話を聞こうと思ったものの、
そういえば今日は家の都合で休みだと言っていたのを思い出す。
じゃあウェルミナに…と彼女の方を見ると、ウェルミナはクラスメイトと楽しそうに話していた。
話しかけたいけど…さっきの皆の視線が何だか怖くて…
もしかしてウェルミナも、私が気づかなかっただけで同じように私を見ていたのだろうか?
そう思ったら声を出すことすら出来なくなってしまった。
そのままホームルームの時間になり、先生が入ってくる。
すると、ちょうどその後に
すみませ~ん、遅れました~、と間延びした声が聞こえたと思ったら、
後ろの扉からエリアナさんと殿下が一緒に入って来た。
エリアナさんがおはようございます~と言うと、
皆が口々におはよう!と返しているのを見て、
私は、まさか、どうしてと思わずにはいられなかった。
ウェルミナまでも
皆からは前に見たような黒い靄は見えない。
ならこれはきっと何かの間違いで、また直ぐに皆元にもどるよね…
不安が残りながらも、そのまま授業は滞りなく進んでいき、
休憩時間になるとウェルミナや皆が普通に話し掛けてきたから、
やっぱり朝の事は気のせいだったんだと、安心してしまった。
「ひどお~い!あたしの教科書がぼろぼろにされてる~!」
休憩中、トイレにと席を立ち、また教室へと戻ると、
エリアナさんが泣きながらぼろぼろになった教科書を
殿下に見せていた。
「あ~!ユリーナさま、どうしてこんな事するんですか~!そんなにあたしが嫌いなんですか~!?」
私が戻って来たのに気が付いたエリアナさんが私に詰め寄ってきた。
「…私は知りません。」
私はまたか…と思いながらも否定の言葉を出すが、
周りの状況に気付き身体が一気に冷えていった。
だが黒い靄は見えない。エリアナさんの呪いではないの?
一体どうして…と思っている間にも、エリアナさんは殿下に泣きついて
ユリーナさまが、ひどい~と繰り返している。
彼女が嘘泣きなのは自分でも気付いている。
だから殿下もわかっている筈だ…と思って殿下を見た私は硬直した。
殿下の私を見る
まるで汚い物でも見るかのような表情に私は恐怖した。
殿下は私に何も言う事はなかったが、その冷たい碧色の瞳を向けられているのが辛くて、私はその場を逃げ出したくなった。
「ユリーナ。いくらなんでもやり過ぎよ。彼女に謝ったほうがいいわよ。」
「……ウェ…ルミナ………?」
後退りした私の肩に手を置いて、ウェルミナが声をかける。
言葉は優しいのに、彼女の瞳は殿下と同様冷えきっていた。
ウェルミナまで…そんな、何かの間違いだ…
そう思ってエリアナさんに視線を移すと、彼女はにやりと気持ち悪い笑みを浮かべていた。
殿下も、周りの皆も、ウェルミナさえも私を憎しみこもった目で見ている。
「っっ!!私は何もやってない!!」
皆の視線に耐えきれなくなった私は、このまま教室にいることも辛くて、
そのまま逃げるように教室を飛び出した。
どうして?私は何もやってない。
呪いじゃないの?
殿下や、ウェルミナは?
昨日までは皆普通だった。
帰るときも、また明日ね~と仲良く手を振ったのを覚えている。
こんなのは何かの間違いだ。
そうだ、また私は夢を見ているんだ。
そうに違いない。
早く、早く!目を覚まして!ユリーナ!
自分でそう言い聞かせながら廊下を走る足は止まらない。
どれくらい走っていたのか、
気がついたら来たことのない所にいた。
窓の外を見ると、さっきまでいた自分のクラスが見える。
ああ、そうか。
どうやら私は3学年の校舎まで来てしまっていたらしい。
これからどうしようか。
今教室に戻っても、きっと何も変わらない。
またあの目で責められるだけだろう。
窓の外は私の心とは裏腹に、とても天気が良く、雲ひとつなかった。
気持ちよさそうだな…
その心のままに私は屋上へと向かっていった。
普段、屋上を使う生徒はいない。立ち入り禁止というわけではないが、
皆興味がないのだろう。
それに今はもう授業が始まっている筈だ。屋上には誰もいないだろう。
そう思って扉を開け、そのまま屋上に出ると、先客がいた。
「…殿下、どうしてこちらに?」
授業は?と聞けば、あぁ、サボりだ。と悪びれもせずに返事が返ってきた。
そういえば、王弟殿下はエリアス殿下同様、文武両道で、人望に厚いと聞く。
だが、自由人だとも。
こんな堂々と授業をサボる王族もいるんだな…なんて呑気な事を考えていた私は
殿下がすぐ近くに来るまでに全く気が付かなかった。
「…泣くな。」
「…え、」
私はこんな事では泣くまいと我慢していた筈なのに、
いつの間にか頬に流れていた涙を殿下が指で掬った。
人前で、しかも殿下の前で泣くなんて。
そう思っても、泣いていると意識したら逆に止まらなくなってしまい、
後から後から涙が流れてしまう。
「あ、あれ?…すみません、お見苦しい所を…」
「っ、」
止まらない涙を自分の手でぬぐうも、一向に泣き止まない私を見て、
殿下は私の頭だけを抱え込むようにし、そのまま頭を撫でた。
「…今は、誰も見ていない。好きなだけ泣け。」
「…っふ、う…」
泣くなと言ったり、泣けと言ったり、
殿下が考えている事はわからないが、彼の優しさが感じられ、
私は数回しか会っていない、友人でもない相手に泣いてしまっていた。
泣き続ける私を撫でながら、殿下の視線はある一定方向に向けられ、
その視線が忌々しい
泣いていた私には知るよしもなかった。
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