3 キリクside
私には病弱な妹がいた。妹は生まれた時から病弱で、自分で歩くことも儘ならないほどで、
私は妹がベッドから出ているところを殆ど見たことがない。
顔色はいつも青白く、いつ死んでも不思議ではないだろうことがわかる。
辛いだろうに、いつも妹は、大丈夫、毎日ありがとうと、儚く微笑う。
そんな妹を見ながら私は、どうして妹が…、
いったい妹がなにをしたのだと、何もできない自分にとても腹が立った。
そして何もできないまま、妹はたったの6歳でこの世を去った。
その時の悲しみは、決して忘れることはないだろう。両親も、邸の使用人たちも皆、
最後まで心優しい妹を哀しみ、喪に服した。
「大丈夫、お兄様、きっとまた逢えます…」
それが妹の最期の言葉だった。きっとまた逢える…というのは来世の事だろう。
そうだな、来世でまた逢うことができたなら、今度こそお前をたっぷり甘やかそう。今までなにもしてやれなかった分以上に。
そして妹が亡くなってちょうど一年後、公爵家が寄付している孤児院へいつものように巡回に行くと、
一人の少女が、傍らで蹲っているもう一人の少女に向かって両手を組み、祈るような仕草をしてるのを見かけた。
いったい何をしているのだろうか、蹲っている少女は具合でも悪いのだろうか?
そう思って二人の少女に声を掛けようとした時だった。
「______っ!?あれは…まさか」
私は目の前に広がる光景に驚愕した
祈るような仕草をしていた少女の体が突如光り輝き、その眩しさに目を細めていると、その少女の紫色の髪が、金色へと変わったのだ。
いや、あれは金というより、黄金と言ったほうがいいかもしれない。
それくらい光り輝き、そしてとても美しかった。まるでその場に天使が現れたのかの様に。
その様子に魅入っていると、蹲っていた少女が笑顔を浮かべて立ち上がり、容姿の変わった少女に抱き着いた。
「ありがとう!ユリー!本当に天使様みたい!」
「…私は天使様ではないけど、ミリイが元気になって良かった」
天使という言葉に苦笑いを返す少女の髪は、いつの間にかもとの紫色に戻っていた。
先ほどの光景に、国の重要機密でもある言い伝えに考えを巡らせる。
建国してからこの国は、突如として黄金の髪をもつ聖女が現れる事があるという。
その聖女が現れる時期は決まっておらず、また、聖女が現れる時期は国が窮地に陥り、魔物が蔓延り、魔王が現れるとも。
この言い伝えがただの伝説に済まされないのは、今までにも何度か聖女が現れたことがあり、
そのたびにその聖なる力で国を救っているからだ。魔王が現れたことはなかったようだが…
その歴代の聖女は皆、言い伝え通りの黄金の髪だった。
そして聖女だけが持つといわれている、光の力…聖属性魔法である癒しの力だ。
普通の人間にも稀に光属性を持つ者もいるが、それは聖属性とは異なる。怪我などを癒すことはできるが、
ただそれだけだ。逆に聖属性魔法は癒すだけでなく、魔を払い、悪意からの異常も消し去り、この世を清浄へともたらす。
先ほどの少女の放った力は確かに光魔法だった。だがそれが聖属性魔法であるかは今の段階では確定することはできない。
髪色が変わったのは見たが、すぐに戻ってしまったのを考えると、聖女というより、聖女候補という状態なのではないだろうか。
とりあえず、この少女はずっと孤児院に居させるわけにはいかないだろう。
どこかの悪い輩にでも見つかったら、どうなるかわからない。
私は魔法で父上に急ぎ手紙を送ると、孤児院の責任者、院長を呼び出し、少女の話を切り出した。
「やはり、お気づきになりましたか。私も、もしかしたらとは思っておりました。ですが確定はできず…」
きっと院長は今までにも先ほどの光景を何度か見ているのだろう。確かに院長の手に余る案件ではある。
たまたま私が居合わせたかの様に思っていたが、そうではないのかもしれない。この院長の頭は切れるからな。
その後、すぐにやってきた父上と共に話し合った結果、少女は我が公爵家に養女として受け入れることになり、
その成長と共に、本当に聖女であるかどうかを見極めることになった。
いきなり公爵家に知らない少女を連れ帰ったというのに、母は優しく少女を受け入れた。
そして、聖女云々関係なく、私や両親だけでなく、使用人達までも、いつしかこの心優しい少女に惹かれていき、
血は繋がらずとも、本当の家族として暮らしていくようになった。
今では皆、私の妹となったユリーナに甘い。溺愛していると言ってもいい。
甘やかせば、人は傲慢になるものだ、だがユリーナはそんなことにはならず、むしろ逆に謙虚になった。
そんなユリーナをそばでずっと見ていた私は、いつの間にか妹とは違う目で見ていることに気付く。
5つ違いの妹に対してこんな感情を抱くとは、自分でも驚きだったが、愛してしまったのだから仕方ない。
何もしてやれなかった死んだ妹に負い目があるのかもしれない。ユリーナとは別の人間のはずなのに、
なぜか本能が告げる。二人は同じだと…
だがユリーナを一人の女性として愛しているのは確かだ。ならばもう私はユリーナを離したくはない。
ユリーナが望むなら、すべてを敵に回すことも厭わないだろう。
いつだったかユリーナが私から離れようとしたことがあった。話を聞けばいつか私にできるであろう婚約者に悪いからと。
本当によくできた妹だ、私はユリーナが可愛くてしょうがなかった。
いくら私のためだからと、私から離れるのは許せなかった。ユリーナが私の懇願する目に弱いということを知っている私は、
それを最大限利用してユリーナを説き伏せた。
ふふ、そんな困った顔で睨んでも可愛いだけだよ、ユリー。
そんなユリーナが学園に入学することになった。
入学式の早朝、ユリーナの貴族らしからぬ姿に一瞬フリーズし、なぜそんな恰好を…とも思ったが、
逆にこれでいいのかもしれない。
ユリーナの可愛い姿を見て、悪い虫が増えるのは避けたいところだ。
だがこの姿ならば、…と考え、何も言わず、ユリーナを送り出した。
私がそんなことを考えているとは思いもしないだろうユリーナに、私も後から入学式に向かうからねと、
いつものように彼女を抱きしめ頬にキスをする。もうずっと行っているこの愛情表現に、未だ頬を薄っすら染めるユリーナは、
行ってきます!と元気に馬車に乗り込んでいった。
ユリーナの向ける私への感情は、親愛の情しかないのは気づいている。だが諦めはしない。
私のキスに頬を染めてくれるのだから、少し過剰なスキンシップも無駄ではないだろう。
元から辞めるつもりはないが。
はやく私のもとに落ちておいで。ユリー。愛しているよ。
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