この学園のクラス分けは、1学年から3学年まで、A~Cまでと、建物の大きさの割に少ない。


魔力、知力共に、高い成績の者はAクラスから順に入る。


貴族、平民関係なく実力重視となっているため、Aクラスであっても平民が入ることもたまにある。



ただ、魔力を持つのは基本貴族に多く見られるため、学園で平民を見かけることはほとんどない。



入学費用もそれなりで、一平民に払えるような金額ではないのもある。


その代わり、本当に将来性の見込みがあるとされれば奨学金が出るという救済処置もあるため、


毎年その資質を見極めるための試験が開かれ、我こそはという平民が挙って受けに来るのだ。


だからと言ってそう簡単に受かるはずもないのだが。



噂ではかなり厳しいらしく、毎年試験が行われているにも拘らず、受かる者は数年に一人といったもの。



それくらい厳しいとわかっているのに、試験に受けに来る平民は後を絶たない。


その年に落ちてもまた来年受けに来るのだ。どうやら試験にはお金は一切かからないらしい。



その試験のための勉強ができる塾校もあって、これもまた国の慈善費用のようなもので


平民はお金を払うことなく通うことができる。



仮に、学力が思しくなく、魔力が異常に高い者は優先的に奨学金がでる。贔屓ではあるだろうが、


その魔力で国に被害を出されても困るからだろう。



そういう者は、学園を卒業と共に強制的に国の監視下に入ることになっている。


監視下と言ってもある程度の自由は融通されるが。



逆に、魔力はないが学力が著しいものも奨学金が出ることになっている。実力重視なだけあって魔力がなくとも


国に貢献できるような者は来るもの拒まずといったところらしい。


おかげで貴族にありがちな選民志向や、男尊女卑も今ではだいぶ薄くなっている。



前世キャリアウーマンな私にとってはうれしいことだ。




だがしかし。それとこれとは別だ。


と思いながら今いる自分のクラスの面子を見渡しながら私はハア~とため息をついた。


私が振り当てられたのはAクラスだった。ヒロイン補正で魔力が強いのは判っていたし、


知力もまあ転生チート含め公爵家で勉強頑張ってた甲斐あってかAクラスになるのも何となく判ってた。


その時点で気付くべきだったのだろうが、完全に私は忘れていたのだ。



攻略対象の数人と、悪役令嬢(になるかもしれない?)の彼女もハイスペックなのだからAクラスになるのだということを。




これからどう普通に過ごせるかを考えながら、皆の自己紹介を聞いていると、一人の女の子にあることに気付く。


自己紹介の際の立ち振る舞いが、貴族のそれでなく、平民特有の垢ぬけないものだったのだ。


それに名前に家名もなかった。おそらく平民だろう。



なるほど、奨学金がでるほどの魔力持ちか、あるいは魔力、知力共に優れているかどちらかはわからないが、


そういえば今年は3年ぶりの奨学生が現れたと噂を聞いたから、多分この子だろう。



どうやら周りの令嬢、令息たちもそれに気付いたようで、興味深そうに見ている。


彼女の容姿が視線を釘付けにしていることもあるかもしれない。




最初に彼女を見たときは驚いた。


彼女の容姿は、庇護欲を掻き立てられるような可愛らしい顔、ブルーの瞳。所謂美少女ということだ。


極めつけは、ピンクがかった金色の髪…いや、黄金に近い気がする。


そう、私が光魔法を使うと変化する髪色に近いのだ。



え?彼女は聖女?この乙女ゲーム、ヒロインもう一人いたの??



