幕間2(ジョセフ視点)


 お嬢様と学が旅立つのを我々はだだ眺めるしかなかった。本当は着いて行きたいがこの屋敷の管理を任されている身。お嬢様が帰る場所を守る為にも私は屋敷に残る。お嬢様の隣には学がいるのだ。彼ならきっとお嬢様の助けになるだろう。


 私は旅立つ彼らに背を向け屋敷向け歩き始める。学の事を思い出しながら。





 初めて学を見たのは血だらけになり我々の通る道を塞ぐ様に倒れている時だった。

夥しい血が流れており、慌てたお嬢様が駆け出し馬車に乗せ、屋敷に連れ帰る。それ程、酷い怪我に見えたのだ。


 それから屋敷で治療しようと治療出来るメイドや手が空いている者を呼び彼を見ると驚く事が分かった。


 「これって」


 誰が呟いた言葉かは分からないが見ている者を驚かせた。傷が塞がろうと何らかの力が働いているのだ。そしてそれが特殊なスキルで、その結果、目が覚めないだろうと言う事も。


 そして、目が覚める事はなく1年がたった。


 目覚めてからは、お嬢様の指示のもと学を鍛えた。お嬢様は巻き込むつもりなのだろう。復讐に。彼が異世界人だと言う事を利用するのだろう。


 異世界人。それは昔から騒乱や歴史の分岐点に必ずといっていいほど存在する。とある学者は彼らがいる時世界が変わると大袈裟に言うほどだ。


 きっと学は苦労の絶えない人生を歩む事になるでしょう。ただでさえ大きな問題を抱えているのに、こちらの事情にも巻き込むのだから。


 その為にも短い期間だが全力で叩き込んだ。泣こうが喚こうが関係ない。全てはお嬢様の為。力、戦術、危機管理、どれも基礎的な事だが叩き込んだ。そこら辺の魔物程度なら負ける事はないだろう。

 後はかだが。


 「まあ、心配ないでしょう」


 彼は何かしらのだから。じゃなければあんな訓練を受けれるわけがない。記憶を失う前の彼はきっと......いや、勝手な推測はよしましょう。


 歩く足を止め、ある人物に声をかける。


 「アナ」


 「はいはーい」


 するとまるでしたかのように現れる。

 このいい加減返事をする人物。まだ見習いのメイドである。だが、ある1点に関しては飛び抜けて凄い物を持つ彼女なら適任でしょう。


 「はいは、1回」


 「はい、分かってますよー」


 「貴方はお嬢様達を陰ながら助けなさい。もし、お嬢様が私の力を頼りたい素振りを見せた時は直ぐに知らせるように」


 「え〜」


 不満そうにしてますが拒否権はありません。お嬢様の安全を考えたら多少の犠牲は仕方ないのです。それに彼女なら気付かれる事もなく見守れるでしょう。


 「それで、お嬢様達は最初はどこに向かったのですか?」


 「......『リアノール』」


 「えー、あそこですか?」


 お嬢様が向かったのは水上都市リアノール。海に面した都市で貿易が盛んで色々な物が集まる場所だ。そして、情報も。お嬢様は情報を求めての行き先だろう。

 だが、何やらきな臭い事が最近起きてるらしい。その情報を掴んだのは目の前の彼女だ。


 「アナ、お嬢様と学の事を頼みましたよ」


 「分かりましたよ。微力ながら見守りますよ」


 私が真剣にお願いしたのが通じたのかアナも先程までのふざけた感じをやめ頷く。

 どうかお嬢様達に幸福が訪れますように。

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