「ユリーナ、今日も生徒会?」



「うん、そうだよ」




あれから数日、ウェルミナ様とのバトルが嘘のように、生徒会での時間はいつも通りだった。


私が以前よりは殿下との距離を席を遠ざけるなどして離したりしたおかげか、ウェルミナ様からの視線も少し和らいだと思う。



いつだったか、同じ生徒会で働く者同士、家名ではなく名で呼び合おう。折角なのだから皆で仲良くしようという会計のケイン様の提案で、今では生徒会に属する人たちは皆名で呼び合っている。


結局和解ができなかった私とアンカー様…基、ウェルミナ様も、表面上は仲良い態を装って名で呼んでいる。



とりあえず今のところは、ウェルミナ様からの害などもない。だが、やはり視線はよく感じるのがあってか、私は毎日生徒会室に行くのが億劫になっていた。



気にしなければいいと頭では思うものの、体がそれについていけていないのだ。自分は意外と繊細だったらしい。






入学式で話しかけてきたアマリア・オーウェン伯爵令嬢とは、名前を呼び捨てで呼び合えるくらい仲良くなり、今では親友に近い。




「生徒会の方々、本当、皆素敵な方ばかりよね~。特にクレーズ殿下とか…」


ユリーナが羨ましい。と言って頬を染めるアマリア。なるほど、彼女は殿下が好きなのか…そんなに羨ましいなら代わってほしいくらいだ。




今日も一日の授業が終わり、これから生徒会室に向かうところだった。


さて行くかと、鞄を持って席を立つ。そんな私に頑張ってね~と暢気に手を振るアマリアに、苦笑いをしながらも行ってくるね、と言って席を離れようとした時だった。



「あ!ユリーナ、後ろ!!」


「え?」



アマリアの焦った声に後ろ?と思いながら振り返ろうとした時だった。


「うわ!」


「!!あぶない!」


カシャーン!




ちょうど真後ろに誰か人がいたらしく、席を離れようとした私とタイミングが重なり、その人に思いっきりぶつかってしまったようだった。



ぶつかった私はそのまま前のめりに倒れそうになり、目の前には机が。やばい、角にぶつかる!と思ってぎゅっと目を瞑り衝撃に備えようとしたのとそれは同時に起こった。


いきなり左腕を勢いよくグイッと引っ張られたかと思うと、その反動のまま私の体は反転され、相手に抱きこまれるように抱きしめられた。



え、なに今の早業?等とどこか違う方に考えが行くも、とりあえず助けてくれたであろう相手にお礼を言わなければ。



「あの、助けていただいてありがとうございま、す!?」




未だ私を抱きしめたままでいる相手に顔を上げてお礼を言った私は固まった。で、殿下!?


やばい、こんなとこウェルミナ様に見られたら殺される。焦った私は急いで離れないとと思うが何故か一向に殿下は私を抱く腕を緩めない。寧ろ拘束が強くなったような気がするのは気のせいか。



「殿下、ぶつかってしまいすみませんでした。もう大丈夫ですので…」


放して頂けると…と言うとやっと殿下の腕が緩まった。え?放してくれないの?why?


「…君は何ともないか?」


と言って心配そうに向かい合っている状態で私の頬に手を摺り寄せる殿下。ええ!?この状況は何!?



「はい、助けていただいたのでどこもぶつけておりません」


内心パニックになりながらも何とか笑顔で返すと、そうか。と言って眩しい笑顔を見せる殿下。周りから黄色い声も聞こえる。いや、ちょっと待って、そんなことする相手間違ってない!?



ていうか早く放してほしい。と思っていたらやっと殿下が放してくれた。よかった、解放された。ふう…と息を付くと徐に殿下がしゃがみ込み、何かを拾った。



「君の眼鏡だろう?割れてはいないようだが、大丈夫そうか?」



殿下が手渡してきたのは確かに私の伊達眼鏡だった。そうか、さっきのカシャーンという音は眼鏡が落ちた音だったのか。さっき殿下に引っ張られた反動で落ちたのかもしれない。



今更ながらにNO眼鏡の素顔を晒していたことに気付く。やばい、早く顔を隠さねば。私は地味オブ地味がいいのだから。


「大丈夫みたいです。ありがとうございました。」


音のわりに、あまり傷もついてなかったようで、とりあえず良かったと思いすちゃっと眼鏡をかける。



「それで…」



「きゃあっ」




「!?」



え?




殿下が何かを言いかけたときだった。いきなり横から私にぶつかってきて、大袈裟に殿下の前で転ぶ彼女。


ぶつかられた私はまたも倒れそうになったが、今度はいつの間にいたのかアマリアに後ろから支えられて助かったようだった。



「大丈夫?」


「…うん、ありがとうアマリア。」



アマリアにお礼を言いながら、目の前でこれから繰り広げられようとしている茶番にどこか冷めた目をしつつ、ピンクゴールドの髪をもつ彼女から離れようと思うのだった。










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