いや、前世ゲームに嵌っていた妹の話ではそんなことは言ってなかった気がする…


まあ、一応この世界は現実であってセーブとかできるようなゲーム世界ではないのだから多少違うことがあるかもしれない。



それに、彼女が目立ってくれたおかげで私はだいぶ影が薄くなっている気がする。よしよし。いい流れだ。



ちなみに私も家名は名乗っていないが、


私の次の次に彼女の自己紹介だったため、おかげで私の存在はむしろみんなの記憶からなくなっている事だろう。











_________________________________________






それから数日、彼女のおかげ?かは判らないが、地味に、平和に授業を受けていた私は、何事もなくこのまま過ぎればいいなあ~等と暢気なことを考えていた。


何気に友達も沢山出来た。貴族でも意外と皆フレンドリーで親しみやすく、すぐ色んな子と仲良くできた。


最初の友達は入学式のときに声をかけてきた子で、なんと同じクラスだったのだ。彼女とは意気投合し、とても仲が良い。


中々学園生活を満喫できていると思う。



そんな楽しい思いも風前の灯とも知らず…







__________________________________________



その日の放課後の事だった。



もう皆ぱらぱらと帰りだし、教室には半分の生徒しか残っていなかった。



「ユリーナ・フェリス嬢はいるかな?」




「…はい、私ですが…」



いきなり現れた人物が誰だか気付いて、私は引き攣った表情を浮かべながらも返事をし、その人物のもとへと向かう。



「少し話があるから来てもらえるかい」


「わかりました」



この目の前の人物は生徒会顧問でもある教師のグランツアー・マクドウェル先生だ。マクドウェル侯爵家と、一応貴族位は高く、


その甘いマスクに大人の魅力と相まってか、女生徒にとても人気がある。そして攻略対象者でもある。



そんな人物が自分を呼び出すなど、悪い予感しかない。ちょっと鬱になりながらも先生の後をついていく。




その私の後ろ姿を、ある人物が憎悪を込めて睨んでいることなど、その時の私は気付きもしなかった。







「話というのは、君に生徒会へと入ってほしい事なんだ。」


人気のいない図書室へと連れられた私は、開口一番先生の言葉に驚いた。



「な、何故私なのですか?」


「生徒会には、毎年成績優秀者が充てられることになっている。君の入試の成績は、クレーズ殿下と同等の一位だった。

だから、生徒会役員となってもらいたい。」



「い、1位!?そんなばかな…あの、平民で入ったエリアナさんはどうだったんですか?

奨学金で入ったのなら、それなりの成績だったのでは?彼女に生徒会に入ってもらえれば…」


「あぁ、エリアナ嬢は確かに奨学生だが、残念ながら学力は大分良くなくてね。魔力がなければ入学はできなかったはずだよ」


なんと…そうだったのか…。だがだからと言ってはいそうですかと生徒会に入るのは遠慮したい。


だって生徒会には殿下をはじめ、その側近候補の令息達という攻略対象や、悪役令嬢?の彼女もいるのだ。



「…あの、先生、エリアナさんって、聖女なんですか?」


そういえばと、ずっと気になっていたことをついでに聞いてみようと、


恐る恐る聞くと、先生は聖女という単語にピクリと眉を動かしたが、ややあって元の優しい表情に戻った。



「…確か君はフェリス公爵の娘だったね、公爵から聖女の話を聞いたのかな?まあ、とりあえず、彼女はただ候補ということだけで、聖女だというわけではないよ。

聖属性の力も確認できていないしね。……それに、君の立場も似たようなものではないのか?」



「っえ?…あの…」


最後の一言に、先生はふと表情を消した。私はその雰囲気が少し怖くなって、先生から一歩後退した。

ていうか、口調もなんか違うような…



「あぁ、ごめんごめん、そんなに怯えないで。別に脅しているわけではないよ。実は君の兄上とは友人でね、

君の事は彼から良く聞いているんだ。困ったことがあったらよろしくとも頼まれていてね。」



「そ、そうなんですか…」


そんな風に言われても、先ほどの先生の態度と余りにも違い過ぎて、困惑が抜けきれない。


とりあえず、生徒会入りはなんとか断れないだろうか…


「まあ、それはともかく、君には悪いけど、君の生徒会入りは拒否できないんだ。ごめんね。入試上位の生徒は強制になってるんだ」



「わかりました…」



今の私はきっとガーンという効果音が後ろについているに違いない。


そんな私になにが可笑しいのか、先生がクスクスと笑い出した。


「君はその恰好といい、本当に変わってるね。普通、生徒会に選ばれるということは、この学園の生徒たちにとって、

とても栄誉なことなんだよ。実力重視なこの国で、生徒会の役員であることは将来的にも有利になる。

だから、誇りこそすれ、嫌がるなんて生徒は今までいなかったのに、君が初めてだよ。」



「君がすぐに生徒会に呼ばれなかったのには、一応君の兄上からの相談があってね。聖女の力云々で君が目立つかもしれないことを嫌がっているから、

生徒会へは強制だとわかっているし、君が落ち着くまでは待ってほしいと言われてたんだ。


まあ、今回は、もう一人聖女候補がいることだし、あまり目立たずにはすんだのではないかな?

それに、事情を知る私がいた方が君も安心だろう?周りには君が聖女候補だと隠したがっているようだしね…?」



そう言って相変わらずにこにこと笑っている先生を見ながら、私は不承不承「そうですね」と返すことしか出来なかった。



とりあえず、生徒会の仕事は明日からでいいよと言われたので、私はそのまま兄や両親の待つ邸へと帰った。



そんなトボトボと歩く私の姿を、先生は面白い玩具でも見つけたかのように見つめていた。



キリクが溺愛しているというからどんな子かと思っていたけど、ふふ、悪くないね。」


あぁ、柄にもなく嵌りそうだ…。なんて呟きはもちろんユリーナに届くはずもなく。



ユリーナが見えなくなると、グランツアーは生徒会室へと向かった。明日から新しく入るユリーナの事を生徒会のメンバーに伝えるために。




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