14



「…う…ん…」


眩しい…


顔に眩しさを感じ身動ぎしようとするも、何かに拘束されているようで体がうまく動かせない。



ん?前にもこんなことあったような…?





「!?」


あれ?と思いながら目を開けると目の前にお兄様の顔があった。


驚いて思わず声を出しそうになるのを口を押えて留めるが、私はえ?え?と今の状況の理由を思い出す。




ふう、とりあえず、落ち着いて…


そもそも、私はいつ家に帰ってきたんだっけ?



「…ん?…ユリーナ、起きたのかな?」


全く記憶にないことを必死に考えていると、さっきまで寝ていただろうお兄様が私を見て微笑んでいた。



「お兄様、…あの、私記憶が曖昧で…、学園の医務室で寝ていたように思うのですが…」



「あぁ、そうだよ。学園から連絡あって急いで迎えに来たら、ユリーはよく眠っていたからね。起こすのもかわいそうだったから、私がそのまま邸まで運んだんだよ。


それにしても、それでも起きないなんて、よく眠れたようだね?体調は何ともないのかな?」



まさか寝ているところを運ばれていたとは…



「全く気づきませんでした、ありがとうございます。お兄様。体はもう大丈夫です」



「そうか、よかった。」



「それで、…あの、どうしてお兄様と一緒に寝ているのでしょうか?」



「ん?あぁ、それはユリーが私の裾を掴んで離さなくてね、仕方なく一緒に寝ることにしたんだよ。」



「!?!?そ、それはごめんなさい。お兄様」



寂しかったのかな?何て言うお兄様に、恥ずかしくて、申し訳なくて顔があげられない。確かに、お兄様の恰好を見ると寝巻ではなく外出用の上着を着ている。




やってしまった…などと思っていると、ふとお兄様が真剣な声で聞いてきた。



「ユリーナ、昨日は急に倒れたと聞いたけど、何かあったのかい?」



「いえ、何かあったという訳では…」



本当だ。実際、何かあったという訳ではなく、ただ考え事をしていたら急に頭痛がしたのだ。



「本当に?」



「はい。きっと元々体調が良く無かったのかもしれません」



そうだ、私は、あの時魔力が無くなってしまったのかもしれないと考えて…



「お兄様…」



急に顔色が悪くなった私に、やっぱり何かあったのかと慌てるお兄様に、そうではないと宥めるも、まだ安心していないようだ。



本当に、そうではない、そういうことではなく、私が心配なのは…




「もし、私に魔力が無くなったらどうしますか?」



元々、私が公爵家の養女になったのは、私が光魔法を使うことができ、それが聖属性かもしれないこと、容姿に変化が起こることで聖女かもしれないからということだったはずだ。



そんな私が魔法が使えない、いや、魔力がなくなってしまったなんてことになったら、もう公爵家に居られない。私は、出ていかなければならない…。



私が出て行ったらこの公爵家はどうなるんだろう?また新たな聖女候補の子を養女にするのだろうか?



「私は……、公爵家にいてもいいのですか?」




「ユリーナ!?」



「魔力がない私なんて、ただのお荷物ですよね…だから、私…」




出ていきます。と続けようとした時だった。お兄様に抱きしめられて、何も言えなかった。



私を抱きしめるお兄様の体が震えている…?




「…ユリーナ、お願いだから、出ていくなどと冗談でも言わないでくれ……」


懇願するように言うお兄様の声も震えている。



「魔力がない?だから何だ。そんなもの、あろうがなかろうが、どうでもいい。…前に言ったよね、私は、ユリーがいなくなったら生きていけないのだと。」



嘘じゃないんだよ。と言うとお兄様は私を更に強く抱きしめた。



「お兄様、本当に?私…ここにいてもいいのですか…?」



いつの間にか涙を零していた私に、お兄様は、切なくも、しかしとても優しい微笑みを浮かべ…



「あたりまえだろう?もしユリーナが出ていきたいと言っても、絶対に出ていかせないからね?」



そう言って私の涙を掬うようにキスをした。



暫くそうしていると、やがて私が落ち着いたのを見て、お兄様が今日も学園に行けるかどうか聞いてくる。



それに頷くと、お兄様はややあって私から離れ、ベッドから降りたかと思ったら、私を抱き上げた。



支度をするために私の部屋へ運んでくれるのだろう。前回は普通に自分の足で行かせてくれたのに、今は姫抱っこされている。何故だ…




「お、お兄様!自分で歩けます!」



「うん、判っているけど、今はこのままでいさせて?」



「ですが…」



「恥ずかしいなら私の肩に顔を隠すと良いよ。それに、」



私がまだユリーを離したくないんだ…。というお兄様の表情は、本当に幸せそうで、蕩けそうだった。



至近距離でお兄様のそんな顔を見た私は、イケメン耐性があるはずの自分でもわかるくらい動揺し、違う意味ですごく恥ずかしくなった。



お兄様、妹に向ける表情じゃないと思います…





お兄様がこんな風になるなんて…このお兄様の気持ちが、ヒロイン補正からくるものではなく、私自身を見て思ってくれているなら…



この世界此処はゲームなどではなく現実だと思いながらも、やはりゲームの世界なのかとどこかで思ってしまう自分がいる。



だからお兄様の私を大切に思う気持ちが、私がヒロインだからそう思うのではないか、本当の心ではないのかもしれないなんて考えてしまうのだろう。



私は、そんなのは嫌だと、胸が痛むくらいにはお兄様を好いているようだった。




矛盾している。そんなことは判っている。地味に生きたいから、攻略対象とは関わりあいたくない等と言いながら、特にお兄様には頼ってしまっている。



もうどうしようもないな、なんて自嘲する。



とりあえず、いつまでもうじうじしているのはよくない。いっそ開き直るのもありだろう。お兄様たちにこれ以上心配かけたくないし、前向きに行こう。





「あ、ユリーナ、ちょっと待って。これを…」



「これは?」



「お守りみたいなものだよ。いいかい、肌身離さず持っているんだよ」


そう言って私の首に、深い碧色の石が埋め込まれたネックレスが着けられた。


「?はい、ありがとうございます。お兄様」



どうして急に?と不思議に思ったが、お兄様が真剣だったため、素直にお礼を言う。



そして気持ちも新たに、お兄様に元気に笑顔を見せて行ってきますと邸をでたのだった。


















あぁ、そうだ、グランツアー先生に、実技はもう大丈夫ですと伝えなければ。



あの先生、実はちょっと苦手なんだよな……生徒と先生の距離感にしては近すぎではないだろうか?他の先生は普通なのに…



こないだのボディタッチから何だか鳥肌立つことがある私は、あまり先生に近づきたくないと思っていた。


お兄様の友人なのに失礼だとは思うが、苦手なのは苦手なのだから仕方ない。



嫌いという訳ではないが、親切に私を助けようとしてくれるし、良い先生なのは判っているが…



私は少し憂鬱になりながらも学園に向かうのだった。




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