13


「____、………」



「…ーナ、ねえ、どうしたの?ユリーナってば!」



「っ!あ、アマリア?ううん、何でもない」



「もしかして具合悪いの?医務室行く?」



「心配かけてごめんね、でも大丈夫だから。ありがとう、アマリア。」



「それならいいけど…」





最近頭痛が頻繁に起こり、そのせいで思考力が低下しているのかもしれない。考え事をしていると余計に頭痛がひどくなり…ボーっとすることがある。今もそうだった。



それだけならまだましだったかもしれない。












学園には魔法をいくら使っても周りに被害が出ないようとても広い競技場がある。



今、魔法学の実技を行うため、ここでA~Cクラス合同で集まっており、各属性ごとにグループごとに別れそれぞれの属性担当である教師に説明をうけているところだった。



幸い、私は光属性のほかにも属性持ちだったため、今はそのもう一つの属性、水属性のグループにいる。


友人のアマリアも水属性だったらしく、同じグループだった。彼女が一緒で嬉しい…と思っていたら、殿下も一緒だった。これが前世の妹曰く、ヒロイン補正というやつか?



攻略対象とは切っても離れられない…などとは考えたくもないが。




ふと他のグループの方に目を向けると、エリアナさんと目が合った。彼女はやはり光属性らしく、他にも光属性持ちが別クラスにもいたらしく、その人たちと一緒だった。



何だか彼女を見ていると、なぜか意識を持ってかれそうになる時がある。何をバカなとは思うが、事実、何度かそんなときがあった。そういう時は、大抵、彼女は嗤っているのだ…





水属性担当である先生の話をどこか遠くで聞きながら、私はまた考え事をしていた。



昨夜、光魔法を使うと実際の自分はどんな変化があるのだろうと、自室で実際に光魔法を展開してみたのだが…何故か使う事が出来なかった。


いや、魔法自体は発動するのだが、以前のような大きな流れを動かすことができなかったのだ。

そして姿見の鏡に映る自分を確認するも__、やはりというか、何の変化もなかった。





もしかして魔法が使えなくなった?そう言えば、光魔法の魔力を今までの様に感じることが出来ないことに気付いたわたしはうろたえた。



別に、私は聖女になりたかったわけではない。ほかに適任者がいるならそれでもいいと思っていた。


とはいえ、それでも今まであったものが感じられなくなるという喪失感、いきなり魔法が使えなくなるというのはとてもショッキングなことでもあった。



折角グランツアー先生が助けてくれると言ってたことも、この状態では必要なくなるだろう。


それはそれで先生に迷惑をかけずに済むのだから逆に良かったのだろう。





だけど、それはそれ、光魔法が私から無くなる__ということは……、



「__っ!う…」




「え?!キャアア!ユリーナ!」




また、頭痛がきた…と思った瞬間、途轍もない痛みが頭に襲ったと思ったら、そのあまりの痛みに意識を失っていくのが自分でもわかった。隣でアマリアの叫びを聞きながら、そのまま前のめりに倒れるように体が傾いていく。




瞼がゆっくり閉じるとき、私は視界の端に映ったエリアナさんが嗤っているのが見えた…





















____________________________________________





「…君がこんなことをするとは思っていなかった」



「殿下、誤解です!私はそんなことはしていません!」



「証人もいる。なぜ認めない?」



「証人って…そんな、濡れ衣です!」



「信じられないな」









___あぁ、私はまた夢を見ているのか。婚約者であるウェルミナ様をいじめたとかで私は殿下に責められている。それに対して私はやっていない、何かの間違いだと、訴えているのだ。




夢だとわかっているのに、私は夢の中の私の思考に引っ張られているのか、まるで本当にあったことの様に体験している。





どうしてこんな夢を見るの?嫌だ、見たくない。早く目を覚まさないと…



見たくないのに、夢は進んでまた殿下に断罪されるところへと行き、私は投獄される。





「ひひっ!まったく、フェリス公爵家もバカだよなあ。こんな娘一人のために王族に逆らうなんて、だから処刑されたんだ」



「本当、おとなしく従ってれば殺されずにすんだかもしれねーのによお」





「!?」


下っ端の牢兵が下卑たように話しているのを聞いて、私は頭に血が上った。


そんな、お父様、お母様、お兄様が…私のせいで処刑された!?なんで、どうして…いや、いや、そんなの…


「いやあああああああ!!」




牢屋の中で私は絶叫し暴れた。


どうして、お兄様たちは何もしていない!何も、悪いことなんてしていない!なのに、どうして殺されなければならないの!どうして!一体私が、お兄様たちが何をしたっていうの!?



「かえして…お兄様たちを還して!!還してよぉぉ!!」



どんなに還してと叫んでも、お兄様たちは還ってこない。



泣き叫び暴れる私を抑えるため、数人の男が私の牢屋に入ってくると、私を身動きできないように羽交い絞めにする。そんな私に白衣を着た一人の男が近づいてきたかと思ったら、一瞬でちくっと何かを刺した。



そのまま私は意識が暗転した_____。













_____________________________






「…ん…」



「起きたか」



「!!?え、殿下!?」



起き抜けに聞こえてきた声に顔を向ければ殿下がいて驚いた。私は夢の殿下と混同しそうになり、一瞬表情が硬くなってしまった。


違う、あれはただの夢であって、現実じゃないんだから…と自分に言い聞かせる。




「あの、殿下が運んでくださったのですか?」



「あぁ、いきなり目の前で倒れたから驚いた。もう体は大丈夫か?」



そういえば殿下も同じグループだったなと今更思い出した。



「申し訳ありません、お手を煩わせてしまい。授業も中断させてしまいましたよね。」



「いや、気にするな。それに授業も、もともと今日は説明だけだったらしい。」



だから何も心配いらない。と殿下は優しく微笑む。いつもだったら相手が違う!などと考えるところだが、今は不思議とそうは思わなかった。




「今日はもう大事をとって帰ると良い。授業もないしな」


「ですが、生徒会の方が…」



「一日くらいどうということはない。その代わり、明日、頑張ってもらおう。」


そう言って殿下はニヤッと笑った。


「ふふっ、わかりました。ありがとうございました、殿下」


不思議だ。あんな夢を見た後なのに、殿下を少しも怖いと思っていない自分に驚く。素直に笑えているのが嘘のようだ。





「フェリス公爵家には連絡してある。後で迎えに来るはずだから、君はそのまま横になっているといい。」



ありがとうございます、と返すと、また明日な。と言って殿下は出口へ向かった。



そのまままた眠気が襲ってきて私はすぐに横になる。




















彼女が完全に眠ったのを確認し、もう一度彼女の傍へ寄ると、彼女の髪を優しく梳く。



「ユリーナ、君をようにはさせない。何があっても…だから_____…」





彼の最後の呟きは


すでに深い眠りに入り始めたユリーナには聞こえていなかった。













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