Ver.7.1/第34話
ハルマとマカリナが桃の実を探す中、モカはフィールドをひた走っていた。
コナに跨る姿はいつも通りであるが、コナの首にしがみつく別の生き物の姿も見える。
「猿君。しっかり捕まってるんだよお」
先導する犬を追いかけながら、新たにお供になった猿に注意喚起を促す。むろん、言われずとも、猿はコナの首とモカの体に挟まれる位置で大人しくしているので、振り落とされることもないだろう。
犬と猿がそろっているということは、目指しているのはキジの待つ場所のはずだ。
ハルマの予想通り、犬に案内されて向かったのは、亜人系のモンスターがポップする平原エリアで、そこに猿はいた。
犬の真っ白な体と違い、ニホンザルとほとんど同じ姿の猿は遠目では見つけることができず、犬の案内がなければ相当苦労したことだろう。
昨日は、そこで時間ギリギリとなったため、後ろ髪を引かれながらもログアウトすることになっていた。
「やっぱり、山に向かってるっぽいねえ」
犬猿キジがそろったところで、何が起こるのかもわかっていないが、自然と顔はにやけてしまう。ハルマについて来て良かったと、心底思っている。
きっと、モカひとりであったなら、こんなにおかしなことに首を突っ込むことはできなかったことだろう。
他のプレイヤーが支配するエリアとの縄張り争い。
そんなことに興味はないが、魔界での冒険は通常サーバーとはまた違った楽しみがあることは、プレオープンの時から感じていた。
あの時とは、だいぶ遊び方も変わっているが、それでも存分に楽しめている。だけに留まらず、ここでしか味わえないことに関われているのだ。
心躍らないわけがない。
「見ーつけたっ!」
犬の導きに従いフィールドを駆け抜け、目的のキジがいる場所までたどり着いた。いつもであれば、気の向くままに戦闘しながらなので、山岳エリアに到着した頃には制限時間も残りわずかとなっているだが、寄り道せずに疾走し続けたおかげで、慌てる必要もないくらいの時間が残っている。
キジも、犬と猿同様、リアルで見かける野鳥としてはちょっとデカいなあという程度のサイズ感で、妙に派手な色どりと、ふてぶてしい面持ちでモカを待ち構えていた。
しかし、モカがキビ団子を所持していることを知っているのだろう。どこか期待のこもった眼差しを向けてくる。
「さーて。これで、うちも桃太郎になれるのかねえ? 男の子じゃないんだから、桃姫とかにならない? ……あ。いや、それだと、派手な恰好したヒゲ面の配管工に助けられる感じになっちゃうか」
妙なことを考えながら、インベントリからキビ団子を取り出すと、キジに与える。すると、犬と猿の時と同じく、ハートのエフェクトが飛び出し、めでたくモカのお供になった。
直後。
【称号〈慈悲なる者〉を獲得しました】
【取得条件/魔界で犬、猿、キジをお供にする】
新たな称号を獲得したのに続き、桃太郎の称号も得たことが表示された。
「魔界のイベント用だから、これといったスキルもないのかねえ? ちょっと味気ないな」
そのまま少し、何か特別なことが起こらないか待ってみたが、この場では何もイベントが発生する気配はなく、一度城下町に戻ることにした。
モカ自身も、本番は3匹を連れて魔物の砦、ダルクパラズに向かってからであろうことは覚悟しているのだ。
ただ、このまま向かうことはできないため、翌日に持ち越すしかない。
「さーて。この子たち連れて行ったら、何とかなるのかねえ?」
3匹をお供に従えた翌日。インするのが遅くなったこともあり、早速、ダルクパラズへ向かうことにした。ハルマ達と作戦会議のような場も設けはしたが、結局のところ何が起こるのか前情報が皆無なために「当たって砕けるしかないよね」となったのも理由のひとつである。
魔物の砦のあるダルクパラズでは、封魔の一族が使う結界がないため、町中であっても魔瘴の影響を受けてしまう。
そのため、モカは寄り道せずに錠のかけられた門扉へと向かわざるを得ない。
「お!?」
門扉へとたどり着くと、視界の中に唐突にアナウンスが表示された。
『魔界限定クエスト/いざ、鬼退治』
『クエストクリア条件/砦の最奥で待ち構える守護者を倒し、秘宝を取り戻せ。道中、見張りに見つかるとスタート地点に戻されます』
【クエスト達成報酬/????】
クエストの受注を済ませると、さらに説明文が表示された。
「えーと、何々? あー。この子達、このクエストの攻略に必要なのね。うん。キビ団子もこれだけあれば足りるでしょ」
クエスト内容は比較的シンプルなものだ。
最奥の部屋まで見張りに見つかることなくたどり着き、ボスを倒すというもの。
1年ほど前にあった〈聖獣の門〉における潜入タイプのダンジョンに近い。
ただ、今回は最初から見張りの位置がマップに表示されるわけではなく、キジと犬のサポートで回避していかなければならないようだ。また、錠のかけられた扉も複数あり、そちらは猿に開けてもらわなければならない。
犬、猿、キジのサポートを受けるには、毎回キビ団子を与えなければならず、サポートの恩恵を受けるにもタイムロスが発生するとのことだった。
「うー。しかし、こういう攻略って、うち苦手なんだよねえ。スパッと殴って終わりの方が楽なんだけど……。仕方ない。やるか!」
魔瘴による制限時間もあるため、グズグズしてはいられない。
モカはキビ団子を取り出し、猿に与えると最初の門を突破し、奥へと慎重に走り出した。
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