Ver.7.1/第12話

 魔界での戦いは第1ラウンドと第2ラウンドでは、がらりと様相が変わる。

 第1ラウンドでは個人戦に近いものだったのが、第2ラウンドでは団体戦に近いものに変貌するからだ。

 第2ラウンドでも〈売り込み〉〈スカウト〉〈裏切り〉〈同盟〉と、プレイヤー間の駆け引きも継続される。そのため、第1ラウンドで配下にできたといっても安心はできない。ただ、第2ラウンドも引き続き勝ち抜けた場合、第1ラウンドから配下だったプレイヤーの方が報酬は良くなるため、人間関係のつながり以外で他の陣営に鞍替えする理由も利点もあまりない。

 とはいえ、第1ラウンドの最終盤でも発生したが、勝ち抜けそうな陣営に〈売り込み〉〈裏切り〉が多発することは避けられないだろう。むろん、これによって1つの陣営が急拡大することもあれば、当てが外れて縮小陣営に転落して敗北した者も少なくない。何しろ、〈売り込み〉〈スカウト〉での陣営変更ができるのも、終了12時間前までだからだ。

〈同盟〉関係から〈合併〉によって支配下に移行する場合は6時間前まで可能であるため、思惑が大きく狂う一因となったようである。

 また、第1ラウンドでは隣接したエリアにしか攻め込めなかったが、第2ラウンドからはどこにでも攻め込めるようになる。これによって戦略の幅も大きく広がるため、前線に戦力を集中させれば良いというものでもなくなった。

 また、総大将の周囲を味方で固め、守りに徹するという戦略も、あまり有効ではなくなるかもしれない。

 ただし、遠征にかんするルールは残っているため、あまりに離れた敵地へと侵攻を試みても士気の低下によるステータスの変化によって弱体は避けられない。また、進行速度は距離だけでなく、自軍エリアか敵軍エリアかによっても変化するため、第1ラウンドと違い、集団同士が競い合う中では目的のエリアに到着するだけでも一苦労だろう。

 攻め込む陣営がいれば、そこを狙って攻め込んでくる陣営もいるのは第1ラウンドと変わらない。攻めと守りを両立させつつ、味方陣営を増やしていかなければならないわけだ。

 そして、そこに、相も変わらずNPCの軍勢が絡んでくる。

 なかなかに忙しい戦いとなるのは、予想に難くない。

 第1ラウンドよりも神経を使う戦いとなるからだろうか、期間は第1ラウンドよりも2日短い5日間で決着となる。

 この5日間で、第1ラウンドから引き継いだ陣営数も含め、もっともエリア数の多い陣営が勝ち抜き、最終ラウンドへと進むことになるのだ。

 そのため、ひとつのサーバーに再編成された陣営は、だいたい同じエリア数同士が争うようになっている。


 更に、陣営間の戦いとは別に、各陣営の城下町に大規模なモンスターの襲撃も発生するようになる。これまでは攻防戦で被害が出ることがなかったので影響はなかったのだが、襲撃の殲滅に失敗すると城下町エリアにも被害が出るようになるわけだ。

 ただ、こちらは陣営間の戦況に影響を与えるためというよりは、魔界での活動中にレベル上げやクラスの熟練度を上げる時間が減ってしまうことへの補填みたいなもので、息抜きにも近いイベントであるようだ。

 それでも、城下町に被害が出ると兵糧が賄えなくなったり、本城エリアにもランダムで被害が出る上に修復に要する時間が増加したりするようなので、手は抜けない。


 さて、第2ラウンドに入ったハルマ陣営はというと、第1ラウンドと大差なく落ち着いたスタートとなった。

 基本的に同じ規模の陣営同士での戦いとなる上に、魔界の広さ自体は第1ラウンドの500陣営程度が跋扈した時と大きく変化していない。

 つまりは、最大陣営であるハルマ達がいるサーバーには、大規模な陣営がそろっており、競い合う陣営がもっとも少ないのだ。

 で、あるにもかかわらず、ハルマ陣営は頭一つ抜け出した数を誇る。だけでなく、他の大規模陣営は第1ラウンドの終盤に〈売り込み〉と〈裏切り〉によって勝ち抜くことを選択したプレイヤーも多いため、仲間内でさえも信頼関係が構築されていないこともあり、最初から派手な動きは取りにくいという背景があった。

 ハルマ陣営を打倒するには他の陣営との〈同盟〉なども視野に入れて動く必要があるというのに、そのためのリソースをまずは味方陣営に向けなければならないのは痛い損失であろう。

 更に、第1ラウンド中、居場所を失った味方がハルマ達の城下町に避難していた際、いくつかの発見をしていたことで、ハルマ陣営の強さの秘密も明かされていった。

 当然、味方であるので、判明した内容をマネするようになる。

 中でも大きかったのが、城下町でひと際目立つ大きな宿舎の存在だ。モカによって作られたため、非常にシンプル、というよりも、拙い造りであるため、ハルマの作り込んだ街並みにあって余計に目立っていたのだ。

 そして、中に入って見つけることになる。

 地下に広がる迷宮を。そこで佇むゴーレムを。ゴーレムの足元に不自然に置かれている錬金魔法陣を。

 これとカッパーゴーレムとアイアンゴーレムを結びつけることは、さほど難しいことではない。

 ハルマやモカのように山岳エリアに余裕で到達できるプレイヤーは少ないため、魔瘴銅も魔瘴鉄も豊富には採取できないとはいえ、城門を強化するために集めている陣営は多い。まだまだ城門を強化するためには足りていないが、ゴーレムを進化させるのに使えるとわかれば、使うことを選択する陣営も多かった。というか、しない陣営はなかったほどだ。

 ハルマ達と違い、どんぶらこと流れてくる桃は見つけられていないため、SSランクの指揮官NPCによる強化は期待できないが、それなりにレア度の高いVIT特化の防御タイプ指揮官を見つけることができれば、ゴブリンによる投石と水の張られた外堀と相まって高い防衛力を発揮することだろう。

 元々ハルマへの恩返しを目的に集まったプレイヤーが多いため、奇妙な団結力をもって秘密は守られる。

 しかし、奇妙なのは、これだけ有利な状況でスタートしたハルマ陣営の動きが鈍いことだった。

 第1ラウンドのスタンスを知らない他陣営からしたら、さぞかし不気味に感じていることだろう。

 内情を話せば、単純に総大将であるハルマがテスト期間に突入したため、ログインするのを控えていただけであるのだが……。

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