Ver.7.1/第13話

 ハルマがテスト期間ということは、チップ達もテスト期間ということである。

 如何に総大将が常に滞在している必要がないルールとはいえ、さすがに直接指揮を執れる時間が短いのは痛かった。

 スズコとの姉弟対決を意識してはいたものの、正直、短期決戦の出鼻をくじかれる格好になった時点で選択は狭められていた。

 しかし、幸か不幸か、スズコと同じサーバーであることは悪い結果とはならなかた。それだけでなく、テスタプラスというハルマ達と唯一肩を並べられる超有名プレイヤーも同じサーバーであったことで、ひとつの決断が下された。

「しょうがないわね。最終日には解消するからね?」

「ハハハ……。こちらとしても大歓迎だよ」

 チップが選択したのは〈同盟〉だ。しかも、初日で3つの陣営が手を組んだことで、このサーバーでの流れは決まったようなものだった。


 チップの決断が正しかったと知ることになるのに時間はかからなかった。スズコにしても、三者同盟を最初に結べたのはラッキーだったと感じたほどだ。

 相手はテスタプラス。

 ハルマ達4人と並んでも引けを取らない知名度であるにもかかわらず、第1ラウンドを突破した強者だ。

 その陣営には、ハルマ達のような特殊な隠し要素を解き明かした勢力はいない。

 つまりは、スズコやチップだけでなく、同じサーバーの他の陣営と似たような戦力しかないということを意味する。

 第1ラウンドでは、ハルマが当初懸念したように集中砲火を浴びることになった。しかし、それをギリギリで耐え切ってからの反撃が的確であった。

 攻め込まれた相手のデータを把握し、周囲のプレイヤーの行動パターンを読み解き、地道にコツコツ領土を広げていく。幸運にも、モカやネマキのようにテスタプラスにもファンから〈売り込み〉の申請が届いたことで、辛うじて第2ラウンドに進出したのだが、彼の本領が発揮されるのは、ここからだ。

 頼れる仲間が居てこそ、テスタプラスの未来視でも宿しているのではないかというほどの指揮能力が生きてくる。

 ただ、これは才能ではあるが超能力ではない。

 サービス開始時から変わらぬトライ&エラーの繰り返しによる蓄積。そこから読み解かれる可能性と確実性を把握することから始めなければならないので、立ち上がりからガンガン攻められるわけではない。

 その脆弱な部分をスズコとチップ陣営との同盟で軽減できたのは、テスタプラスにとっても悪い話ではなかったどころか、本人の言葉の通り大歓迎だったのである。


「ねえ、チップ。これ、逆転無理っぽくない?」

 テストが終わり、残り2日半に賭けて本格的に参戦と意気込んだものの、アヤネの言う通り3日目にして状況は一変していたのだ。

 テスト期間とはいえ、合間を縫ってインして確認していたのだが、昨夜までは突出した陣営はなかったはずである。第1ラウンドで増やした陣営はどこも10程度。同じサーバーには50陣営ほどが睨み合っていた。

 だというのに、メニューで確認した魔界の情勢は1割程度、50近い陣営が同じフラッグで支配されていた。つまりは、チップ達が眠っている間に一気に5倍近く数を増やした陣営があったわけだ。

「さすがテスタプラスさん、って言いたいところだけど……。やりすぎでしょ」

「ははは……。ボク達、テストに疲れて1週間くらい眠ってたっけ? って感じだね」

 チップ達の陣営も、仲間陣営のおかげで数を減らしてはいなかったが、ランキングでは24位と可もなく不可もなくな位置にいた。

 スズコ陣営は調子良く7位の位置につけている。ただし、3位が4陣営いる上での順位なので、かなりの好成績なのだが、いかんせんテスタプラス陣営の数がぶっちぎっている関係で霞んで見えてしまう。

「こりゃ、同盟を維持して逆転狙うより、テスタプラスさん陣営の傘下に加わった方が良くね?」

「あら。チップにしては珍しく、あっさり諦めるの?」

「いやー。オレも最後まで粘ろうとは思ってるぜ? でも、ハルマ達と違ってやれることは常識の範囲だからなあ……。一発逆転のプランとか、そうそう転がってないだろ?」

「テスタプラスさんも大概人外の性能だもんねえ」

「可能性があるとしたら、ハル君みたいに〈スカウト〉で仲間増やすくらい、かしら? ま。何はともあれ、どうやってテスタプラスさん達が陣営を一気に増やしたのか知らないことには、対策も対抗もできないでしょうけど」

「だなー。とりあえず、ねーちゃんにでも訊いてみるか」

「それに、配下になってでも第3ラウンドに残るのか、ってことも含めて、今のうちに話し合った方がいいんじゃない?」

「面倒だけど、それもそうだな。まあ、でも、テスタプラスさんの傘下に加わったとしても、報酬だけもらってドロップもできるから、そこはあんまり気を使わなくてもいいじゃないか?」

 意気込んでやってきたものの、想定外の事態に面食らいながらも、チップ達は冷静にやることリストを作成していく。

 そして、スズコに事の顛末を聞かされ、逆転するのは容易なことではないとそろって苦笑いを浮かべることになるのだった。

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