Ver.7.1/第11話
「お!? レベル上がった」
第2ラウンドが始まる前日。各陣営のサーバー分けが決まるより少し前に、第1ラウンドを勝ち抜いた陣営の全プレイヤーに報酬が届いた。
陣営数に応じたゴールドと、準備期間と第1ラウンド中に本来獲得していたであろう経験値よりもかなり上乗せされて分配されたことで、ハルマもレベルが39に上がったわけだ。
これを目当てに〈売り込み〉を申請してきた陣営も少なからずいるのだから、ハルマ達としては一先ず義理を果たした気持ちになれた。
「おっはー」
「おう、おはー。リナも報酬もらった?」
同じような生活リズムのハルマとマカリナだが、家と学校との距離の関係なのか、インするのはマカリナが少しだけ早いことが多い。
「ふっふっふー。おかげで、あたしもついにレベル40になったわよ!」
珍しくVサインまで作って満面の笑みである。
しかし、ハルマもマカリナの気持ちはよくわかった。
何しろ、念願のクラスをようやく追加できるようになったのだ。嬉しくもなる。
「マジかー。いいな~。おめでとう。で? クラスはもう追加したのか?」
これまで我慢させられたのだ。早速行動に移っているはずだと当然の質問をしたのだが、それまでニッコニコだった表情が、何故か気まずそうなものに変化した。
「ん? まだギルドに行ってない、ってわけじゃなさそうだな。何のクラス追加したんだ?」
「えーと、甲冑マイスター」
「と?」
マカリナの告げた甲冑マイスターは、商業ギルドで追加できるクラスである。〈鍛冶〉〈木工〉〈裁縫〉のうち2種で熟練にまで上がっていることが条件で、このクラスを追加することで、防具類を作る時に恩恵を得ることができる。
類似のクラスに武器マイスターがあり、こちらはソラマメが追加していた。
どちらも生産職をメインにやっているプレイヤーであれば追加するのは難しいものではない。
ハルマが訊きたかったのも、商業ギルドで追加した方ではなく、冒険者ギルドで追加しているであろうクラスの方だ。
「……び人」
「え?」
早口かつ極小の声量であったため、上手く聞き取れなかった。
何事かと思ってポカンとしながら首を傾げて目を向けると、困ったような表情になった後、観念したように今度こそ教えてくれた。
「遊び人よ」
……。
「何? その極めたら賢者になれそうなクラス」
言うまでもないだろうが、ハルマも初めて耳にするクラスである。
「い、いいじゃない。色々比べてみたけど、これが一番あたし向きのクラスだったんだから」
「いや。別にバカにしてるわけじゃないんだが……、プッ! いや、ゴメン」
しかし、言いながらついつい吹き出してしまった。
「あー! もう! 名前はアレだけど、優秀なんだからね!?」
そういって語られた内容は、確かに優秀なものであった。
ステータスのボーナスは一切ないものの、遊戯系とカテゴライズされるスキルに対してボーナスが発生する特殊なクラスだ。
つまりは、遊戯系のスキルをそもそも取得していなければ追加できないわけである。そして、マカリナの持つ遊戯系スキルとは、当然〈DCG〉である。
更に、遊び人特有のスキルも取得できる。
固有スキルである〈ダイスショット〉〈ギャンブルスロット〉〈シンボルポーカー〉の3種類だ。
〈ダイスショット〉は3つのサイコロを振り、出た目によって威力の変化する物理系攻撃スキル。サイコロの数は熟練度によって増加するらしい。
〈ギャンブルスロット〉は、5つのロールが並ぶスロットを揃えることで効果が変わるスキルである。効果は主に光か闇属性のもので、状態異常や回復に偏っている。光と闇は効果が真逆ともいえる属性なので使い勝手は悪いだろうが、熟練度が上がっていけば、超低確率でジャックポットと呼ばれるとんでもない効果が追加されるとか、されないとか……。
〈シンボルポーカー〉は、シャッフルしたカードから5枚を選び、ポーカーの役をそろえることで属性ダメージ与えるスキルである。通常のトランプと異なり、シンボルがスペードやハートではなく、火風水土の属性シンボルとなっている。
また、これらの固有スキルの威力は使用者のDEXによって補正も入るため、確かにマカリナには打ってつけのクラスであろう。
戦況に応じて使い分けられるのも優秀で、〈DCG〉のコストが上がるまでの時間稼ぎもやり易くなる。
何より、ランダム要素の強いスキルのため、対策され難いというのも利点だ。
「いや……。何、それ。リナが取っちゃダメなやつなんじゃ?」
ただでさえ〈DCG〉で召喚されるモンスターは種類が豊富なため、PVPでは対処が難しいというのに、更に物理と各種属性に対する警戒までしなければならなくなったのだ。しかも、ハルマも知らされていない〈DCG〉とは別の遊戯系スキルも取得している。
とはいえ、マカリナ以外に遊戯系のスキルを見つけているプレイヤーがいるかと問われると、いないというのも、また事実であった。
しかし、この日、スタンプの村で起こった事件はこれだけではなかった。
「嘘だろ?」
「嘘でしょ?」
第2ラウンドで戦う陣営の振り分けが終わり、翌日からの戦いに向けて各サーバーの情報が公開されると同時に、チップとスズコは呟いた。
そう。ふたりの陣営は、同じサーバーでかち合うことになったのだ。
それだけでない。
「ねーちゃんはともかく、テスタプラスさんも!?」
「チップはともかく、テスピーもいるの!?」
ハルマ達と同じサーバーでないことに安堵したのも束の間、この3陣営による熾烈な戦いが巻き起こされることになった。
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