Ver.7.1/第33話

「モカさんが桃太郎だったの?」

 翌日、ハルマがインすると、待ち構えていたみたいにマカリナがやって来た。犬を見つけ、モカがお供にしたことと、どうやらモカが桃太郎の条件を満たしそうだという伝言を、使い魔に送っておいたのだ。

 ハルマも他の陣営の動きや自分達の置かれている状況を把握するよりも、確かに気にはなっている。

 ただ、モカが犬を追いかけていったのも遅い時間だったこともあり、その後の顛末はハルマも知らないままだ。

「いやー。俺も、使い魔に送っておいた以上のことは知らないぞ? あの後、すぐに落ちちゃったし。でも、俺達の予想通りのエリアにいたとしたら、どの道まだ3匹そろってないんじゃないかな?」

 如何にモカのAGIが優れていても、犬と出会った段階でそれなりの時間をフィールドで費やしていたため、その後で山岳エリアまで探索できたとは思えない。できたとしても、かなりぎりぎりだったはずなので、どんなに頑張ってもキジか猿しか見つけられていないと思われる。

「そっかー。じゃあ、早くても犬キジ猿がそろうのは今日か……。そうなると、魔物の砦の方で進展ありそうなのは、明日以降ってことね」

 どことなくガッカリした様子を見せるが、楽しみがなくなったわけではないので納得はしたみたいだ。

「そうなるだろうな」

 ハルマも、桃太郎になったモカによって、ダルクパラズでどのようなことが起こるのか、早く知りたいと思っているのだが、急かしてどうにかなるものでもない。

 そんなハルマの心情も察したのだろう、マカリナはすぐに話題を変えてきた。

「で? ハルの方はどうなの? 何か面白い変化あった?」

 当然、向けられた関心は封魔の一族の城下町での変化である。

「住人が、ちょっと太った! ……くらい?」

 ハルマは少し考えたものの、自分でも小首を傾げることになってしまった。

「は?」

 ハルマが手を貸し、農作物の収穫は増え、適正価格で商売する店が増え、城下町の雰囲気は良くなっているのだが、大きな変化はそれくらいのものだった。

 マカリナも、予想以上に苦戦していることを知り、キョトンとしてしまうのも無理はなかった。

「いやー。どんだけ手助けしても、根本的な問題が解決できないんだよなあ」

「根本的な問題?」

「城主」

「あー。なるほど」

 住人の暮らしが改善されても、増えたら増えた分だけ城主に持っていかれてしまうようなのだ。それでも、痩せ細っていた住人が減ったのだから、かなり頑張っていると言って良いだろう。

「城主を変えようと思ったら、あたしらが〈征服〉しないといけないのか……」

「そういうこと。でも、第1ラウンドから一貫して、封魔の一族の砦を攻略できたなんて話、聞いたことないもんな」

 そもそも、手を出すだけ無駄どころか、蜂の巣にちょっかいを出して集団で反撃を食らうような軍勢であることが知れ渡り、挑戦する陣営の方が稀有である。こういう所に攻め込むのは、テゲテゲ達のようなネタ系の動画配信を行っている軍勢くらいのものだ。

「いっそのこと、直接倒せたらイイのにね」

「それは、俺も考えた。でも、城下町と違って城の中に入れないんだよなあ。城下町の門番ですら通してもらえなかったから、城の門番はなおのこと無理だし。城壁の方には見張りもいるから壁を越えて侵入も無理だったわ」

「ははははは……。さすがね。じゃあ、あっちでやれることって、もう何もなさそうな感じ?」

 すでに挑戦済であることに若干呆れたものの、ハルマらしい行動でもあったので、すぐに気持ちを切り替えることができた。

「そうだなあ。後は、病気が流行ってるっぽいから、それを治す方法を見つけるくらいかな?」

「病気?」

「最初は、単純に食べるものがなくて痩せてるのかと思ったんだけど、食糧問題が改善されてもせき込むNPCが多くてさ。色々調べてみたら、新しく建てた病院のNPCが、寝込むほどじゃないけど体調が優れない人が多いって教えてくれたんだよ」

「何の病気かわかったの?」

「魔瘴病らしいよ? 結界の外に出ないと採取できないから、その時に魔瘴の影響を受けて、積もり積もって体調を崩すんだってさ。しかも、あそこの住人、重税に苦しんで無理して採取していたから、魔瘴がだいぶ蓄積されてるんだって」

「えええ……。それって、治せるの?」

「治す方法はわかったんだけどさあ……」

 マカリナの驚きに対し、ハルマも難しい顔になってしまう。

「わかったけど?」

「桃で邪気を払えばイイんだってさ」

「……また桃ぉ? え? でも」

 拍子抜けする答えであったが、はたと気づく。

 魔界で桃の実を見たことは、今までに一度しかないことに。そして、その桃の実は、すでになくなってしまっていることに。

 マカリナも、そのことに思い至り、恐る恐る尋ねる。

「桃の入手方法、わかったの?」

「ぜーんぜん」

 ハルマもお手上げといった様子だ。せめて、魔界の桃の木が実を付ければ良いのだが、花を咲かせるだけで成長は止まってしまう。スタンプの村で観賞用として置いておく分には使い勝手が良いのだが、桃の実が必要となると話が変わってしまう。

「「でも」」

 何か方法があるはずだ。

 ふたりはそれを疑うことなく、行動に移るのだった。

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